第354話
今回はカーン&ホークのエーツ兄弟の視点です
――― カーン=エーツ視点 ―――
ミーシャはんに「ラルフロ=レーン贔屓、狡いわ…」と言って誂ったつもりやったんやけどね、見事にカウンターされましたわ。いや、カウンターやない、大提案や。新しいトレンドが提案されてしもたよ。嬉しいやら驚くやら……やなくてや、自分の仕事を増やしてしもうた。【飲み拳】やら【反省のポーズ】やら広めなアカンって時に更に仕事増やせって、キッツいわー。
「あーもう、どれだけ俺の仕事を増やせば気が済むのやら」
「ミーシャ=ニイトラックバーグの事? それならカーン兄貴の自業自得でしょ?」
「そんなつもりは無かったんだが」
「結果論ね。カーン兄貴、ホンマに凄腕の商人なん? ホンマは違うとちゃうん?」
「ホークに言われたないわ。あー、ないわー」
「ミーシャ=ニイトラックバーグは規格外だから仕方ないよ。俺は選任担当になってるから気にするのは止めたけど」
「だよなぁ…」
「ナオちゃんに会わせるのが怖いよね」
「何でナオが出て来る?」
「パイク=ラックの孫のアッシュ=ラックが先日、食べることの出来る紙ってのを登録したんだよ。それが実はミーシャ=ニイトラックバーグの発案品の派生で、真似して作ろうとしたら配合比率を間違えて生まれたんだって」
「それが何でナオと関係が?」
「ガルフ=トングもそうだけど、ミーシャ=ニイトラックバーグと関わると何かしらひらめくのか、新発案してくるんだよね」
「確かにそうだな」
「ナオちゃんもミーシャ=ニイトラックバーグに影響されそうじゃない?」
「まさか…」
「カーン兄貴、ナオちゃんはジョー兄貴というかジョーカー夫妻が不在の間は商業ギルドで見習い扱いで預かるんだよ。どう考えてもミーシャ=ニイトラックバーグに接触しちゃうでしょ」
「あ…、そう言われてみたらそうだな。しゃーない、諦めるしかない」
俺としたことがホークに言われるまでミーシャ=ニイトラックバーグの影響力を失念してた。ガルフ=トングはもうすぐ小鍛冶師のランクが上がるそうだし、アッシュ=ラックはあの年で早くも特殊な発案品が登録された。噂では、あのハーレー=ポーターをも走らせたとか。うん、ヤバいな。
「カーン兄貴、しゃーないって、そんな…」
「せや、こうなったらナオには何ぞ儲かるモンを登録してもろてだね、エーツ氏族にお金をバンバン流して貰わんと」
「言うに事欠いてそれなの?」
「何言うとんねん、金も名誉も転がり込むんやで」
「生々しいなぁ…。それよりさ、ナオちゃんもラルフロ=レーンの工房に入り浸ったりしてね」
「アカーン!! ア カ ン あれにナオを近付けたらアカンねん。ホーク、反省しぃ、『反省』!!」
――― ホーク=エーツ視点 ―――
一体、ミーシャ=ニイトラックバーグの頭の中はどうなっているのだろう? たまに自作品も披露してくるけど、やたら目新しい発案を提供してくる。それによって雇用も需要も生まれるからいいんだけどね。ドワーフには色んな二つ名持ちはいるけれど、俺があえて付けるなら “ ひらめきの女王 ” かな。ヒト族にはピカール=イージュインという “ ひらめき男爵 ” がいるそうだけど。
「カーン兄貴、最近ミーシャ=ニイトラックバーグ担当商人になってない?」
「あ〜〜、ホークもやっぱりそう思うか」
「有形無形関係なく発案してくるのは凄いよね」
「せやなぁ。皆で儲かるのはエエこっちゃやけどな」
「独り占めにならないのが凄いよね」
「どんだけ周囲を巻き込むんや、ってな。巻き込み過ぎて『スワロー』も大きゅうなるんやさかいに」
「まさか『スワロー』が拡大するとは思わなかった」
「今回も藪蛇やったわ。余計なモン突付いてもうたわ」
「でも、面白い商売だよ。確か『フィッシュスワンプ』の辺りに折り曲げたクッキーの中に当たりハズレを入れた運試しの菓子があったハズだけど、それに似てるよね」
「あー、有ったわ。うちの氏族の分家のコーシ氏族のよーけおるところや」
「当たりハズレも何も、鑑定したら分かるのに」
「ホーク、それは縁起物やからね、突っ込んだらアカンのよ」
「まさか、クッキーの中の当たりハズレをシールで隠すとは」
「チィとばかり金は掛かるけどな、見えんとヒト族はヒートアップするやろ」
「コストを下げようとしたら鑑定バレするし」
「『ハニー・バニー』の商品セットにパチモン防止のトラップ仕掛けとんねん。『クジ引きクッキー』にもトラップ仕掛けはって、アレ、相当やわ」
人気商品には必ずと言っていいほど贋作が付きまとう。贋作、非正規商品、パチモン呼び名は様々だけど、正規品に遥かに劣る偽物でボロ儲けされるのは正直ムカつく。改良品とか魔改造とか認可済み廉価版とかは気にならないんだけどなぁ。製作元の努力や開発費を無下にする行為が許せないからだな。
「ハーレー=ポーターは同時三点を手掛けたって聞いたよ」
「暇を持て余していた彼女が急に生き生きと動き始めたって職校も学園も喜んではったわ。卒業まで大人しうなるやろ…って話や。ほんで完成品を売って皆で潤う。エエ話しやわ。ミーシャには感謝やね」
「俺も専属するならミーシャ=ニイトラックバーグの方がいいかな」
「一回、ハーレー=ポーターの担当が当たってたんやったか」
「二回だね」
「ホークも苦労してきてたんやなぁ…」
下手に関わると山のような発案品やら改良案やらを提示してきて「もう止めてくれ…」って気分になるけど、今度は何で驚かせてくれるのか楽しみになってしまった。俺もカーン兄貴もだいぶ毒されたか?




