第349話
「ふぅ〜〜助かった。あのまま干物になるかと思ったぜ」
「もしかしてボクに『ヤブマメ』を渡しにきて魔道具に捕まっちゃいました?」
「まぁ、そんなところよ。マジで焦り過ぎて『砂嵐』打つのが間に合わなかったしな」
してやられた…って顔でそう語るアルチュールさんだけど、集塵の魔道具の集塵筒の上の方に
“ [警告!]集塵筒の近くで『砂嵐』を使わないこと!! 使用して集塵システムを破損させた場合は導入費用の全額を弁償してもらいます ”
って書いてあるし。アルチュールさんの背丈だと見えないだろうけど。
「アルチュールさん、『砂嵐』を使ったらこの魔道具が壊れちゃうみたいです。そして壊したら魔道具の購入代金とシステム導入に関わる費用を全額弁償です」
「まっ……マジかよ???」
「マジです。ここに書いてあります。見ますか?」
「いや…いい。ブルった……。ブルってヒュンってなったぞ。一瞬、縮んだかと思った……」
縮んだのは背丈という事にしておいてあげよう。うむ、武士の情けじゃ。
「ボクもこの魔道具の側で『砂嵐』を使ったらどうなるんだろう? って思ってましたからね。警告文が見えたので試しませんでしたが」
「恐らく、『砂嵐』の通信障害の部分がシステムを破損させるんだろうな。後は単純に筒が砂で詰まる」
「試すに試せませんね」
「やらねぇのが正解だな。ミーシャ、その金有ったら奢ってくれや」
実は他にも使っちゃいけない魔法が有った。水魔法と風魔法の複合魔法の『霧裂き躍度』、土魔法と火魔法の複合魔法の『灰乱打』この二つは集塵筒を詰まらせる。流石に複合魔法は簡単に習得出来ないので警告文には書かれてないんだけどね。そして集塵筒に
“ 阻害魔法の認証実験の参加希望者は魔道具協会まで ”
とも書いてあった。多分、『汎用魔法』の方に集塵システムにエラーを出す可能性のある魔法が有るんだろうなぁ。『汎用魔法』での実験は有る意味、人海戦術になっちゃうもんねぇ。
そして本題を切り出すことにした。
「実はですね、ボクはアルチュールさんに板ヤスリを正式に発注したいんです」
「ん…、材料さえあれば作れなくもねぇぞ。何に使うんだ?」
「鉱石研磨です。鉱石を研磨して宝石に仕立てるんです」
「あー、なるほどな。それで俺でいいのか? レプラコーンに頼んだ方がよくねぇか?」
「ボク、小さい人の知り合いはアルチュールさんしかいないので。それにレプラコーンよりクルラホーンの仕事の方が信用出来そうかな〜? って」
「マジでそう思ってるのか?」
「はい。報酬をお金で支払って、更にお酒を追加報酬にしたら確実にいい仕事をしてくれますから」
「ミーシャ、流石オレのトモダチ!! 物分りがいいのはドワーフの他は古代エルフだけだからよう…」
それは “ 酔っ払ってる奴ら ” だ。アルチュールさんの大体トモダチだ。
「そうだな……、アダマンタイトを研磨したりはしねぇんだよな?」
「そうですね金属研磨は無視します。魔物素材はどこまで扱うか決めていませんが、硬いものでも【バサルト・タートル】ぐらいだと思います。鉱石もダイヤモンドは研磨しないかな。せいぜいルビーやサファイアまでです」
「だったらアダマンタイト合金でいいんじゃねぇか? 魔鉄にアダマンタイトが混じった鋼材だな。それならオリハルコン合金の鏨が使えるぞ」
「じゃあ、素材と工具を揃えたら作ってもらえます?」
「うぅん〜〜〜、 いいぜ」
単純に硬いのはアダマンタイト。オリハルコンは硬さの中にも粘りがある。実はどちらも純粋な金属で使うことは珍しい。板ヤスリ用素材の配合比率についてはリンド=バーグさんに相談してみよう。
「アルチュールさんって鍛冶仕事も出来るんですね」
「オレが…っていうよりクルラホーンが……だな」
「凄い!!」
「オレらみたいな小さい種族用の武器防具は大きい種族だと作り辛ぇからな。必要に迫られたら己で作るしかねぇ」
「確かに。まだブラウニー用ならドワーフは普通に作れそうですが」
「シルキーとブラウニーはまだ大きい方だからな。クルラホーンとレプラコーンは厳しいな。後、フェアリー用も無理だろ」
「吊るしのサイズなら型さえあれば作れそうですけどね。個々に合わせた仕事は面倒くさいかな…」
「武器防具なら何とかなるけどな、その他の装備品はほぼ無理だな。素早さを上げる装飾品とか、結婚指輪とかな」
「それは無理そうです。術式はどうやって刻むんですか?」
「それはフェアリーの得意分野だ。あいつら、更にチビっこいデミ種もいるからな」
フェアリーの標準サイズがアゲハチョウくらいならデミ種はシジミチョウくらいだ。サイズで言ったらモンシロチョウよりもずっと小さい。そんなフェアリーも、魔法特化の系統と戦闘特化の系統と二種類いる。魔法特化は蝶の羽を持ち、戦闘特化は蜻蛉の羽を持つ。そして一番恐ろしいのは斥候系フェアリー。斥候系にして暗殺者のスキルを有するフェアリーで、見た目はカマキリのそれ。水陸+空中戦もこなせる美しきアマゾネスだ。ただ時折、呪われた様に入水し自ら命を絶ってしまう個体がいるとのこと。
「じゃあ、素材と工具が全部揃ったら教えてくれ。報酬は金貨一枚と酒でいいからよぅ」
「だったら、金貨一枚とお酒は二リットルくらい入る水用の樽にエールを入れたものと、いつものポーション瓶に『生命之水』を十本でどうでしょう?」
「ミーシャ、損してねぇか?」
「えっ!?」
「酒が多くねぇか?」
「そうですか? クルラホーンにもジョッキに注ぎたてのエールを飲んで欲しいなぁ……、と思っただけですが」
「ミーシャ、マジでオレのトモダチ!!」
アルチュールさんの仕事次第ではあるけれど、家を建てたら板ヤスリ製作担当で住み込んでもらいたいものだな。




