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第318話

母体樹(ぼたいじゅ)へ向かう道中は四方山話をしながらの移動となる。特に危険な場所ではないという事なのでホッとしてはいる。まぁ、冒険者の言うところの「移動は大した事はない」、「普通の場所だよ」は信用しちゃいけないんだけどね。



「削りカスって聞いてたからそこまでは期待していなかったんだけどね、これどうしたの?」


「いえ、削りカスです」


「まぁ、深くは詮索はしないけど…」



コカコッコの蹴爪の削りカスなんだけど、削りたてだから新鮮です…とかの理由とかではなく削りカスとしては高品質だった模様。普通に人用の石化解除薬の材料に使える品質だったみたいです。それを専用の薬液で処理すると石化予防薬が作れる。冒険者は現場で薬を作って飲んでいる…という事ではなかった。液状薬は普通にポーション屋さんから買って使うし、粉薬は薬屋さんから買って飲む。一応、応急処置の知識として自作薬の処方法を覚えているだけだと言っていた。



「これなら石化予防薬ではなく石化治療薬にして使った方が断然効果があがらない? 材料は揃ってるよね?」


「先に琥珀で作った薬液を使った方がいいかな? それとも後がいい?」


「現場で決めよう」



想定外の品質でごめんなさい。母体樹(ぼたいじゅ)により高い効果を…って事で勘弁して貰えれば嬉しいです。




「へぇ〜、知り合いに古代エルフがいるんだ」


「職校の非常勤講師ですけどね」


「言葉は通じてる? 共通語での会話だよね」


「はい。ナックヤーマン=キーン=ニックさんはダークエルフの血を引いているけど、種族的にはエルフなんですよね?」


「そうですね。厳密に言うとピュアエルフではないです」



ピュアエルフというのは『ロング=フィールド』領に住んでいる所謂一般的にエルフと言われている種で、混血(ハイブリッド)でも古代エルフでもないエルフ族の事を指す。混血度がクォーターより薄いとみなしエルフ扱い。エルフの中ではピュアでなければエルフに非ず…でピュアエルフ以外には市民権がないとかの差別は一切ないんだって。意外と寛容なんだな。



「差別とかは無いですよ。ピュアエルフからはせいぜい、「あいつら酒飲み過ぎ!!」 程度の愚痴を言われるくらいです」


「はははは…、古代エルフの酒量は凄いですもんね。ダークエルフもお酒は嗜むんですよね?」


「飲むよ。その代わりピュアエルフよりは若干寿命が短いかな」


「そうなんですね」


「ピュアエルフもね、お酒は飲むんだよ。実はどのエルフ種も一生涯に飲む酒量は同じなんだって知ってた?」


「本当ですか!?」


「本当です! ピュアエルフは古代エルフが成人後五十年弱で飲む酒量を四百年以上かけて飲んでいますよ」


「ええっ???」



ドワーフは酒に強い種族特性があるので生涯飲酒量はエルフ種の二倍から五割増程度。ピュアエルフは一年あたりの飲酒量や塩分摂取量を少なくしていって寿命を延ばす事に成功したのだという。ダークエルフの寿命はドワーフと同程度。ピュアエルフは未だに年間飲酒量を減らして寿命の引き延ばしを続けているとのこと。そのうち寿命が七百年くらいになるんじゃないか…ってエルフ界隈では言われているらしい。ピュアエルフ、恐ろしい子!!



「塩分も減塩なんですよね?」


「そうですね。太く短く生きるか、細く長く生きるかの違いです。ダークエルフくらいがちょうどいいです」



知識を高めるために長く生きる事を選び、健康寿命を延ばしたって事か。でも、その代償に酒と塩分を捨てた……と言う訳では無かったよ。あと、全くのベジタリアンという訳でもないらしい。長生きのためにストイックにし過ぎたら、あらぬ誤解を生んでいる訳だな。



面白い話を聞きながらの移動。いつの間にやら母体樹(ぼたいじゅ)の所に到着していた。里山というか雑木林って感じ。特に母体樹(ぼたいじゅ)になりやすい特定の種類がある訳でもないそうで、木に【樹精(ドライアド)】が宿るのはある意味バクチみたいなものらしい。



「こんにちは。元気にしてた? 今日は追加のお薬を持ってきたよ」


「この薬を使ったら向こう百年は【木々奇鱗(きぎきりん)】にはかからないと思うよ。しっかりと治しちゃおうね」



ザワザワ…… そう話しかけられた母体樹(ぼたいじゅ)の枝が動いた気がした。



「今、枝が動きました?」


「多分ね。彼らは【樹妖(トレント)】みたいにアグレッシブには動かないけど、こちらの言葉は通じてるハズだから」


「古代エルフだとスキルで会話できるんじゃないかな?」


「確か『唇察(しんさつ)』と『呪唇(じゅしん)』だっけ? 古代エルフが内なる魂と会話するスキルは」


「霊体の唇から微訳(びやく)する能力だったかなぁ…。兎角、古代エルフは謎だから…」



古代エルフで謎なのは、生態よりも言葉だと思うんだけど。




「さて、【木々奇鱗(きぎきりん)】の特効薬、【内打融薬(うちだゆうやく)】を作ろう」


「コカコッコの蹴爪の削りカス、石割りザクロの果汁、撫で石壊(なでしこ)の種、石清水、鰯水(いわしみず)染み出流(しみいず)、あと何だっけ?」


水螺(ミズラ)石中光群(せっちゅうこうぐん)。全部加えたら【ふすま釘】で混ぜる」



謎の素材名が羅列された。コカコッコの蹴爪の削りカスはこの中でも入手が困難な部類に入る。何だか嗅いだことのある臭いが……って【渓流(いわし)】の魚醤じゃないのか!? まさか鰯水(いわしみず)って魚醤か???


内打融薬(うちだゆうやく)】は【木々奇鱗(きぎきりん)】に冒された【樹精(ドライアド)】の母体樹(ぼたいじゅ)の体内から石化組織を融解する効果がある。



「この薬は石化の根源、鱗状の患部から体内に侵食する根を融解する」



石化部分(ロック)振動(ロール)して消滅させ、【樹精(ドライアド)】の住居(シェキナ)平部(ベイブ)に整えるんだって。



「石化の根を解消したら琥珀を特殊な液体に溶かして作った仮漆(ワニス)を【石割り啄木啄木(ゲラゲラ)】が傷を付けた箇所に塗布して保護してやる」


「どういう原理が働くのかは謎に包まれているんだけど、樹脂が石化したものを液体に戻して植物系種族の石化由来の患部を治すのに使うんだよね」


「木に対して馴染みが良い事だけは分かってるんだけど…」


「【動く茸(ファンガス)】類にも効くんですか?」


「【動く茸(ファンガス)】に使ったことはないな」


「そもそも【動く茸(ファンガス)】は石化するんですか?」


「するよ」



そうか、動く茸も石化するんだ…。【 木の子(きのこ)(びょう)】の原因になる胞子をバラ撒いてくる前に倒すには石化が最適解なんだって。【 木の子(きのこ)(びょう)】は木の子供になったみたいに身体が動かなく病気。似た様な症状を呈する病気に【大木病(たいぼくびょう)】と呼ばれているものがあるが、この病気の原因に胞子は関係ない。

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