第326話
綺麗に束ねられ輪になった【魔多々媚】蔓。こまめに縛ったことも手伝ってバシッと整っている。それだけに、クリスマスリースの土台部分にしか見えないんだけどな。ここからどう仕上げていくのか気になる。
「じぃじ師匠、輪になりました。次は何をするのですか?」
「これは土台じゃからのう、飾りつけをしようと思うのじゃ」
「飾りつけですか?」
「そうじゃよ。アッシュの思ったままに飾りを足してやるのじゃ。飾りはじゃな、乾燥させた【魔多々媚】の花や実、細い紐にした皮を球にしたり花にした物なんかがあるのじゃよ」
そう言ってパイク=ラックさんが木箱の蓋を開ける。中はいくつかに仕切られており、仕切られたブロック毎に先ほど言っていた飾り物が入れられている。パッと見であわじ玉っぽい組み紐細工の様な物、紐で花の形を作った飾り結び、蔓に付いたドライフラワーにドライフルーツ、乾燥実に穴を開けてビーズ状にしてある物等々、様々だ。
「皮を草木染めした物もあるのじゃよ」
黄味がかった茶色、渋い赤、黒っぽい紫、紺色に染まった紐状の皮がいわゆる毛糸玉みたいな形に丸められている。小玉巻とかドーナツ巻って言うんだったか…。そして着色皮で作った組紐細工もちゃんと準備されていたよ。
「きれい!」
「好きな物を好きなだけ使ってよいのじゃよ。土台に着ける時は細く割いた皮で結び付けるのじゃ」
「じぃじ師匠、お手伝いしてくださいね」
「勿論じゃよ」
あわじ玉は【籠玉】と呼ばれていた。セパタクローボールではなかった。組み紐細工の飾り結びは【括り細工】って呼ぶんだな。そう言えば前世では水引細工で鶴や亀や松竹梅とかを作った物も有ったな…結納に使うやつね。宴会場のあるホテルのショーケースで見たことがあるぞ。俺には縁がなかったけどなっ。
「【籠玉】、かわいいのです」
アッシュちゃんは渋い赤に染められたあわじ玉にドライフラワーをぶら下げた物を作り、それを土台に取り付ける。乾燥実や未着色のあわじ玉に梅の花の飾り結びも選んでいるんだ。意外と渋いチョイスをするんだな。
ちなみに俺はじっくりと土台部分を作っています。半分組んだ様な束ねた様な。微妙な感じだけど気にしないぞ。
「じぃじ師匠、お手伝いありがとうございます」
「アッシュ、完成したのかのう?」
「はいっ! がんばりました」
「アッシュちゃん、凄い素敵な新年飾りだね」
「ミーシャねぇね、がんばってください」
「ボクももう少しで土台部分が完成するから…」
それから十分ほどで俺の土台部分は完成させた。流石に自力で組み紐細工を作るのは無理なので、素材箱の中から分けてもらう事になるのだけれど。
「じぃじ師匠、これの飾り物は、ばぁばの作品ですか?」
「そうじゃよ。簡単な物は儂も作ったがの」
「パイク=ラックさんの奥さんって【括り細工】職人さんなんですか?」
「そうじゃな。本人は職人ではないと言い張っておるがな」
「そうなんですか? これ、凄く素敵な仕事じゃないですか。この花だって一筆書きだし…」
「流石ミーシャじゃ。そこに気付くとはのう」
ごめんなさい、それは前世の知識です。
「婆さんはのう、若い頃は魔道具の研究をしておったのじゃ。厳密には魔法陣の研究じゃな。儂と出逢ったばかりに籠細工に魅了されてしまってのう、籠細工と魔法陣を組み合わせる事を思い付き、研究所を退職したのじゃよ」
マジかー!! 発想がトンデモ過ぎるって!! それこそ俺以上にやらかしてないか!?
「ばぁばのお話、知りませんでした」
「魔法陣は一筆書きの要素も多大にある故にのう」
「それで籠細工と魔法陣の融合は成功したんですか?」
「最低でもあと百年〜二百年は欲しいらしくてのう、共同研究をしていたエルフに託したそうじゃ」
「ボク達ドワーフだと研究するには寿命が微妙ですもんね」
「立体魔法陣の立ち上がりまでは進んだのじゃが、研究時間も魔力も足りぬとなっては諦めざるを得なかったのじゃ。代わりに、そこで培った技術を【括り細工】に昇華しおった」
「じゃあ、この様々な細工はパイク=ラックさんの奥さんが登録者ですか?」
「そうなのじゃよ。本人は恥ずかしがって秘密にしたがっておるがのう」
そんな環境で育ったせいか、次男さんは寄木細工と魔法陣が融合出来るのではないかという発想を思い付き、象嵌細工の職人さんだった女性とお見合い結婚したんだって。一種の政略結婚だな。
「パイク=ラックさんと奥さんは恋愛結婚なんですか?」
「そうじゃよ。儂と婆さんは出会った頃からラブラブなのじゃよ」
「ごちそうさまでした」
パイク=ラックさんの奥さんの話や次男さんの話を聞きながら俺は土台にあわじ玉や飾り結びを取り付けた。【魔多々媚】の種子に穴を開けてビーズ状にしたものがあったので、ビーズボールを組んでみたよ。久し振りだな。
「ミーシャねぇねも凄いのです」
「これは婆さんとも話が合いそうじゃな」
「後は、イラストをカードに描いた物を添えて三毛皇様に渡したいと思っています」
「挨拶状の一種じゃな」
「そんな感じです。猫や鼠や妖精なんかの絵を描いてみようと思ってるんです」
まぁ、腹にマジックバックを付けた耳の無い青い猫とか、ピカピカと鳴き声を上げながら電気を放つ黄色い鼠とか、左の目玉に手足の付いた妖しい生き物とかだけどな。特殊な髪形をした海鮮一家の長女も描くか?




