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第325話

お昼ご飯は簡単に済ませた。まぁパイク=ラックさんの家でご家族とご相伴な訳だけれど。夕飯の時は一家団欒に混ぜてもらえるとの事なので楽しみ。お昼は通いの職人見習いが師匠側から食事を提供してもらったという体なので簡単って事ね。



「簡単なものでごめんなさいね」


「いえ、お構いなく」



パイク=ラックさんの次男の奥さんが【茄子花芋】とソーセージの煮込みと大麦パンを渡してくれた。何種類化の香草(ハーブ)が利いていて美味しい。


パイク=ラックさんの子供は二男一女。産まれた順番は男女男。アッシュちゃんは次男さんの娘ね。長男さんは結婚して独立したので同居はしていない。領都『ネオラグーン』で若手気鋭の木地師として活躍してるんだって。次男さんは寄木細工の職人さんだって。長女さんは他領に嫁ぎ、向こうで三男四女の大家族の肝っ玉かぁさんをやっているとかいないとか。


長男さんの職業の木地師というのは、前世風に言ったら漆塗りのお椀のベース部分になる白木の部分を作る職人さんね。異世界(ここ)だと漆や仮漆(ワニス)だけでなく【魔漆】もあるので、それらを塗って仕上げる木製品の木地全般を手掛けている。それこそ、木の盾とか木刀とかも手掛ける。木の兜に木の鎧もあるんだな…。


木製武具は駆け出しの冒険者用だと思われがちだが、【魔銘木】を使えば下手な鉄鎧より防御力の高い防具が出来上がる。軽くて防御力が高く、種族や職業上の制約で金属鎧を装備できない者でも使うことができるので実は重宝されているのだとか。


う〜ん、木製防具に身を固め木剣を装備した聖女か……。(聖女は解体ナイフ、剃刀、鋏、包丁以外の刃物の使用を認められていない特殊職だ) 流石に木剣は鈍器だからな。



木剣は冒険者ギルドでの鍛錬用や模擬戦用に使われるのが主だが、魔導鍍金(メッキ)をほどこしてやればパッと見、金属製の剣に見せかけることが出来る。なのでヒト族の貧乏な貴族の警備兵が見栄を張る時の装備品や、武器の持ち込みが禁止されている儀礼の場での “ 見せ剣 ” に使われることも少なくない。なので、木製武具の需要はどちらかと言えばヒト族の方が多い。エルフ族にも木製防具は大人気なのだけど、ヒト族と比べたら人口の絶対数が違うからなぁ。


そんな長男さんは何を思ったのかキッチン用品を模した防具を作ってしまったのだとか。木製トレーの盾とかお鍋の蓋の盾とかね。寸胴鍋の鎧も作ったとか。その中でも異質な物がマグカップを模した兜だ。前世では戦国時代に赤い漆塗りのお椀な兜を被った軍師がいたけど、巨大マグカップを頭に被るとかそれ、相当な勇気が要るだろ…。



そして長男さんの奥さんは塗師だった。夫婦で一つの作品を完成させるのか。それもいいなぁ…。まぁ俺は結婚については考えてないけど。するにしても偽装結婚だ。それも面倒くさいからしないだろうけど。



次男さんはお昼を食べたら作業場に帰っていった。パイク=ラックさんの作業場に一緒にいると狭いので近所に作業場を借りているんだって。


「父様はお仕事の時と母様とケンカした時に作業場に向かうのです」


次男さん、娘さんに秘密を暴露されてますよ。ちなみにケンカの原因はお酒が過ぎることを注意される事と、野菜を食べずに肉ばかり食べることを注意されることだった。可愛い理由だな。そんな次男さんは『関所の集落(仮)』赴任から戻ってきたパイク=ラックさんが野菜料理を食べる様になっていたのを見て 「親父様が野菜を食ってる…」 とショックを受けていたそうな。パイク=ラックさんは【(から)茄子】、【食用マンドラゴラ】、【王芹(セレリィ)】の三つを食べて次男さんにマウントを取ったのか。まぁ前世でもピーマン、ニンジン、セロリは食べるとマウント取れるよ。




「じぃじ師匠、よろしくおねがいします」


「うむ、アッシュよ励むのじゃ」


「はいっ!!」



うーん、微笑ましいなぁ。パイク=ラックさんの家の教育方針はやりたい事を色々試して構わないそうなので、アッシュちゃんも籠細工や木工は興味がある時に試す程度だって。それでも職人一家なので誰かに師事する時に失礼にならない挨拶なんかは教えてあるのだとか。勿論さっきのは幼ドワーフ用の挨拶だね。



「それでは一番簡単な新年飾りを作るとするかのう」


「はい、おねがいします」


「先ずは左手に【魔多々媚(マタタビ)】蔓を三本、下から手のひら一つ分くらい上を持つのじゃ」


「はい」


「そうしたらじゃな、長い方をじゃ、三本一緒に右手で持って花冠の大きさぐらいになる様にグルリと回すのじゃ。そして左手で最初の三本と一緒に掴むのじゃ」


「右手でグルリです。はい、じぃじ師匠つかみました」


「次はじゃ、この蔓から剥いだ皮を使ってのぅ、左手で握っている場所を縛るのじゃ」


「じぃじ師匠、お手々が足りません」


「一人で無理な時は近くにいる(ドワーフ)を誰でもいいから頼るのじゃ」


「じぃじ師匠、助けてください」


「よし、てつだうのじゃ。先ず、根元に近い方を縛るのじゃ、もう一・二箇所縛れば扱い易いのう。慣れたら縛らなくても作業出来る様になるのじゃよ」


「ありがとうございます」



ほのぼのだ。この遣り取りはは見ていて癒やされる。



「一回、二回と蔓を回してじゃな、しっかりとした輪にするのじゃ。勿論、一巻毎に剥いた皮で縛るのを忘れずにじゃよ」



「じぃじ師匠、このときに大事なことは何ですか?」


「蔓が緩まない様にする事じゃな」


「それで何回も縛っているんですね」


「そうじゃよ。それよりも大切な事が一つあるのじゃがアッシュは分かるかのう?」


「大事なこと……何ですか? じぃじ師匠教えてください」


「この新年飾りはじゃな、猫の人が新しい年をお祝いする時に飾る物なんじゃよ。大切な相手に贈ったりもするじゃろうな。じゃからのう、猫の人がこれを手にした時にウキウキワクワクと楽しい気持ちになる様に丁寧に心を込めて作る事が何より大切なのじゃよ」


「わかりました」



俺、思わずあの反省ポーズを取りそうになったぞ。

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