第344話
鉱石研磨に夢中になっていて大事な事を忘れていた。三毛皇さんに献上する新年飾りに添えるグリーティングカードの絵を描いてない!! 紙は商業ギルドで買った物を使うと失礼が無いだろう。前世で有名どころのキャラクターを描く訳だけど、お腹にマジックバッグのある青いタヌキっぽい猫型ゴーレムと、その両側を固めるのはネズミだな。ピカピカ鳴く黄色い電気ネズミと………あれか? 描くのは黒丸三つ並べるだけで簡単なクセに下手に関わると金が湯水の様に出ていく危険な出銭ネズミ。あとは髪型が特徴的な海鮮一族の長女。オッスおら満月で変身する猿のライカンスロープは似せて描けるだろうか? 公式キャラ絵を見れば「それ◯◯」って言えるけど、それを真似て描けるかはまた別物だわ。人間の記憶って結構あやふやだった。クイズ・記憶で描きましょう、って感じだよ。画伯への道だな。
そして次元収納への道を教えてもらった。ありがとう未来の精錬王!! 『キーボックス』だけでなく次元収納も種族特性なの? そう言えばオロール先生もアルチュールさんもごく当たり前に次元収納を使っていた。オロール先生は古代エルフなので総魔力量は多そうだから覚えていてもおかしくはないけど。
時空魔法の『髭魔泊』。空間魔法の『飛空髭』。『汎用魔法』の『髭陣』。早速、今日のお風呂から髭を意識してみよう。どれを覚えるのがいいのかなぁ…。
名前の響きだけだったら時空魔法の『髭魔泊』に興味津々よ。俺的には時空魔法と空間魔法の差異が今一つ分かっていない。
未来の精錬王の二人が 「こんな魔法があるぜ」 と教えてくれたんだけど、時空魔法には『超時空洋裁・魔布』とか『時男掛ける如雨露』とか、変な名前の魔法があるのだと言う。(前略) 魔布は魔法の布を掛けた物体の鮮度が少しだけ戻り、(前略) 如雨露の方は水を掛けた物の時間が少し早く流れるのだとか。
空間魔法なら『空間場』という足場や壁と言った空間障壁を生み出す魔法や、『個人空間』と言う魔法を使用した者を中心に個人スペースが展開される魔法、『亜空間殺法』と言う攻撃補助魔法なんかがある。『霊感詳報』と言うアンデッドに関する魔法もあるし、空間魔法の管轄はある意味で謎過ぎる。
{ ―― 『汎用魔法』なら『髭空納放浮』もありますよ ―― }
あ……ヤーデさん、追加情報ありがとうございます。それ、多分マイナーな魔法だと思います。時々天の声も授けてくれるし、後でお礼の気持ちを形に変えて奉納しないと…だね。
そうだ、ウミユリの化石の勾玉の穴開けの下準備をしておこう。先ずは作業台にコルク板を置く。コルク板は程よい弾性と滑り止め効果があるので研磨作業にとても便利。異世界にはゴム板が無いからその代わりだ。ゴム板も無いけどカマボコ板も無いしな。カマボコ板は研磨作業で耐水ペーパーを置いて仕上げ磨きをする時に便利なのよ。
『螺旋錐針鼠』の棘を専用器具に取り付ける。コカコッコの蹴爪のボタンでお世話になったドリル刃です。穴開け前にやっておくのが穴開け位置を決める事と、目打ち等の先端が尖った工具でアタリを付けておく事。木材だったら穴を開けたい箇所に目打ちを打ち込んでやれば二〜三ミリの穴が穿たれるけど、相手は鉱石なのでそんな乱暴な事はやれない。石灰岩なので目打ちの先端をグリグリ押し付けてやれば少し穴が空きそうだけど。一ミリも開けばそこにドリルの刃をセット出来る。最初の何回しかの時にドリルの刃が滑らない為の穴だしな。大胆な人はいきなりドリルの刃を当てて回し始めたりするけど。
で、回りくどくなったけど、そのアタリの穴を作る為の目打ちグリグリ作業にコルク板が必要なのです。再生コルクでも問題ないし。再生コルクは馬車の車輪のクッション材に使われたり、椅子の座面やベッドの底板なんかに使われている。
少し穴が掘り進んだところで終了する。ここから先は明日の作業。陽も陰ってくるし集中力も落ちてくる時間帯だ。そもそも納期は “ なるべく早く ” なので今日は無理しなくていいな。四時を回ったばかりだけど終了しよう。そして細かい番手、#2000耐水ペーパー相当の木賊を探すんだ。
「お先しまーす」
「おーう、お疲れー!!」
「髭、頑張れよ!!」
お風呂に入ったけど髭は浮かない。時空魔法の『髭魔泊』と『汎用魔法』の『髭空納放浮』を意識してみた。選んだ理由は魔法名の響きだよ。後、マイナー魔法に憧れる中二心だよ。そして試すだけでゴッソリ魔力が持っていかれる…とかは無かった。そんなに簡単に生えてこないって。
「目標をセンターに入れてスイッチ」…とか呟きながら射撃の練習をする方法があったな。髭をセンターに入れてスイッチ? 違う、髭をセンターで浮かせてスイッチ?
お風呂の洗い場でやるネタではないよなぁ…。
♪テテレッ テッテレー テテレッ テッテレー (奇術のテーマ)
「髭が浮いていきます」
「段々と髭が浮いていきます」
うわーー えぇ〜〜っっ!?
「今、完全に髭が浮きました」
「マジオーラパワーです」
前世のTVで人気を博した奇術師ミスター・マジオーラの真似をしてみたらどうだろう…? なーんて思ったけど当然ながら髭は浮かない。これ、風呂で練習する必要ないじゃないか。
事務室に朝に砕石場の事を教えてくれた職員さんがいたので木賊の事を聞いてみた。仕上げ磨き用の木賊宝飾のコースの生徒か鍛冶師のコースの上級生でないと使わないので購買部には常備してないのか。俺の研磨途中の鉱石を見せて買わせてもらえるか交渉することにした。
「仕上げ磨き用の木賊無しでここまで磨いたのか」
「砥石なら少しだけ持ってるんですが、【愛の囁き】も石灰岩も柔らかいので出来れば木賊で仕上げ磨きがしたくて…」
「納期は明日だっけ?」
「いえ、明日ではなく “ なるべく早く ” なんです。明日で四つ研磨は終わりそうにないです」
「それなら無理しないこと。週明けでいいから納品前に必ず見せに来ること。この二つを守るなら仕上げ磨き用の木賊を売れるよ」
「ありがとうございます」
「木賊の苗は持ってる?」
「はい。庇護養親から渡されました」
「それもしっかり育てる様にね」
#2000耐水ペーパー相当の乾燥木賊をゲット!! これで部屋でもロードナイトが磨けるよ。




