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第361話

完成した【クジ引き(ロット)クッキー】は四個。入れた模様は★、◎、▲の三種類。うち★入りの物だけ二つ作ってみた。これから商業ギルド支部長の前で試し割りです。



「支部長、昨日お話したクッキーの試作品が完成しました。一緒に仕様確認をお願いします」


「いいだろう。どれ、それがそのクッキーかね? 『フィッシュスワンプ』の辺りに伝わる運試しのクッキーに似た様な物が有ったな」


「暫定名は【クジ引き(ロット)クッキー】です。中の紙の模様が見えない様に鑑定結果を一度だけ秘匿する為のシールを貼っています」


「そこまでするかね?」


「支部長はん、これはヒト族の恋人探しイベント用に用意した物やさかい柄が揃えば似合いのカップルって盛り上がれるんよ。せやから中身が見えたらアカンのですわ」


「成る程。それは中身の模様が見えない方が盛り上がるし販売元が仕込みをしていない証拠にもなるな」


「そのシール分だけ気持〜ちコストがかかるんやけど、安心の価格って売り出せると思うとるんよ。で、引いてもらう前に鑑定持ちなら鑑定してもらおうと思うてますねん。ほな安心やろ? ついでに注ぎ足し禁止で売らなアカンけど」


「そうですね。注ぎ足したら揃わなくなりますね」


「怖〜いオニイサンが出て来て落とし前を要求されるな」


「信用を売らなアカンさかい、そこは徹底してもらわんと」


「では割るとしよう」


「今ここに五人おるんやけどね。誰が抜けるん?」



厳選な抽選というかジャンケンの結果、俺以外の男四人でクッキーを割ることになりましたよ。実験とは言え、いい年した髭オジサン達が恋人探しのクッキーを割るというのは中々シュールな光景だな。腐女子も喜ばない……だろ、コレ。


四人がそれぞれクッキーを選ぶ。割る前に商業ギルド支部長さんがテーブルの上にクッキーをワザと落としてみた。堅牢さのチェックって事だな。



「落としても完全には割れないか」


「少し中が見えても紙の中までは見えません。験を担ぐ者は割れた事を嫌がるでしょうけど」


「確かに鑑定をかけても中の模様までは分からないな」


「まぁ、割りましょか」



四人がクッキーを割り中の紙を取り出す。支部長さんはシールを剥がす前にクッキーの欠片を口に運んでいた。やはり支部長になる(ドワーフ)は一味違うな。



「美味いな」


「それはあくまでもクジ引きがオマケで入っているクッキーなので」


「つまりメインはクッキーと言う事なのだね」


「はい。中のクジ欲しさにクッキーを粗雑(ぞんざい)に扱ったらレミ神の怒りに触れると思います」



多分ね。カード入りポテチやシール入りウエハースやフィギュア入りチョコ卵じゃないけど、 

中身だけ取ってお菓子をポイはイカンのです。モッタイナイゴーストが出ます。



「支部長はん、模様を見んと」


「ああ、そうだった」



「せーの」の掛け声で四人は一斉にシールを剥がす。



「俺は▲です」

「私は◎だな」

「俺は★だ」

「自分も★ですわ。と言う事は…や」


「ラルフロ=レーンさんとカーン=エーツさんとがカップル成立って事ですね」


「嫌や!! 何でラルフロ=レーンなん」


「俺も嫌なんだけどな」


「やっぱりお二人って仲良しなんですね」


「認めへん、認めへんよ!!」



まぁ実験だし確率は三分の一だから気にしなくていいと思うんだけどなぁ…。


全員で手分けしてクッキー部分も完食した。甘くて美味しいけど何か飲み物が欲しくなった。



「これは飲み物が欲しくなるな」


「そこも込みで売り込みまひょ。飲み物を取り扱うカフェの近くで売ってもろうたり、屋台に出張してもろたらええやろな」


「卸す時の梱包は考えてあるかね? 紙の中身は保護されているとしてもクッキー本体が何個も割れていたら嫌がられるものだ」


「それならボクに考えがあります。クッキーの形をした梱包容器を作ってそこに収めて、容器の周りには【紫萌え肥やしアルファー・アルファー】を乾かして作った詰め物で押さえてあげれば割れないんじゃないかって」




そう、梱包容器のモデルは前世の紙製の卵パックです。



「梱包容器が高くつきそうだな」


「それなんですけど、木で型を作り、千切った紙を薄く溶いた糊に浸した物を型に貼り付けて作れませんか? 貼り付けた紙が乾いたら木型を外せば梱包容器になりませんか?」


「それはいい案だな」


「どこで知ったん?」


「ボクの爺ちゃん、パイクお義祖父さまではなくて育ててくれた老ドワーフがそうやって手提げ容器を作っていました」


「手提げ容器?」


「はい。蔓で籠を作ってそこに紙を貼っていました」


「それは面白い手法じゃねぇか」


「木型が貼った紙と一体化しないの?」


「それは木型を分割出来る様にすればよいかと」


「要はフェルト帽子の作り方と同じと言う事か。あれも最後は木型を分解して外す」


「フェルト帽子ってそうやって作ってたん?」


「紙が材料なら芭蕉紙の切れ端や拭き草の規格外を使えば良さそうだ」


「食いモンの容器に拭き草を使うのかよ…」


「ラルフロ=レーン、ヒト族はトイレの後に拭き草は使わないから特に問題無しですね。コストも安いのでカーン兄貴も安心して売り込んできてください」


「ちょい待ちぃな、その梱包容器って卵の輸送にも使えるんとちゃうん?」


「陶器にも良さそうだな」


「いや、ポーション瓶の輸送用でしょう」



あっ、クッキーの梱包容器じゃない方に話が進んでしまったし。何だか盛り上がってるぞ。



「それらよりも大切なものがあるな」


「支部長、アレですか?」


「アレ…、アレか」


「多分アレやろな」



「そうだ。酒瓶だ!!」✕三

「せや、酒瓶や!!」



商業ギルド支部長室内に四人が声を揃えて 「酒瓶だ!!」 の声を響き渡たらせたのだった。

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