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第312話

部屋に戻ってからは只管鉱石のスケッチをする事になった。何せ数もあれば納期もある。アンディーの石は後から磨くとしても全部で六石。【百合の星留(ホシル)】ことウミユリの化石が楽しみなんだよね。


図鑑や教科書なんかで見たことのある記憶があるウミユリの化石は天地を逆さまにしたJの字で、膨らんだ個所が百合の花に見えなくもない。俺としては萎んだタンポポの花なんだが。百合は百合でもカサブランカとかカノコユリとかの所謂分かりやすく百合してる形ではなくて図鑑でしか見たことのないクロユリとか、スズランの花一輪の形が近いかな。逆さまにした巾着袋の方が近いのか?


まぁ、そんな萎んだ “ イメージ=ユリ ” な訳です。いや、萎れてグッタリと項垂れるチューリップの方が近いんじゃない? そんなウミユリの化石はそもそも古代の海中の生物。しかもサンゴと同じ動物系。俺は前世の知識があるからウミユリは動物って認識になってるけど、そんな知識が無ければ化石になって地上に露出している状態のものを発見したら百合の花が石化したと素直に考えるハズだ。ましてコカトリスやメドゥーサなんかが保有する石化能力が存在する世界だと尚更だろう。


そんなウミユリの化石は縦横が五センチメートル四方で厚みがニセンチメートル程度の板状。化石部分はやっぱり萎んだタンポポの大きさだよね。これって岩石的には何だろう? もう少し鑑定を粘ってみるか。



(鑑定)

【百合の星留(ホシル)】:古代のウミユリの化石。中品質。黒灰色をした石灰岩(ライム)に白灰色の化石部分が確認できる。



出た!! これ、石灰岩なのか。という事は炭カルこと炭酸カルシウムでいいんだよね。つまりは貝殻の主成分だな……って白スライムに喰われちゃう存在じゃねーのか? 


研磨ノートにスケッチをしてゆく。花弁の筋に見えるのは実は触手部分でシュッと整えられた筆先の様に見えている状態。これ、化石の状態というか形状やサイズによっては石化したメドゥーサだと言ったら騙せ……いや信じてもらえるかもしれない。


模写とかスケッチとかデッサンのスキルが生えてこないかなぁ…。毎回期待してるんだけどね。簡単に彩色もしておく。


アンディーは特にウミユリの化石に興味を示す訳でもなく、俺の邪魔をしない様に気を使ってくれているのかキャベツの葉を咥えて巣箱(ケージ)に入ったまま中にジッと籠もっている。



さて、このウミユリの化石はどう形を作るか…。ネタ的には恋の亡霊を祓うってことにしたいんだよね。でも、冒険者がリアルに対アンデッド装備で使う事も出来る…と。普通というか在り来りの円盤型だとか楕円カボションカットにはしたくない気もする。ざら紙というか捨ててもいいメモ用紙にイメージを描いていく。


【百合の星留(ホシル)】は鎮魂の効果があって、死者がアンデッド化しない様に捧げたり、アンデッドの潜む部屋の扉に下げて一時的に外に出てこれない様に使う。ラルフロ=レーンさんは確かそう言ってた。つまり、少し大振りなペンダントトップやチャーム的なデザインでいいという事ではなかろうか? それこそ紐を通して使う的な。水子供養にも使うとなれば、墓碑に掛けるとか、墓前に供えるとか。磨いた【星留(ホシル)】に銀で枠を掛けたり、紐をマクラメ編みして囲んでみたり、それか良さげな位置に孔を開けるか…。



ひっ、閃いた!! 勾玉の形にしてみたらどうだろう? ちょうど化石の形に沿わせれば何となく勾玉の形『 (カンマ) 』にならないか? そして勾玉を表す単語は多分ドワーフ語には無いだろうと踏んでいる。あれは前世の日本独自の物だったハズ。もしかしたら隣の大陸とか半島にあったかもしれないけど俺は日本がメインだったと思っているので。


勾玉の玉もあれはボール的な “ たま ” ではなく “ ぎょく ” だ。中国では美しい石の総称を『(ぎょく)』と呼んでいるという。その『(ぎょく)』が曲がった形状になっているから勾玉……って事だったよな。なぜあの形状になったのか良く分かっていないとかなんとか…胎児の形じゃないかとか言われたりもする勾玉。マジで神秘過ぎるよ。


その意味合いをドワーフ向けに魔改造か……。



形状は熊の爪に似てなくもない。動物の牙っぽくも猛禽類の嘴っぽくもある。前世の宗教画の天使の羽と言うか翼にも似ている。破邪なら爪や牙でも良さそうだけど、鎮魂なら天使の翼か…いや、神様は沢山いるけど羽根の生えた天使みたいな存在はいなかったよね? この世界の宗教画は知らないから断言は出来ないけど。まぁ、ぶっちゃけ、天翔ける存在に翼があったっていいじゃない。


という訳で、勾玉の形は翼の形という事にしてみよう。羽は生えてないというよりはデザイン的に簡略化している…と。そう言えばペガサスだってグリフォンだって翼がある。自由や力強さの象徴。神聖かどうかは分からない。あまり重箱の隅をつつくとハーピーや鳥人族はどうなんだ? って事になるからこの辺りで止めよう。翼を持つ魔獣はそれなりにいるもん。



説明しやすいのは、翼と爪の形を模したという事。自由と力強さそして高潔。この辺りを兼ね備えた魔獣と言えば…フェニックス!! 勾玉が胎児の形を模した説もあるという話も取り込むなら不死と再生を司るフェニックスは適任だ。


フェニックスの拘るネタと言えばパイナップルが【朱雀果(フェニックスアイ)】があったよね。いつ口に入るか分からないパイナップル。【魔海鞘(マボヤ)】水筒に入れてみたいジュースランキング一位(ミーシャ調べ)のパイナップル。フェニックス石という名称は魔石とか魔獣石でありそうだから【朱雀果(フェニックスアイ)】とこれとは使えないと考えたほうがいい。爪よりは嘴かな…。【朱雀嘴型(フェニクスビーク)(仮)】にしておこう。ラルフロ=レーンさんに相談して最終的な流通名を決めればいいんだし。もしかしたら勾玉型の名称も教えてもらえたりするかも…だ。まぁ、その時は悩み損だったという事で。

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