第298話
冒険者パーティーの設定上、『地底娘』は翌朝『スリーストライプ』方面に向かう。そこで荷降ろしをしてまた『スワロー』に戻ってくる時にここで再度一泊する予定だ。『旋斧鬼』はのんびり逗留。まぁ、職校生のサポートというか護衛が本来の任務なのでね。適当な設定で炭焼きが終わるまで居座っている。『脈見役』も同様。一応は検脈するそうな。『鉱坑息子』は怪我人を乗せるための馬車を借りにメンバーの一人が『スワロー』に向かう。馬車が来るまで待機。
「私は回復魔法が使えるので怪我の度合いを確認しますね」
「お願いします」
「では『内診』します」
『内診』は文字通り体内の損傷度合いを確認する魔法だ。対人鑑定の一種。ただし光魔法なので誰でも彼でも覚えられる訳ではなかった。主に骨折の有無を調べるのに使う。骨折や脱臼は整骨してから治療しないと正しく治らないからだ。
「あ…左足の脛が折れてますね。右手の薬指も。という設定でしたよね。それとは別に左手の小指痛めてません?」
「あ、はい。ありがとうございます」
『旋斧鬼』には回復魔法の使える人がいるので怪我の確認をする。本当に『内診』を使っているので負傷者役の人のリアル故障箇所が判明してるし。冒険者パーティー達は気になるけど注視し過ぎると炭焼き窯の管理が疎かになるという罠。それでも野生動物の接近や飛び火の注意はしなくていいから楽なのだと。
「俺が学生の時に大事件が発生したんだ。野生の猪が熊をトレインしてきてな…」
「えぇ…」
「先生、災難」
「どうやって対処したんですか?」
「先ず、戦闘スキル持ちが猪と熊に対応している間に残りの土魔法持ち全員で『掘坑路』で巨大な穴を掘り炭焼き窯を地中に落とした。そのまま猪と熊を穴に落として『落岩』で岩を降らせて攻撃。そこから全員で『土饅頭』で只管埋めた」
「それは災難でしたね」
「もしかして『塹壕の帝王ユン=ボー』の武勇伝の一つでは?」
「いたな、ユン=ボー。あいつは土木の専攻で……って、そんな二つ名が付けられたのか」
「あれ以来、初めて炭焼きを体験する学生がいる時は冒険者パーティーに護衛を依頼する事になったからな。安全が第一だよ。冒険者側でも護衛任務でのポイントが稼げるから実は喜んでいるしな」
炭焼き実習が尊い犠牲の上に成り立ってなくて良かった。
「すみません『旋斧鬼』のザン=ライズさんに斧使いの指導をお願いしたくて…」
「僕がザン=ライズだ。レディ、名前は?」
「私はアリサ=ランド。ロビン=ランドの娘です」
「レディはランド氏族の出なのか。それより……間違えていたら失礼だが、もしやレディは鐘割りの…?」
「はい。間違ってませんよ」
アリサお姉ちゃんが『旋斧鬼』のザン=ライズさんに指導を申し込んでる。それより、鐘割り嫁のエピソードって鍛冶師界隈でも冒険者界隈でも有名なんだ…。
「それでレディは僕に何を教わりたいの?」
「『斧愕・三十六刑』を」
「『斧愕』は覚えてるんだよね」
「はい」
『斧愕・三十六刑』は斧で戦う三十六の処刑の型……ではなく三十六の戦闘の型だ。
「レディが得意なのは片刃? それとも両刃?」
「どちらも使えるけど、両刃の方が得意かな」
「じゃあ、『斧愕・三十六刑・表』がいいかな。レディはもしかしてバトルジャンキー?」
「違いますよ。リンド、夫のリンド=バーグが両刃斧を打つのが得意なので」
「これは失礼。だったら表をモノにしたら裏も覚えておけばいいよ。裏は自分を守りながら斧を取り回すからね」
冒険者同士の微笑ましいシーンなのだが、双方が振るう得物が両刃斧のせいで力一杯木を伐採している様にしか見えないんたけど。
「両刃はどうしても体位をスイッチしたり持ち替えが発生する。なので繋がらない型がいくつかあるから注意して」
「はいっ!!」
「有名というか、闘技場なんかで見栄えするのは『回し車』とか『沖大波』かな。これは表限定の型だね」
『回し車』は縦回転で斧をグルグル回す型で、『沖大波』は下から斧を何度も振り上げる型。確かに見栄えはする。
「それよりなら裏で『絡み柳』の方が使い勝手はいい。見栄えはしないんだけどね。それを高速化すると『疾風斬』に変化する。片刃斧の良いところは柄木側を身体に纏わせながら素早く斬りつけられるところかな。後、斧頭で釘が打てる」
「確かにいいかも。今度リンドに作ってもらおうかな」
「だったら戦闘スタイルに合わせてうまい具合にバランスを取ってもらえばいいよ」
「ありがとうございました!! 都合がついたらまた指導して下さい」
「僕でよければ喜んで。レディの所属は『スワロー』でしょ? あそこは職員に斧使いが多いから指導を頼んでみたらいいと思うよ」
アリサお姉ちゃんが楽しそうに両刃斧をグルグル回している。
「『鉱坑息子』が怪我をした設定の詳細が聞きたいです」
「オレ達は岩塩を掘りに行ってそこで負傷者が出たので下山し、この野営地の最寄りの街が『スワロー』なのでそこに馬車を借りに行くって設定だな。実際に岩塩は掘ってきたぞ。見るか?」
「見たいです」
二十センチメートル四方で切り出された岩塩の塊が二十個。オレンジ掛かっているものもあれば白っぽいものも有る。そっと鑑定してみたけど確かに岩塩。ただし不純物を含んでいる。
「これは職校に納品する用の岩塩だな。サイズ的に多分、岩塩ランプ用じゃないかな。オレ達は指定通りに採取してくるだけだから何に使われるかまでは気にしていないが」
岩塩ランプ!! ヤバい、作りたい。どの授業を取ればいいの???




