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第345話

講義や実習の連絡事項が貼られるボードに


“ 十一の月・第二週・一の日に最初の炭焼き窯を開けます。受講生及び黒スライム飼育者、見学希望者は午後一時に初級用炭焼き窯の前に集合すること ”


と張り出されていた。窯開けってそんな一大イベントなの!? 黒スライムはお掃除係なんだろうな。趣味か仕事か知らないけれど飼育してる(ドワーフ)がいるんだ。



来週、第二週は刺し子の針を作る。そしてラルフロ=レーンさんから請けた仕事を納品だ。学園はサボりっ放しなのでカレーの研究が一向に進まないよ。あ、ハーレー=ポーターさんとの打ち合わせもある。来週はそんな感じか。



アンディーを連れてパイクお義祖父さまの家に到着。


ムキュウ キュウキュウ

(「ますたーと おかえりちたの」)


アンディーがピョンと飛び出すとドアの上に乗る。そこから滑空し俺の頭に着地。すかさず背中に回り込む。あっという間に背中装備=カーバンクル座布団の出来上がりだ。そしてモチョモチョと俺のツインテールを毛繕いし始める。これが非戦闘系従魔ならではのマイペースなのか? まぁ、可愛いから許す。


グリーティングカードは明日の夕方までに完成していればよいとのこと。明日が職校に依頼した新年飾りの締切日。十の日に商業ギルド内で検品作業が行なわれ、特に問題がなければ即日発送される。


夕飯も楽しんだので寮に帰って研磨の続きをすることにした。



「茹でたパスタを冷水で締めて水気を切ったら、パスタみたいに長めの千切りにした野菜と合わせて、ドレッシングや冷やしソースなんかとよく混ぜても美味しいですよ」


「まぁミーシャさん、早く言ってくださいな」


「本来なら暑い時期向けって感じですけどね」


「なに、暖かい部屋でよく冷えたエールと一緒に食べれば問題ない」


「じぃじの出番です」


「それなら野菜がたっぷり食べられるわ。ね、リュート」


「まぁ…、その時が来たらだな」


「儂は今から楽しみで仕方ないのう」



サラッと冷製パスタをアピールしておく。別に極細麺(カッペリーニ)でなくても美味いしな。そう言えば春雨サラダってものも有ったわ。春雨、キュウリ、ハム、マヨネーズ、有れば錦糸玉子。大丈夫、材料は全部揃えられるぞ。




(「アンディー、パイクお義祖父さまのお家は楽しかった?」)


(「たのちかったの またいくの」)


(「ボクのお義祖父さまのお家だから、時々遊びに行こうね」)


(「いくの いくの」)


(「ボク、これから作業するから邪魔しない様に遊んでいてね」)


(「わかったの」)




俺が作業を始めるとアンディーは巣箱(ケージ)と登り梯子で遊び始める。巣箱(ケージ)の天板の上からベッドにダイビングしたりベッドの上で丸まって休んでみたり。俺の本音としてはアンディーのことをジックリ観察したい!!



コルク台の上に置いた木賊(とくさ)の上で軽くゆっくりとロードナイトを擦り付ける。一号から順番に研磨するか。擦り付けるうちに白っぽい粉が木賊(とくさ)に付着する。水を使う研磨ならここで水を数滴垂らして鉱石を木賊(とくさ)に押し付ける様に動かし、白っぽい粉の混じった液体を絡める様にしながら研磨するんだけど、今回はロードナイトなので水を使わない “ から研ぎ ” でいく。木製品なんかも水を使わない “ から研ぎ ” で仕上げしていので特段珍しい事でもない。白っぽい粉は鉱石の削れた微粉末だ。それ自体が研磨剤の代わりになるので水を使う場合は作業終りまで洗い流しちゃダメなやつね。木賊(とくさ)全体が白っぽくなったら少し力強く擦り付けていけばいい。


そして “ から研ぎ ” の欠点はサンドペーパーが目詰まりを起こすこと。紙の裏側からポンポンと指で弾いて研磨カスを落としてやるとか、耐水ペーパーなら濡らして研磨カスを落とすとか出来るんだけど、サンドペーパー側の研磨剤が削れて失われたものはどうしようもない。水を垂らす研磨よりサンドペーパーの消耗が早いと思う。まぁ、サンドペーパー自体消耗品だからそこは諦める訳だけど。


今回は “ から研ぎ ” の途中で乾燥木賊(とくさ)を少量の水を使って水洗いする。ロードナイトの研磨カスの混じった水に『汎用魔法』の『金属除去』を掛けてマンガンを分離除去してやる。その水を鉢植えの木賊(とくさ)に与えるのですよ。勿論、職校でロードナイトを拭いた拭き草にも『金属除去』を掛けておく。金属汚染さえしていなければ竃に焚べても大丈夫だろう。完全に木賊(とくさ)の “ 目 ” が潰れてツルツルになるまでは使う予定なので、濡らした物は『乾燥』で乾かす。魔法万歳!!



一号は濃いピンクと淡いピンクがいい感じのコントラストになった。加えて黒い部分がいい感じの味わいを醸し出している。卵型になったのは怪我の功名ということにして、その経緯をストーリー仕立てにして書き留めておく。宝石にはドラマが付き物。前世だったら呪いのダイヤこと『ホープ・ダイヤモンド』とか、実はスピネルだった『黒太子のルビー』とかが有名。


二号は研磨前は斑のピンクが下品な感じだったんだけど、少し湾曲した桜の花びらみたいなハートカボッションカットにしたらクールな感じに纏まった。恋の花占いとかってあるから、それとストーリーを関連付けてみよう。恋の花の散り際か…。【終わりかけ】なんて呼ぶより【恋の散り際】って呼んであげた方がクール感が増しそうだ。


三号はシャープなフォルムの中にも儚さと上品さが同居する仕上がりになった。前世の結構昔のお酒のCMに「恋は遠い日の花火ではない」とか何とかのナレーションが流れる物があったらしい。会社の飲み会でそんな懐かCMの話をしていて上司がいたな。という事で、三号のストーリーは “ 恋が遠い日の想い出になる前に… ” ってことにしておこう。もしかしたら流れ星に関する伝承とかがあるかもしれないから、それが有ればそこもプラスで。

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