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第348話

程よく体も解れたところで作業を開始するか。心は解れてないけどね。解れるどころか変に疲弊しちゃったけど。


昨日アタリを付けておいた箇所に専用器具に取り付けた『螺旋錐(ドリル)針鼠(・ヘッジホッグ)』の尖端を充てがう。扱いの簡単なピンバイス方式。ドリルの刃を取り付ける部分はある程度までなら締め付けて固定できるんだけど、グラグラさせない為には『汎用魔法』の『着針(ちゃくしん)アリ』を併用するのが一般的。針状の物体なら固定出来る魔法なので、スカスカの壁に画鋲を打つ時に使ったりもする。あと、シロウトが木材に釘を打つ時に使ったりもするかな。外す時は『着針(ちゃくしん)アリ』の半分の魔力使用量で済む『着針(ちゃくしん)ゼロ』を使う。専用器具にドリルの刃を『着針(ちゃくしん)アリ』だけで固定しようとすると作業途中で外れたりすることもあるのでそれは禁止されている。


ちなみに糸鋸の刃を糸鋸の弓に取り付ける場合にも『着針(ちゃくしん)アリ』が使える。結構アバウトだな。


で、その『着針(ちゃくしん)アリ』なんだけど、先日のコカコッコの蹴爪から作ったボタンの時に悔しい思いをしたので取得目指して頑張っていたんだけど最近ようやく覚えた。これ、土木系のスキルかと思っていたら裁縫でも使うんだって。マチ針の固定や針山から針が抜け落ちない様に使われている。土木系と違って頻繁に抜き差しするし、複数の針を固定している中からたった一本だけに対して『着針(ちゃくしん)ゼロ』の魔法を掛けたりするので、実は裁縫専攻の(ドワーフ)の方が『着針(ちゃくしん)』魔法を使いこなしているとのこと。


俺、普段は砥石か乾燥木賊(とくさ)で研磨しているんだけど、板ヤスリが存在していることを最近知った。ただ、職人の手作り品なのでほとんど一般流通していない。荒目の板ヤスリ、中目の板ヤスリ、細目の板ヤスリ、この三種類だ。そんな、甲丸ヤスリが無いだなんて……。甲丸ってのは所謂カマボコ型の事ね。(タガネ)を打ち付けて(ヤスリ)の溝を着けていって作るから仕方ないか。目は単目と複目の二種類がある。単目はヤスリ目が平行線で複目はヤスリ目が格子状になっている。そして、甲丸ヤスリが無いショックより油目ヤスリが無いショックの方がデカかった。油目ヤスリは細目より更に目の細かい複目のヤスリの名称だ。つまり仕上げ用のヤスリね。



ゴリゴリ ガリガリ ゴリゴリ…… 前世のドリルより軽い音で石灰岩が削れていく。『螺旋錐(ドリル)針鼠(・ヘッジホッグ)』のドリル刃は『魔鯨(モビィディック)』から採れる油を使うという条件があるもののアダマンタイトに穴を開ける事が出来る強度がある。理論上はルビーやサファイアといったコランダムに水も潤滑油も使わずに刃毀(はこぼ)れなしで穴を開けることが出来る優れものなのだ。なので石灰岩程度ならゆっくり作業すれば何の問題もない。早く回しすぎるとドリル刃じゃなくて鉱石の方が割れちゃいそうだよ。


フッと息を吹き掛けたいところをグッと我慢して『汎用魔法』の『微風』を掛ける。穴を開けている場所からフワッと微粉末が上がり集塵の魔道具に吸われていった。開いた穴は鉱石の厚みのほぼ半分。ここで一回休憩を入れることにした。



「おーう。休憩かー?」


「はい」


「しかし器用なもんだな」


「まだまだですよ」


「いや、そうじゃなくてよう、砥石と木賊(とくさ)だけでよくやってるって事な」


「もう少し便利な工具が欲しいところですが」


「便利な工具っていったら板ヤスリか?」


「板ヤスリは職校だと取り扱わないからな」


「そうなんですね。便利な工具なのにどうして取り扱わないんですか?」


「板ヤスリは自作するモンだからな。使う職人も使わない職人もいるんだよ。現状だと板ヤスリを使う親方に作り方を教わるしかないからな」


「発注したら高く付くしなぁ…」


「目の細かいヤスリだと尚更よ」


「使ってみたかったけど無理っぽいんですね。残念です」


「おーう、目の細かいやつなら小さい奴らに頼めばいいじゃねぇか」


「でも板ヤスリの幅が狭くならないか?」


「違いない」



いや、小さい板ヤスリでいいから俺は欲しい!!



「小さい奴らですか?」


「ほら、デミ種のフェアリーとか体の小さい種族がいるだろ?」


「あ〜、金剛砂の(ふるい)分けとかをお願いするデミ種ですね」


「おーう、それそれ。俺等は金鉱石から飛び散る極小の砂金回収や、工芸品の金箔剥がしを頼んだりしてる」


「小さい奴らに知り合いがいたら何とかなるかもな」


「小さい種族……あっ!!」


「いるのかよ知り合いが」


「気のいいクルラホーンに知り合いがいます」


「よりによってクルラホーンかよ。あいつら酒をくすねるだけだぞ。ちゃんと働くかぁ?」


「いい情報、ありがとうございます」


「おーう、気にすんな」



板ヤスリ情報を手に入れた。簡単には手に入らないという事実も手に入れたけどな。




「よーうミーシャ、助けてくれよーう」


穴開け作業を再開しようと作業台に戻ったら何処かで聞いたことのある声がした。



「♪ これ、集塵の魔道具 集められるのはゴミクズ。


俺と囚人の魔道具 集められたクズじゃねえ。


でもこの魔道具 煙たがられるゴミクズ集める


吸われた煙 何処に行く?


吸った煙、肺に行く High!! 」



相変わらずの謎のラップ節だ。



「♪ 勇者の見る夢 救世


俺の見る夢 酒精 


明日の天気は 快晴 」



「アルチュールさん、歌も軽やかでお元気そうでなにより」


「元気じゃねぇ…助けてくれー!!」


「何やってるんですか?」


「何ってミーシャに『ヤブマメ』持ってきたらよう、魔道具に吸われてこの有り様よ。恐ろしいな、この『囚人の魔道具』……」


「ちょっと待ってて下さいね、今助けますから」



集塵の魔道具に吸われて身動きの取れなくなっているアルチュールさんを救出したよ。これひょっとしてフェアリーなんかも吸い込むんじゃね?



「『ヤブマメ』は仲間と四人で集めたからな。ちゃんと喰えるマメ採ってきた。カビたのは入ってねぇから安心だぜ」


「ありがとうございます。報酬のワインです。あとアルチュールさんのお嫁さんには甘くしてあるワインを用意しました」


「ありがてぇ」


「ところでアルチュールさんって金工作業って出来ます?」


「金工ってアレか? 金属をハンマーとかでカッチンカッチンやる」


「そうです」


「やれなくはないけど、俺はクルラホーンだから作る物のサイズがちっせえぞ」



これは油目の板ヤスリを頼めそうな予感ですよ。

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