第304話
意外とカーバンクルの種類が多かった事実。そしてアンディー以上の激レア種がいるんだな。うーん、研究が進んでいるような、いないような微妙な資料だった。もしかしてドワーフって身近な従魔は【運魔】を始めとする移動用や農耕用、採掘用なんかの労働タイプなんじゃなかろうか? だってそこまで激しく討伐に行かないんだから戦闘のお供もそこまで必要なさそうだし。となると、ガチの資料はヒト族領にあるのかもしれないなぁ。だったら無理して資料を入手しなくてもいいかな…。一瞬、カーバンクル牧場とか作ったら楽しいんじゃ……なーんて妄想してしまったけどさっ。
図書館はアンディーを連れたままでは資料を閲覧できないので従魔の待機場所で待っててもらった。流石に巣箱無しなのに学生寮の俺の部屋で留守番させるのは問題がありそうなので。待機場所には【眠り猫】とか【手持ち豚】とか俺の知らない種族の従魔が居たよ。手持ち豚さん、可愛いんだけど。口から害虫避けの煙を出したり懐中電灯の様に暗い場所を照らしたり出来るらしい。蚊遣と懐中電灯か。何というか坑道用って感じだな。ベッド周りに置いておきたい。
調べ物が終わったのでアンディーを迎えに行き、そのままラルフロ=レーンさんの工房に向かうことにした。
(「アンディーから貰ったカーバンクル石なんだけど、誰かにプレゼントしても大丈夫なのかな?」)
(「だいじょうぶ?」)
(「あ、プレゼントしてもボクは今まで通りアンディーとお話出来るのかな? って意味だよ。テイムが外れたりしないよね?」)
(「ますたー ますたーのまま」)
(「良かった」)
(「あたち ますたー すき」)
念話に被せて モキュモキュ ムキュウ と鳴き声をあげるアンディー。端から見たら、あー、あの人カーバンクルの話を聞いてあげてるんだなー…な訳か。「なあに?」とか「ご飯食べる?」みたいな他愛もない内容だったら、俺がアンディーに話しかけてても特に変には思われないだろう。
(「森にはどんなお友達がいたの?」)
(「いっぱい いたの なかよしは みどりのこ」)
あー、話に出てきたナマケモノタイプのカーバンクルか。
(「つちの なかのこ げんき してるかな?」)
(「つちのこ!?」)
(「ちがうの つち ほるの」)
ちょっと待って、カーバンクルには地中で生活するタイプがいたのか!? モグラタイプって事??? それは確かに見つけ辛そう。それで資料に上がってないのか。
「こんにちは、ミーシャ=ニイトラックバーグです。ラルフロ=レーンさん、いますか?」
「おう、いるぞー。誰かと思ったらミーシャじゃないか。久し振りだな。そうそう、先日の琥珀だけどな……」
そうだった。琥珀の時振りというかコカコッコの蹴爪のボタン振りというか。
「売れたんですか?」
「ミーシャがネタにした通り神様のレリーフ三点セットになってたぞ」
「そうなんですか?」
「隕石探しが大変だったらしいけどな。今、『マウンテン=ペアー』領の『アーマープリフェクチャー』に持ち込まれているハズだ。あそこは宝石細工が盛んな地域だからな。そこから先は多分『イースト=キャピタル』領でヒト族のお貴族様がお買い上げなんだと思うぜ。値段は青天井かもなぁ……、高く売れたらいいな」
「蹴爪のボタンはどうなりましたか?」
「あれもヒト族の手に渡ったハズだ。出入りの商人が 「また宜しく」 って言ってたからな。宜しく頼んだぞ」
ムキュウ
「はあっ?」
キュウ キュウ
「アンディー、ご挨拶してね」
ムキュウ キュッキュッ
「ミーシャ、それってカーバンクルじゃないのか? それも飛ぶやつな」
「流石、ラルフロ=レーンさん。昨日ボクの従魔になったアンディーです」
そんな話をしていたらラルフロ=レーンさんの表情、いや目付きが鋭いものに変わった。それ絶対カーバンクル石狙ってるよね。
ムキュウ
「あー、可愛い嬢ちゃんだな。どんな石を出すんだ? ミーシャ、もう貰ったんだろ?」
狙ってる、狙ってるよ…。俺がアンディーから貰ったカーバンクル石は四つ。下から二番目だと思った石 (カーバンクル石・三号) を出してみるかな。
「これですか?」
勿体ぶった素振りをしながら『キーボックス』からカーバンクル石・三号を出す。一号はアンディーから最初に貰った石だから何があっても渡さないぞ。譲ったりするなら三号、四号だ。
「なぁ、取らねぇからそれ見せてくれよ」
うっわー、怪しい!! 怪しさ大爆発だ!! 信用しちゃいけない怪しいオトナがそこにいる。
「見せるだけですよ…」
ムキュウ
「ほら、アンディーちゃんもいいって言ってるぜ〜」
言ってない!! 言ってないから。
(「あの おじちゃん おもしろいね」)
とは言え、なにか面白い情報が得られるかもしれないのでカーバンクル石・三号を渡した。
「おい、これ…アンドラダイト・タイプだろ? 磨いてないからパッと見では分かり辛いが、青やら緑やらピンクが見えてんぞ。これヤベェぞ。そうだな…どうせなら俺が弄るよりもリンド=バーグにやらせるか……」
ラルフロ=レーンさんはカーバンクル石・三号を見つめながらブツブツと呟き始める。
キュッキュッ
「アンディーちゃんは凄い石を出せるんだな。ミーシャ、その石もう何個か隠してんだろ?」
ムキュウ ムキュウ
「ご主人様に 「あのおじちゃんに石をあげて」 って言ってくれよな〜」
キュウ〜
ラルフロ=レーンさん、うちの子を唆さないで!!
「ミーシャ、マジな話だから茶化さないで言うぞ。恐らくこのカーバンクル石は認識阻害のかかる魔導具のコアに出来る。どうせコアで使うんだったらな、リンド=バーグに武器に組み込ませる強化素材として使わせてみたい」
「ボク、意味が良く分からないんですけど…」
「武器の柄頭辺りにその石を着けて、認識阻害付きの武器にしてみたい。って言えば分かるか?」
いきなり爆弾発言だよ!!




