第358話
「【終わりかけ】の研磨具合はいいんじゃないか? 形もイモ臭くないし研磨度合いも合格点だ。研磨ノートも段階を踏んで書き分けているから、買い付ける商人も次に仕事を手掛ける職人にも好評だろう」
「ありがとうございます」
「で、さぁ、石物語?これ読み物としても面白いな。しかしだ、この【終わりかけ】はそこまでグレードが高くないのに、よくまぁこんなストーリーを取り付けたな」
ほっ、褒められてる気がしない!! 俺的にも文章が黒歴史入り出来る範疇なので、あまりツッコまないでくれたら嬉しいんですが……。
「それは…ですね、恋人探しのイベント用に売られていく石なので、ヒト族の好きそうな物語を添えてあげたら渡される女性も嬉しいのかなぁ〜? と思ったんです」
「そりゃそうだな。【終わりかけ】でも女心をグッと掴む物語の一つが付いてりゃ男の目を引く」
「あくまでも、研磨中に起こった事柄を物語仕立てにしただけですけどね」
「嘘ついてる訳じゃねぇからいいだろう」
「後は宝飾職人さんにこのストーリーに合うようなデザインにしてもらえば…ってところです」
「まぁ、それはいいんだけどな、毎回ストーリーを付けるのか?」
「いえ、今回は石としてのグレードは高くないけれど、対イベントとしての付加価値という事で石物語を付けました。安っぽくなっちゃうから常にはやりませんよ」
「なるほどな。どうせならそれらしい呼び名にしちまえ。エルツテイル、ペトラヒストリア、ミネラルストーリー、何でもいいんだぜ」
「流通名を付けて、それらしさを出すんですね」
「そう言うこった」
何でこう自分で書いたのに胡散臭さを払拭できないというか、怪しさムンムンなのか分かった。アレだ。前世の健康食品や健康グッズの通販の “ 愛用者の声 ” だ。その微妙に眉唾なストーリー仕立ての手法に似てるんだ。 “ 個人の感想です ” とか “ 感じ方には個人差があります ” って画面の隅にオコトワリがあるやつだよ。
そしてラルフロ=レーンさんが勧めてきた呼び名、多分あれは未登録、未使用なんだ。俺が下手にアレコレ考えるよりあの中から選んだほうが手間暇掛からないんだろう。
「だったら【石物語】で」
「どうせなら響きを良くして【石物語】にしないか?」
「いい感じです」
「じゃぁ、商業ギルドに行くか」
「えっ…!?」
「えっ、もヘチマもないだろ? 魔法以外を登録するなら商業ギルドだ」
今回はラルフロ=レーンさんを誘わないつもりだったのに…。登録の付き添いとは言え、辻占せんべい作りの現場にラルフロ=レーンさんが姿を現したら、「何であれ呼んだん…」ってカーン=エーツさんがゴネそうな予感。
「あ、その前に【百合の星留】で質問があるんです。この【百合の星留】はアンデッドに対して鎮魂の効果があるって教わりましたが、ボクの鑑定結果に “ 鎮魂後に追悼可能 ” って出たんですが、追悼ってどんな効果なんですか?」
「チョイ待て、【百合の星留】はまだ見てねぇ!!」
「ごめんなさい」
「まぁいいさ。で、こっちは物語は無しか」
「はい。さっき質問した追悼がどんな効果か分からなかったので書くのを止めてました」
「鎮魂が二回でその後に追悼可か…。普通は鎮魂を規定の回数を発動しちまえば【百合の星留】はポロポロと砕けるんだよ。追悼可って言うのは規定の回数の発動後でもその形を保持出来るって意味だな。対アンデッドの魔道具として使用した後にアクセサリー使いが出来るぞ」
「そうなんですね」
「凄ぇな」
「あの、 “ 鎮魂三回 ” と “ 鎮魂二回の後に追悼可 ” ってどちらの方が価値が高いんですか?」
「まぁ時と場合によるわな。単純に対アンデッド戦闘用って意味なら当然三回打てる方がいいに決まってる。だが、アンデッドを祓った後に尚、形を留めて思いを馳せる事が出来るって意味なら追悼可の方が価値がある。別に冒険者が追悼状態になった【百合の星留】を装備している必要は無いぜ。『神住む社』や『送魂神殿』、『御霊の社』なんかに奉納してしまってもいい。極端な話、古代エルフに預けて死者の山に持って行ってもらう手もあるな」
「古代エルフの死者の山ですか?」
「何でも『ブルー=フォレスト』には死者と会話の出来る死者の山が有るっていう話だからな。そこには【百合の星留】を模した人工の花が飾られていてだ、風に揺られながら死者に追悼の言葉を届けているって話だからな。勿論、俺は見た事はないからな」
古代エルフの死者の山と【百合の星留】の追悼か…。オロール先生が戻ってきたら質問してみよう。
「後ですね、 “ 百合花が御印の聖女ガブ=リヨルに祈りを捧げよ ” って言うのはどういう意味なんですか?」
「ミーシャは聖女ガブ=リヨルを知らねぇの?」
「はい。恥ずかしながら」
「聖女ガブ=リヨルは純潔の象徴だ」
「それとアンデッドに何の関係が?」
「チョイ待て、そっちの説明からか。まぁ魔物や悪鬼、悪魔の類は俺らドワーフにはあまり関係ないから知らなくても仕方ないか」
前世で一般的なファンタジー設定はそこそこ知ってるつもりだったけど、この異世界で通用している設定は知らない事も多いからなぁ…。丁度いいな、ここで勉強しておこう。




