第301話
朝になったのでアンディーを連れて市場に向かう。どんな野菜が好きなのか。生野菜がいいのか温野菜がいいのか、葉物野菜が好きなのか根菜類を噛るのが好きなのか調査だ。
「アンディー、好きな野菜とか食べてみたい果物があったら教えてね」
ムキュウ
一般的な八百屋を覗き込む。アンディーは俺の背中にしがみつき肩越しに顔を出している。首に付けている従魔証が見えるので店員さんも特に何か文句を言ってくる事もない。
(「ますたー あたち あの もじゃもじゃ すき」)
もじゃもじゃと言うのはブロッコリーこと【樹樹菜】の事。
(「ふさふさ たべて みたい」)
ふさふさはレタス。
(「まんどらごら みたいの すき」)
ニンジンだな。まぁこんなものか。昨日与えたキャベツは気に入らなかったのかな。
(「ますたー きのうの しかくいはっぱ どれ?」)
しかくいはっぱ? あーー、カットしたキャベツだ。あれから丸いキャベツは想像出来ないわ。キャベツは初見殺しであったか。
「アンディー、あの丸い球みたいな野菜が昨日のしかくいはっぱだよ。一枚ずつ剥がして切ってあったんだ」
(「まるいのも あたち ほちい」)
はいはい了解。アルファルファやハコベを魔獣の前で食べるより、普通の野菜を買って一緒に食べる事の何と簡単なことか。
(「アンディーは普段はどんな草を食べていたの?」)
(「うん あおいはなのくさ うまの すきな くさ どくのない きのは」)
あ…ツユクサとアルファルファな予感。流石に木の葉は俺には無理だな。…って魔獣の前で食べる前提で考えてしまうのが嫌なんだけど。
「はい、この【括れ梨】はサービスだよ」
「ありがとうございます」
【括れ梨】は洋梨の事だった。ほんのり甘い香りが漂う。
(「ますたー あたち それたべたい」)
「アンディー、一緒に食べようか」
会計を済ませ八百屋から離れるとナイフを取り出し縦半分に割る。半分はアンディーに渡しもう半分は俺が食べる。俺の分の芯が残る。流石に芯までは食べられないしな。ゴミ捨て場に持っていこうと思っていたらアンディーに取られた。カーバンクルは洋梨の芯まで食べるのか。手が梨汁でベタベタするので『浄化』。アンディーにもかけてやる。
キュウ キュウ
洋梨に満足したのかアンディーが毛繕いを始める。気付いたら俺のツインテールも毛繕いされてるし……。
巣箱をどうするか…。そもそもムササビ用の巣箱という物を売っているのかが謎だし。となれば下手に既製品を買うよりオーダーメイドがいいのかなぁ。パイク=ラックさんに相談してみよう。パイク=ラックさんなら木工でも籠でも素敵な巣箱作ってくれそうだ。
「パイク=ラックさん、お願いがあって来ました」
「おお、ミーシャじゃな。ちょうど良かった、アッシュを助けてやって欲しいのじゃよ」
「はい。ボクでよければ」
「ミーシャねぇね、助けてください」
「実はのう……」
何でも、わらび餅に感激したアッシュちゃんが家でもわらび餅を作ろうとして事件が起きた模様。そこに俺が丁度よく訪ねてきた訳か。
「お水の量を間違えたら、プルプルしないで紙になりました。失敗しちゃった…」
「ちょっと見せてね……、あ…」
これ、オブラートじゃないか? 食べてみるか…。いや先に鑑定だ。
(簡易):失敗したわらび餅
(鑑定):水分量が多かったわらび餅のなりそこない。オブラートに転生。
ちょ……、わらび餅がオブラートに転生してるんだけど。これは失敗なんかじゃない、大成功だ。
「ミーシャねえね、どうしたらいいですか?」
「アッシュちゃん、これは大発明だよ!! パイク=ラックさん、直ぐに商業ギルドに行きましょう」
「ミーシャ、どういう事なんじゃ? 儂にも分かるように説明するのじゃ」
「パイク=ラックさん、アッシュちゃん、これは食べられる紙です」
「えっ?」
「何…じゃと!?」
「なので、アッシュちゃんの登録品になります。アッシュちゃんはまだヒゲが生え揃っていないので登録申請には保護者も必要ですよね?」
「そっ、そうじゃな。まさかミーシャに諭されるとは…」
「ははは…、ボクも何度かやらかしてますから」
「この鍋は?」
「デンプンと水があれば出来るので向こうでアッシュちゃんに実演してもらえば大丈夫です。このまま商業ギルドに行きましょう」
「ミーシャは何か儂に用事が有ったのではないのかのう?」
「それより先にアッシュちゃんの登録ですよ」
ムキュウ
「ミーシャねぇね、背中の生き物は何ですか?」
「あ、ボクの従魔になったグライダー・カーバンクルのアンディーだよ」
「カーバンクルさん!! 初めて見ました。こんにちは」
ムキュウ キュウ キュウ
「本当はこのアンディーの巣箱をパイク=ラックさんに作ってもらおうと思って相談に来たんです」
「見た目は飛びリスに似ておるが、少し大きいかのう」
「巣箱があれば学園の学生寮で一緒に過ごしていいと言われました」
「壁に寝床用の巣箱を掛ければよさそうじゃのう。普段過ごす用には止まり木じゃな」
「パイク=ラックさん、お願いします」
「商業ギルドから戻ったらすぐ作るからのう」
キュウ キュウ
「部屋飼いならトイレも必要になるのう。学生寮だと部屋にトイレがないじゃろう?」
「確かにトイレも要りますね」
「ペット用のトイレを買って赤スライムを入れるだけじゃよ。従魔は賢いから教えたらトイレで用を足してくれるものじゃ」
もしかして、憧れの赤スライムペット化計画が発動すると言う事!? アンディーの排泄物があれば餌のペレットを与えるだけより育ってくれそう。
そしてアンディーの話をしながら三人で商業ギルドに向かった。




