第339話
うん、おかしいぞ、俺……こんなに乾燥木賊を買ってたっけ!? 寮の部屋で『次元収納』をチェックしていたら記憶にある以上の乾燥木賊が出て来て焦ったよ。まぁ、バンバン使う物だし無いと困るからいいんだけど。
研磨ノートの【愛の囁き】と【百合の星留】をスケッチしておいたページを開き取り出した鉱石と比較確認する。特に変更点は無いな。ロードナイトが酸化で黒変するといっても数日で変わるものでもないしな。砥石がだいぶすり減ってしまっているな。そのうち補充しないといけないな。
う〜ん、部屋で何個も研磨したら粉塵が気になるな…。しかも【愛の囁き】はロードナイト、化石は炭酸カルシウムなので極力水で濡らしたくない。外か……それとも職校内に都合の良い場所があるかな? 困った時は事務に聞きに行くのが正解だな。
「すみません、ボク【愛の囁き】と石灰岩を研摩したいんですけど、職校内に作業場ってありますか?」
「鉱石研磨ね。水を使うか使わないかで作業場が変わるよ」
「水を使わない作業です。水濡れに弱い鉱石なので」
「だったら砕石場がいいね。採掘してきた鉄鉱石を砕く為の場所があるよ。岩塩を切ったり割ったりするのなら岩塩専用の場所もあるよ」
「ありがとうございます」
「外で取ってきた仕事かな?」
「はい、そうです。ヒト族向けの新規イベントに使うアクセサリーに使うという事です」
「ドワーフは【赤薔薇】呼びするからね。その呼び名だったらヒト族売り用で決まりだよ。どこから請けたか聞いていいかな?」
「魔道具を取り扱うラルフロ=レーンさんから依頼されました」
「おや、いいところからの仕事だよ」
「そうなんですか?」
「おや、知らないで請けたのかな?」
「いえ、ボクは前にもラルフロ=レーンさんに何個か研磨品を買い取って貰っていまして、その事もあって直接依頼されたんです」
「それだったら納品前にその研磨品を見せてもらえるかな? 学生の評価に繋がるよ」
「わかりました。今週の九の日でもいいですか?」
「私に見せるのなら終業時間までにだね。時間外でも誰かしら残っているから見せていけばいいよ」
「ありがとうございます」
「砕石場は奥の方だよ。共同浴場のある所から更に外側だからね。砕石場に近付くと空気の流れが急に変わるから多分分かると思うよ」
「空気の流れですか?」
「職校内に粉塵が入らないように風起こしの魔道具で空気の流れを変えているからね。作業するなら風上に陣取らないと苦しむ事になるね」
「教えていただきありがとうございます。助かりました」
「頑張っておくれ」
教わった砕石場に向かうとガッチンガッチンという音が聞こえてきた。誰かが鉄鉱石を砕いているらしい。砕石作業で汚れたり汗塗れになっても直ぐにお風呂に入れる親切設計ですよ。そして砕石場に近付いてみれば確かに空気の流れが変わった。砕石場方向に向けて風が流れていってるよ。
砕石場に壁は無いけど屋根は有る。よく見たら屋根を支えている柱には鎧戸を下げる為の金具が付いているので、天候次第で鎧戸を下ろすんだな。そして、砕石場の中心には不思議な筒が設置されており、そこに向かって風が流れていた。どうやらその筒が排気ダクト的な存在らしい。なので、作業するなら極力外側で…って事だな。ただ、中心に近いほうが空気の吸引力も強いので作業内容によっては筒に近い方がよいんだろう。
今日は砕石場の端、つまり鎧戸の柱に近い方で二名のドワーフが鉄鉱石を砕いている。これだったら二人の反対側に陣取れば中心寄りで俺が作業しても大丈夫じゃないかな?
「おじゃまします」
「おーう。見ない顔だな」
「アクセサリー用の鉱石を研磨しに来ました」
「おーう。ガッチンガッチンうるさいけど気にするなー!!」
「気になるなら耳栓もあるからな」
「ありがとうございます」
耳栓の事を教えてくれたドワーフが棚を指差している。そこに耳栓があるって事だな。見に行ったら耳孔に詰めるタイプとヘッドホンの用に外耳を塞ぐタイプと二種類があった。棚には “ 耳栓の使用前後には『浄化』、『汚れ落とし』等を使いましょう ” という注意書きの書かれた紙が貼ってあった。まぁ使い回しなんだから『浄化』は大事だよな。両方試してみると俺はヘッドホンタイプの方が煩わしさを感じなかったのでそちらを選択した。
排気ダクトであろう筒を見てみたら下の方に水らしき物があるのが見えた。どうやら粉塵を風に乗せて集塵した後に水を通すことにより沈殿収集させている模様。とは言えこれは魔道具なのでどういう原理になっているのかまではよく分からないけどね。
ロードナイトを順番に研磨していく事にした。前回の鑑定結果では、
【愛の囁き】1:心変わり中。中品質
【愛の囁き】2:心変わり中。低品質
【愛の囁き】3:心変わり中。低品質
これ、一号から順番に研磨したら途中でモチベが下がりそうな気もする。特に二号の時にな。だったら二号 → 一号 → 三号の順番にしようかな。締めはウミユリの化石で決まりだ。
ノートを取り出し、二号の研磨を開始する。最初は底面を平らに整えるところから。ここは順番を気にせず一気に三つ分を済ませた方がいいな。下手に大きな傷を着けてしまうと後から消すのが大変なので中程度の粒度の砥石を取り出し、ゆっくりと鉱石を動かし研磨を始める。砥石全体を使うようにし、クルクル大きく丸を描くように動かしてやれば軽く粉塵が立ち昇る。それがスーッと風に乗り集塵筒に向かって流れていく。この魔道具、チョー欲しいんですけど………。




