第356話
部屋に戻ったので勾玉の仕上げ研磨といきますか。アンディーは公園で遊んですっきりしたのか、室内ではしゃぐこともなく大人しく毛繕いをしている。
先ずは現状の鑑定をしてみようかな。
(簡易)
【百合の星留】:古代のユリの化石。牙状ビーズ。
(鑑定)
【百合の星留】:古代のウミユリの化石。中品質+。牙状ビーズ。ウミユリ部分を強調させカメオの様に見せる為に周囲を掘り込んである。
おっ、品質が上がっている。これはもしかしたら鎮魂が三回発動するかも…って期待していいのかな?
前世の大ヒットソング、『片想いの辻占せんべい』を鼻歌しながら仕上げ研磨を始めた。歌詞を全部覚えてる訳じゃないから、記憶落ちしてる箇所はどうしても鼻歌になってしまう。
♪ ヘイヘイ カモン オーマイ ベイビー
恋の御籤
片想いの辻占せんべい
あなたが隣の夢を見る…
UUUM YES? OK!
ハートの辻占せんべい
今日より明日はきっと吉
袖振り合うも他生の縁
奇跡、信じていい?
あなたとこの地球のどこかで逢えるかな…… ♪
まぁ、ほぼサビしか知らないんだけどね。そして歌詞が合ってる保証もないけど、間違ったからといってバラエティ番組のチャレンジゲームが終了したり、採点システムから減点される事もない。
そうだ、ビジュアル系ロックバンドの『アンデッドの館』も星留繋がりで歌うかな……。
♪ (セリフ) 悪意の森の奥深く…(省略) 貴様もアンデッドにしてやろうか!!
今宵も一人、アンデッドになる
冷たい身体 燐光溢れ
夜、暗黒の業 屍人の聲
神々背き 反魂の二律背反
ネクロマンサー ネクロポーテンス ネクロノミコン
ネクロ ネクロ 骸 ネクロ 根暗 根暗 根暗の蜜柑 ♪
流石に前世ソングを大声で歌うわけにはいかないので鼻歌&ボソボソ歌唱ですよ。
化石の周囲の掘り下げた箇所を磨く。
白いウミユリの化石部分を損なわない様に慎重になりながら、黒灰色の石灰岩部分を丸めたり千切って折った木賊で磨いてゆく。仕上げ用の木賊が勿体ないとか言ってられないし。この仕事が認められたら仕上げ用木賊が入手しやすくなる未来を信じるだけだ。
時折『汎用魔法』の『微風』で削りカスを飛ばしてやる。『換気』も掛けて空気ごと削りカスをどこかに流しておこう。こんな時は気密性の悪いドワーフ式建築が有り難い。まぁ、逆に有害物質が外部から流入してるかもしれないが。やはりあの集塵の魔道具が欲しい。俺、家を買ったら集塵の魔道具を置くんだ…。
ウミユリ周りの石灰岩部分が大分滑らか且つ艷やかになってきたので一旦休憩。今日は元気を出すためにワートの紅茶割りを作ってみたのだ。塩とレモン汁も入れてみたから簡易エナドリだな。あー、コーヒーが飲みたいなぁ……。
気分転換に髭を浮かせてみる練習をするか。髭魔法ってカテゴリーがありそうな予感。ぐぬぬぬ……浮かぬ。己に敗北感。ローマの道は一日にしてならず。俺の髭も一日にして浮かずよ。
念の為、勾玉に浄化を掛けておく。手汗は酸性だから……とか何とか言うアレね。真珠は着けたら拭きましょう、汗に気を付けてとか言うのと同じ話って事で。そこまで神経質にならなくてもいい様な気もするけど、気にしておいて損はないだろうって事ね。
前世のニトリル手袋みたいな物があればいいけど、ゴム代わりがワーム素材だったからなぁ…。ビニール代わりがクラーケンやクラゲこと【水母】でしょ? 【水母】あたりで作れればコストも安いのかな? 錬金術師が使う防護服の中に手袋もあるかもしれない。後で学園で聞いてみるか。
取り敢えず拭き草を使おう。勾玉の穴の有る側のウミユリの花部分を保護する為に拭き草を千切って巻いておく。よく揉まれた拭き草は柔らかく対象物に程よく絡むので勾玉が滑らなくていい。肌触りは高級トイレットペーパーのそれだ。水に溶けないので掴んでいてもボロボロにならないし。密かにヒト族の淑女が豊胸用の詰め物に使ったりもするみたいだ。
そして勾玉の尖った側を木賊研磨。こっち側はウミユリの軸部分だけ注意すればいい。折らない様に注意は必要だけど。調子に乗って力を込め過ぎて折ったり欠けさせたら元も子もない。勾玉を充てがうコルク台にも微粉末が飛び散っているので除去してやる。木賊の鉢植えの上でポンポンと叩いて根元に振り掛けてやれば肥料になるだろう。コカコッコの蹴爪の粉を与えていない方に掛けておかないといけないので注意。そのうち【スライムの死核】も与えないといけないな。家を買ったら木賊畑も作ろう。
そんなこんなするうちに尖った側も大分滑らかに整ってきた。仕上げ用木賊に持ち替えて研磨を続ける。持ち替えて…と言ったけど、実際はコルク台に木賊を置いて勾玉を擦り付ける訳だけどな。力加減だけ気を付ける。木賊を通して指先に伝わる感触がツルツル滑る様になってくれば完成間近。側面も手抜きせずに擦り上げればツルンとした勾玉の出来上がりだ。
穴の部分もアルチュールさんに作ってもらった棒ヤスリ二種類を使い丁寧に整える。通した紐が切れない様に…を心掛ける。直径三ミリメートルくらいの革紐なら通りそうだ。しかしこの棒ヤスリ、凄いな。アルチュールさんって見かけによらず凄腕の職人じゃないか。
ウミユリの勾玉はどんな物語を見せてくれるのだろうか。とは言え、特に苦労もしなかったからストーリーは特に無しなのかもしれない。




