第324話
前世でクリスマスリースを作ってみたり籠細工の体験をした事はある。紙バンドや荷造りの紐で簡単な籠作りも試してみたけど結局のところ趣味に合わなかったので続けなかったな…。母方の婆ちゃんは新聞広告をクルクルと巻いて細い筒状にした物を作り、それを潰して平たくした紙紐で籠を作ってたけど。意外と広告の紙が必要らしい。しかも紙質が関係するとかで、どの広告でもいい訳ではないらしくご近所さんから不要チラシを貰っていたとか聞いたぞ。婆ちゃんの好みは近所のスーパーの広告だったとか。紙の厚みとインクの種類が絶妙だったらしい。そこが閉店してからは籠を作るのを止めたとかいってたしな。
「本当は【魔多々媚】蔓の皮を剥いてから蔓を四等分に割り、太い箇所は削って幅と厚みを揃えた物がよいのじゃがな。これは新年のスタートや芽吹をイメージするので皮付きじゃ。普段なら作品には使い辛い細い蔓を使うしのう」
「やっぱり普段は素材を調整してから組むんですね」
「基本中の基本じゃな」
その基本を敢えて外すという行為がこの新年飾りの持つ意味合いの本質になっているんだな。
「この新年飾りのウリはじゃ、生きた【魔多々媚】蔓を使っていればそこから葉が芽吹くというところじゃよ。すべてをそれにする訳ではないがの」
「芽吹くという事が特別の意味って事ですね」
「そうじゃよ」
プレミアム【新芽猫輪・芽吹き】、限定三個入荷しましたーー!!
「でも…マジックバッグって生命活動が停止している物しか仕舞えないですよね? この為に慌てて集めるのでもなければ生きたままの蔓の保存って無理なのでは?」
「それはスライムバッグに入れておくのじゃよ」
「スライムバッグですか?」
スライムバッグというのはトイレ用の赤スライムの運搬用に使われている特別仕様のマジックバッグの事ね。通常のマジックバッグはサイズの大小も時間停止の有無も関係なく基本 “ 生きているものは入れられない ” のだけれど、スライムバッグはそこを改良した特殊構造になっているのだという。生きているものを入れられるとはいってもスライムや花苗程度で、小動物や人・亜人・獣人や魔獣等は入れる事は出来ない。勿論アンディーも無理だ。
「スライムバッグはトイレごとスライムを格納出来るからのう」
「普段から花苗を入れるとか、そんな使い方をするものなんですか?」
「やらんのう。裏ワザじゃよ」
不思議なもので種はマジックバッグに入れていても取り出して植えれば発芽するのだとか。どこまでが生きている判定なのかは謎だな。ヒルは入れると死ぬって言ってたけど。
「スライムって甕に入れて運ぶのとスライムバッグに入れて運ぶのと、どちらが喜ぶものなんですか?」
「それは断然スライム甕じゃよ」
「ありがとうございます。勉強になります」
剥いた皮も残してあるので、水に浸けて柔らかくしておいたものを使って束ねた【魔多々媚】蔓を縛ってみたり編み込んでみたりも出来る。【魔多々媚】の重ね使いをしろってことね。
「アッシュちゃんは新年飾りは組まないんですか?」
「午前中は勉強の時間なのじゃよ。読み書き計算、家の手伝いなんかをさせておるのう」
「午後からも楽しみです」
「それこそ先日の食べられるデンプン紙の登録ですっかり自信をもってのう、勉強も手伝いも頑張ると張り切っておるのじゃ」
「あれはアッシュちゃんの発見ですからね」
「 “ 孫 ” 同士仲良くして欲しいのじゃ」
「勿論です。ボク、パイク=ラックさんの孫になっていいんですか?」
「ミーシャは儂の中ではとっくに孫じゃよ」
アンディーが大人しくしてるな…と思ってたんだけど、パイク=ラックさんが麦藁で作った猫ちぐらの中でスヤスヤと寝息をたてていた。
「ミーシャも三毛皇閣下に献上する新年飾りを作ってみぬか?」
「いえいえいえいえ、ボクがだなんて烏滸がましいです!!」
「喜ばれると思うのじゃがのう」
「ボクみたいな初心者の作った【魔多々媚】細工なんて献上できませんって!!」
「贔屓目ではないのじゃが、ミーシャの新年飾りは中々出来が良いと思うのじゃがのう」
「本当ですか?」
「本当じゃよ。儂が嘘を言うてどうする」
「だったら頑張って献上品を作り上げてみようと思います」
「この新年飾りはじゃな、作品の完成度が高いことは評価の一つにはなるじゃろうがのう、そもそもが相手を思う気持ちを伝える為のアイテムじゃからのう、心を込めて丁寧に作り上げさえすればよいのじゃよ」
「そうでしたね」
いけないいけない、儲けとか販売戦略とかを考え過ぎて本来商品の持つ意味・謂れを蔑ろにしてしまったよ。反省。棚に手を添えて俯く反省ポーズを取ってみた。これ、懐かCM番組の動物枠で出て来るやつだよね? 違うか、猿まわしの人気芸の一つだっけ?
「ミーシャ、何をしておるのじゃ?」
「浅はかな考えを反省していました」
「反省じゃと?」
「はい。新年飾りの根底にある理念を蔑ろにして拝金主義に走ろうとしたボク自身に反省です」
「で、そのポーズが反省のポーズじゃと」
「はい。やらかしを悔いる反省のポーズです」
「それでは『ミーシャのポーズ』と呼ばれてしまうのじゃ」
「ええっ???」
「やらかし女王、ミーシャの反省のポーズじゃろう?」
「パイク=ラックさん……それはちょっと………」
「分かりやすいし、登録してみてはどうじゃ?」
「それはボクとしては嬉しくないんですけど………」
この時の反省のポーズが何故かギルド各所で大ウケしてしまい、老若男女・種族を問わず『ハポン=ヤポン』国内で大流行してしまうのはまだ先のお話。




