第317話
スキルや『汎用魔法』は使ううちに割と簡単に生えてくるけど、そこから使える物に鍛えるのには時間がかかるって事なのか…。つまり、俺の保有している『汎用魔法』も使い方次第で大化けするって事!? 実際、『分離』系はやたら細かく分かれてるからなぁ…。
「良かったーー、皆んなまだ居たーーー!!」
「お待たせしました、『地底娘』、ここに見参!!」
微妙なタイミングで『地底娘』が現れた。つまり、初日に発注した食事の出前がやっと届いたって事でいいの?
「諦めようと思ってたけど来てくれた」
「飯のために窯の前で一泊しようかと思ってたけど、これ食って帰るわ」
「間に合って良かった。はい、注文を確認してみてください」
串焼き肉とかサンドイッチとかが出て来る出て来る。質も味もシロウトの野営蕗料理と比べてはいけない。多分、蕗料理よりなら焼き芋の方が絶対に絶賛されるよね。
皆、窯より食い気か…。焚口に蓋をした後だから実習の点数には関係ないけど、これ…三十分前にやってたら減点されてたんじゃね? 『地底娘』もそれを分かっていてこのタイミングでの登場だったとかか?
「ミーシャちゃん、ガルフ=トングさんからタワシを預かってきたよ」
「えっ、ボクにタワシですか?」
「ワギュちゃん達にだって。後、カーバンクルの話をしたら専用のを作ってくれたよ」
ムキュウキュウ
アリサお姉ちゃんから手渡されたアンディー用のタワシは毛足が短くて毛のコシが【運魔】用より柔らかい感じだ。試してみたい。
キュウ キューゥ
(「ますたー なでて なでて」)
「アンディー、ブラッシングして欲しいの?」
キュッキュ
(「ほちい」)
アンディーの希望に応えてブラッシング。土魔法で土手を作りそこに腰掛けると腿の上にアンディーが広がる。腿に毛布を掛けてる感じだな。背中をブラッシングしてあげるとお腹を上にポジションチェンジ。所謂ヘソ天状態だ。満遍なくブラッシングしてやったら満足したのか定位置の俺の背中に移動した。
「すっかり仲良しになったんだね」
「はい。従魔登録もしたので一緒にいられます。パイク=ラックさんに巣箱も作ってもらいました」
「ミーシャちゃんは今日も寮?」
「はい」
「私達は二日間野営してから『スワロー』に戻るよ」
「そこから窯を開けて炭を確認し、次の材を詰めるまではお休みっす」
「窯開けはいつもワクワクなのです」
「どんな品質にあがるんやろな。見るのが楽しみやわ」
「早くリンドに片刃斧を発注したい!!」
「我々は一旦『スワロー』に怪我人(役)を置いてきます。『地底娘』さんと入れ替えで窯開けまで逗留予定です」
「岩塩も納品してくるので」
「はい、怪我人役は担架に寝て寝て。馬車に乗せるぞー!!」
「じゃあ、ミーシャ=ニイトラックバーグさんはまた明日だね。九時ごろまでにここに来れる?」
「はい、大丈夫です。削りカスはちゃんと瓶に入れて持ってきます」
残る人は残り、帰る人は帰る。俺はもちろん帰る組ね。
炭焼き窯を開けて完成した炭を取り出したら黒スライムの出番がやってくる。窯の中に散らばった炭の欠片や煤を掃除してもらう。その後に残った灰を回収。灰は畑の肥料になったり釉薬の材料になったり糸を精錬する時の助剤になる。灰を食べるスライムはまだ見つかっていないのだとか。
『消臭(微)』を鍛える為に自身にも装備にも掛けまくる。ついでにアンディーの巣箱と寮の部屋にもだ。いくら赤スライムが『浄化』能力持ちだとはいえ効果は排泄物やトイレに対してだけだろうし、従魔の発する獣臭はゼロではないと思っているので。オロール先生の部屋のヤニ臭さよりはマシだけどね。
(「ますたー なに してるの?」)
(「アンディーが狙われない様に『消臭(微)』を使ってみたんだ」)
ムキュ?
(「従魔ってみんな綺麗好きだと思うけど、どうしても少しだけ臭いがあると思うんだ。もちろんボクだってドワーフ臭いけどね。ボクがスキルで従魔の臭いを消せる様になればアンディーだって狙われにくくなると思ったんだ」)
(「そうなの?」)
(「アンディーをボクから奪おうとする相手がいるかもしれないからね」)
(「ますたー あたち いっしょがいい かけて かけて」)
(「念の為だからね。ボクもまだ覚えたてだから練習にもなるし」)
(「ますたー がんばる あたち おぼえる」)
(「アンディーも覚えてみたいの?」)
キュッキュ
スライムが『浄化』を使えるんだからカーバンクルだって『汎用魔法』の一つや二つ覚えれるんじゃないの? 今度からタワシでブラッシングする時に『消臭(微)』を使いながらにしてみよう。
そしてコカコッコの蹴爪を取り出すと前回切った場所を木賊で擦る。断面を綺麗に整えてやる感じで磨いてやれば一つまみ程度の量の削りカスが採れる。それを渡されたポーション瓶に入れて蓋をすれば準備完了。研磨に使った木賊に付いた微粉末が勿体ない気がするので前にコカコッコの蹴爪の削りカスを与えた木賊の鉢植えに与えることにする。『注水』で表面を流してやれば、ごく僅かだけだろうけどコカコッコの蹴爪の成分を与えたことになっていると思う。気休め程度とも言うか。
それより、琥珀がアクセサリーとか装備品の材料以外にも使い道があるとは思わなかった。って言うか、樹脂が化石になった物が石化症状を呈する植物の石化解除薬になるだなんて思わないってば。色々勉強しろって事なんだろうけどね。




