第328話
「…という感じでじゃな、ミーシャが冷しエールを関所の集落で広めたのじゃよ」
「それは親父様の総魔力量も増えるわ」
いやもう恥ずかしいから止めて欲しい。
「ミーシャねぇね、すごいです」
「ヒラメキが凄いわよ」
「お義父さんを振り回すとは、やるわね」
「いえ、そんな…」
誉められてる気がしねぇ!!
「いいじゃないか、昔には 「やらかさなければドワーフに非ず」 と言った氏族もいたくらいだし…」
なにその平家理論。
「ねえ、ちょっと。その名言は過去の迷言よ」
リュート=ラックさんのその言葉を聞いたリズ=タイラーさんが不機嫌そうに口を尖らせる。
「リズ、違うんだ!! 今のタイラー氏族はそれと関係ないから!!」
その昔、カークウェイ=エーツが活躍するよりも前に 「やらかさなければドワーフに非ず」 という格言を必ず口にする『タイラー氏族』という氏族がいたのだ。まぁ、良くも悪くもドワーフらしさを表す格言なんだけど。
その格言が特に口癖になっていたドワーフの名がキーオ=モーリィ=タイラー。ドワーフでは珍しいミドルネーム持ち。でも、発案・発明・開発よりも戦闘&探索が三度の飯より好きな職業=冒険者なあたりが残念な人だったりする。いやお前、やらかし云々以前に製造してないじゃん…。そんなキレるキーオ=モーリィ=タイラーを止めるのがシーゲン=モーリィ=タイラー。キーオ=モーリィ=タイラーの息子さんです。
まぁ他にも、ノリス=モーリィ=タイラーとか、アーツ=モーリィ=タイラーとか、コーレ=モーリィ=タイラーとか、ジンゲ=フィーラ=タイラーとか、女傑のトッコ=タイラーとかが居るんだけど詳しくは『タイラー氏族物語』を読んでね、って事ですよ。あとタイラー=マーサ=カドゥはタイラー氏族だけどこの「やらかし云々…」とは関係ないので注意だ。
でも、やらかし発言の氏族だけに発案・発明はバチバチにやっていたとの事で、帆船を魔導エンジンでの動力化を研究してみたり、ゴーレムを研究しようとしてみたり、二連装式の弩弓を開発してみたり、その他にも細々とした発明品を作り上げていた訳ですよ。氏族のマークは『アゲハ蝶』。イモムシが華麗に転身する姿を、粗野でがさつな素材が美しい道具や武具に生まれ変わる事象に投影したそうです。ちなみに俺の『黄金虫』マークは過去に使われてなかったのでトラブルなく登録出来た訳でした。
で、イキリすぎたキーオ=モーリィ=タイラーと衝突したのがエルフ族。それもピュアエルフ。むこうは採掘だ開発だ…なんかより自然と共存しつつ魔法を極めんとしたい訳で、そのせいで戦争とまではいかないものの “ 小競り合い ” が起きちゃった訳ですよ。言うならば紛争ってやつか? それとも抗争? その時にピュアエルフ側で戦いに名乗りを上げたのがグェン=ジィ一族。タイラー氏族のアゲハ蝶の旗印に対抗して『タケリンドの花』を旗印にしてくる辺りが謎の対抗心だな。タケリンドは藪の中でも明るい紫色の鏃に似た形の花を着ける植物。弓を扱うエルフの間では人気の花だ。
まぁ、タケリンドはさておき、ドワーフとピュアエルフの小競り合いは数年間に渡り続くわけなんだけど、その間に兵糧としてドワーフ側は【茄子花芋】、ピュアエルフ側は【マンナ芋】を手に入れ使いこなしたという。【マンナ芋】は腹持ちするけど栄養価は低いけどな。そしてどちらの芋も毒に注意する必要がある。まぁ、レミ神が小競り合いを終結させるために毒芋を遣わした…という説もある。実際は終結前に実用化してしまった訳だが。そしてこの時に利用の仕方を確立させた【マンナ芋】が後にエルフとヒト族の争いの時の兵糧として役に立った訳だしなぁ…。
グェン=ジィ一族側ではグェン=ジィ=ヨーリン=トッモとか、グェン=ジィ=ヨッシー=ツニとか、キーソン=ヨシナ=カーンとか、グェン=ジィ=ヨッシー=イェンとか、グェン=ジィ=ターメン=ヨッシーとかが登場してくる。何れもが勇猛果敢な戦闘一族。弓はバンバン打ってくるわ魔法は使うわ近接攻撃も出来るわで、ドワーフ側、タイラー氏族は苦労した。海無し領のピュアエルフを挑発しようと船に乗って水上戦を仕掛けようとしてみたら、矢を射掛けられて船を沈められたりするしな。そもそも泳ぎが苦手なドワーフは海に出ちゃダメなんだって。
それで、暫く小競り合いは続いたんだけど、双方疲れちゃったと言うか見解の相違を認めたと言うか、まぁ争ってても良いことがない事に気付いたので終戦した…と。これがタイラー氏族最大のやらかしだった。それからは氏族としての勢いが無くなった訳だけど滅亡した訳ではないので今でもちゃんとタイラー氏族は存在している。そしてそんなタイラー氏族の血を引くのがリュート=ラックさんの奥さんのリズ=タイラーさんという話ですよ。
これがエルフとドワーフが仲が悪いと言われる所以になっているらしいが、実際はそこまで仲違いはしていない……ハズなんだけど、ドワーフがつい 「エルフに〇〇売り付けようぜ」 とか口走ってしまうのはその記憶から来ているので仕方ないというものよ。
そして今ではドワーフとエルフが魔法や錬金術や魔道具の共同研究をしてみたりしてるんだからあの時の小競り合いもまんざらでもなかった……のか? 本当か?




