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第313話

ウミユリの化石はいったん除けておいて、【愛の囁き】の “ 終わりかけ ” をスケッチしてどう研磨するか考える事にする。恋愛イベント用で定番の形と言えばハート型。今回渡された原石は何れもがアーモンド大なのでカラットを残すというか歩留まりを考えたら丸カボションカットは不適。楕円カボションカットかペアシェイプのカボションカット、後はハートのカボションカットにするのがいいってところだな。


品質からいったら三つの中では一号が一番グレードが上だ。鑑定ではどれも心変わり中って出てたから早かれ遅かれ黒化する。別に研磨加工した石がチープな使い捨ての異性の気を引く為のアクセにされても気にはしないけど、石に罪はないんだよ。雑に扱われたら石が可哀想じゃないか。飽きて捨てられた石が尿管結石に転生して持ち主の元に戻ってきても知らないぞ。追放リベンジ系の尿管結石……考えたくねぇ。



一号は中心に近い部分に小豆より若干小さいサイズで濃い目のピンクが残っている。他の色は白っぽい薄ピンクとかなり黒いピンク。ハート型より雫型がいい様な気がする。これ、真ん中に濃い目ピンクが鎮座するハートカボションカットに研磨したら何だか下品な感じになりそうなんだよね。


俺の好み云々の前に一旦逆で、つまりプレゼントされるレディの立場でデザインを考えてみようか。恋愛イベント中に繁華街でナンパされて、「ベイベー、ハニー、俺とランデブーでいいだろう?」なーんて言われちゃう訳ね。そして「君にこれを」とハート型のペンダントもしくはブローチを渡される。引くな…シチュエーションじゃなくて石がオシャレじゃない方で。これは雫型か星型の方が良い。星型は菱形から形を出していく尖端が四つある星です。キラキラマークの星とも言うな。ただ、ネックは濃い目ピンクの位置なんだよ。中心から若干でもずらせるのは雫型。候補はペアシェイプ・カボションカットだな。



二号は低品質。全体が黒みがかったピンクで所々に白や黒、地色より気持ち濃いピンクが点在している。斑模様というか染みというか。こういうのは『恋のスポット模様』とか言えばいいんだよ。汚い斑模様だとか言っちゃダメだ。「淡い恋心の中に、様々な思いの色が点在する、乙女心の様な石模様です」とか何とか言って店員が対応したら売れるやつだ。最終的にこの乙女心は心変わりしちゃうんだけどね。だったらハートカボションカットでいいだろう。


三号も低品質。ほぼ黒。だた、濃い目ピンクのスポットが四つほど見えている。それこそ星型でいいんじゃね? それこそワンナイトラブって感じだし。



年末年始のヒト族の恋人たちのイベント用の石はともかく、年末年始の神様のお休みに合わせて今年一番お世話になったであろうヤーデさんに捧げてみたい石があるんだ。勿論、緑色の翡翠なんだけど原石はどこで入手出来るんだろう?




研磨の下準備でも…と思った矢先に大事な事に気が付いた。そうか、学園の学生寮って自室での持ち込み製作作業に向かないんだ。実験を伴わない予習復習つまり座学には便利な作りだけれど、部屋で工作作業が出来ません。これは研磨の為には職校の寮に行けと…。まぁ、どちらの部屋も使い分けすればいいだけだから便利っちゃ便利だけど不便っちゃ不便だ。更に従魔が増えたら家を借りる事も検討しなきゃ駄目かー。


将来的にラパンとワギュも住むとなれば、曲家みたいに厩舎と住居が繋がった家屋になるんだろうが、それだと家の位置にもよるけど、ご近所迷惑になりそう。少なくとも『スワロー』はそこそこ都会な街なのだよ。街を拡大するとかの計画が上がるんなら外壁の外側に郊外エリアが追加になるだろうから、その時はそこに家を建てて住むのがいいかもしれない。現在は外壁の外側に【運魔(ウマ)】を運動させる場所がある。


なんでフッと郊外エリアの追加って話を思いついたかと言うと、それには根拠がないわけでもないんだ。その原因は俺です。俺だよ俺。トマトだの紙芭蕉だの蕗だのジャガイモだのを生産する農業エリアが足りなくなりそうなんだとか。それに付随する加工場の建設場所も新築するには土地が足りない。産業が増えるとそれに携わる者も増えるわけで、増えた住人用の家も足りなくなる。かと言って新しく隣町を作るのも色々と手間が掛かり過ぎるしな。


ちょっとだけ郊外でスローライフ。いいなぁ。木賊(とくさ)も露地植え出来るし、家庭菜園で簡単に育てられるスパイス類も植えて…。庭に植えたシンボルツリーからはアンディーがムキュウと鳴きながら滑空(と言う名の落下)をしてくる…と。露天風呂は作らないけど大き目な湯船の風呂場を設置。オロール先生用の客間が有ってもいいし、クルラホーン酒場を設けてもいい。


うん、楽しい妄想って無駄に捗るよね。現実に戻された時に大ダメージを喰らうけどさっ。



そんな妄想は楽しかったけど、今日は石磨きも出来ないし、明日は炭焼きの火を止める日だから夜更かしも出来ないし学園の授業もパスしなきゃな。その点、職校は面白そうな授業は組み込んでこないので有り難い。炭が完成したら実際に使って使い勝手を確かめる実習は幾つかあるけど。その後に生徒だけで炭焼きをやってみる回(炭焼き二回目)がある。そこでも冒険者の皆さんが護衛してくれるから安心。専門の職人さんや先生も見守っていてくれるし。本当に危険な場合はヘルプの手が入る。この生徒のみで炭焼きをする二回目、三回目が一番危険なのだった。




ムキュウと一鳴きしてアンディーが巣箱(ケージ)からスルスルと降りてくる。



(「ますたー はっぱ ほちい」)


(「あ、ゴメンね。石を見てたらけっこう時間が経っちゃった」)


(「あたち さびしくない だいじょぶ」)


(「明日はアンディーと出会った場所に行くけど、アンディーも付いてくる? それとも行きたくない?」)


(「いくの」)



風呂と晩飯を職校側で済ませて学園の学生寮に戻ることにした。それと一の週・十の日までは職校の学生寮に泊まる申請をしておけば安心だ。授業が無ければ石を磨けばいいじゃない…ってね。

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