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第297.5話 (閑話)

多分、こんな事が行われているに違いない…という話。

「飲〜み 飲み飲み 飲み拳ホーイ 俺の命令飲んでよホイ!!」



ここは『イースト=キャピタル』領内の『ネオ・アカマデイシャンズ』にある歓楽街『シング・ダンス・アクター・タウン』。不夜城とも称されるここは良く言えば娯楽のパラダイスであり、悪く言うと飲む打つ買うの三拍子が揃い踏みする風紀乱れるエリアでもある。強いて言えば違法薬物が無いだけマシとも言う。なので当然ながら花街も有る訳で、そこを仕切っているのはモートン一家と言う半非合法組織だ。そしてモートン一家のバックに付いているのがフェンタ=イーサン=エロー男爵。好き者男爵と揶揄される、自他共に認めるスケベなオッサン…いや男爵なのであった。


さてその変態さんエロ男爵もといフェンタ=イーサン=エロー男爵、最近巷で流行している【飲み拳】なる勝負事を知ることになった訳で、その単純さと勝負性に見事どハマりした訳である。



「グレッグ、何故この勝負が酒飲みと関係あるのかね?」


「エロー様、これはそもそもドワーフ領で流行った遊戯でございます」


「ああ成る程そうか。ドワーフが発端なら酒飲み勝負になるのは仕方ないな」


「魔法カードバトルとは違い、カード不要でサッと勝負がつくということで、ちょっとした取り決めから博打まで最近は皆この【飲み拳】を嗜んでいるという事でございます」


「ふむ。花街でも勝負させたいものだな。それこそ客と娼館の主人がサービスの内容を賭けて勝負するとか、代金を賭けて勝負するとか…、客と娼婦を勝負させてもよいかもしれん。グレッグ、馬車を手配しろ。モートン一家に出向く」


「はっ、はい。承知いたしました」



その翌日、フェンタ=イーサン=エロー男爵が向かったのはモートン一家のフロント企業ではなく、【ラン&ファーン娯楽案内所】という看板を掲げた『シング・ダンス・アクター・タウン』の案内所というか斡旋所というか、一見マトモそうに見えて闇の深い場所だった。



「これはこれはフェンタ=イーサン=エロー男爵、ご機嫌麗しゅうございます」


「フルチェン、御託は不要だ。今日は近頃巷を騒がせている【飲み拳】なるものの話をしにきたのだよ」


「流石は男爵。耳聡うございます」


「折角だから花街でも流行らせようと思ったのだよ」


「賭博場ではなく?」


「バカモノ!! 賭け事で金が動きすぎたら風紀調査で粛清対象入りしてしまうではないか!! お上に目を付けられない程度で金も人も色も動かすのが長く甘い汁を吸うコツだ」


「失礼いたしました」


「まあ良い。私は思い付いたのだよ。この【飲み拳】勝負で一儲けする商売を。それはだな…」



・・・・・



「脱衣勝負でございますか?」


「そうだ。勝負に参加する女は身体は売らなくていい代わりに勝負に負ければ衣装を脱ぐのだ」


「衣装を? 脱ぐ…のですか?」


「そうだ、脱がせるのだ。娼婦ではない女が勝負事とは言え、自ら衣装を一枚ずつ脱いでいくのだ。そうだな、キャットファイトの選手同士で戦わせるのがいいかもしれない。それならどちらが脱いでも盛り上がるだろう」


「ある程度脱がせてからファイトさせても良いのではないでしょうか?」


「ほうほう。それは中々唆るな」



・・・・・



「フルチェン、更に思いついたのだが、地下闘技場で【飲み拳】バトルをさせてみようと思うのだよ」


「地下闘技場ですか?」



地下闘技場と言うのは非合法の闘技場である。主に違法奴隷だったり地下に潜った犯罪者だったり、そんな表に出せない面子を闘わせている。非合法で表に出せない者達なので戦闘中に亡くなっても構わないというグレーを通り越してかなりブラックな仕様である。命をかけて鉄骨を渡ったり魔獣と戦わせたりもする。



「私はそこで、看守と投獄された女騎士との【飲み拳】バトルをさせてみたいのだよ」



そう、看守と投獄された誇り高き女騎士とが牢獄の中で【飲み拳】バトルをし、女騎士が負けると一枚ずつアーマーを脱いでゆく。勝負に負け続け最後の一枚を脱がねばならなくなった時に「くっ、殺せ!!」を言わせてみたいと言うのがフェンタ=イーサン=エロー男爵の願望なのである。



「そう簡単に女騎士がおりますでしょうか?」


「まぁ、理由付けは何でもよいのだよ。女騎士でも魔法使いでも、それこそどこぞの姫君でも構わない。捕らえてバトルさせればいいのだ。純潔だけは守れるのならば衆人環視のなか裸体を晒すくらい安いものではないか」



デュフフ…と下卑た笑みを浮かべるエロー男爵。確かにそれは男の観客にはウケるだろうと金勘定を始めるフルチェン。二人の思惑は今ここに合致したのだ。




・・・・・・



「「「飲〜み 飲み飲み 飲み拳ホーイ 俺の命令飲んでよホイ!!」


地下闘技場の観衆が掛け声を掛ける。勝負するのは看守と誇り高き女騎士。



「ヒャッハー、俺様の勝ちだ。俺の命令は “ 一つ脱げ ” だ」


「最初は剣帯を外す。剣は取られてしまったからな」


「飲み拳ホイ!! 悪いなまた俺様の勝ちだ。ほら脱げよ」


「クソッ、ヘルムのバイザーを外す!!」


「はっ?」


「ヘルムのバイザーは取り外し可能だ」


「次いくぞ」


「ヘルムを脱ぐ!!」


「次だ!!」


「右手のガントレットを」


「次だ、次!!」


「右肩のショルダーアーマーを…」



アーマーを小分けに分解し始める女騎士。



「脱げっ!!」


草摺(スカート)を外す」


「脱げよ!!」


「ブレストアーマーの補強のパーツを外す」




「フルチェン、あれはどういうことだ!?」


「エロー男爵、フル装備のアーマーですので何かと…。ですがあのタイプのアーマーは分解するとビキニアーマーになります」


「何と、ビキニアーマーだと!!」



ビキニアーマーという単語にいたく興奮する変態さんエロ男爵。暫くするとアーマーの部位も減り、フルチェンの言った通りビキニアーマー姿に変貌していた。



「良い!! ビキニアーマーは良いぞ!!」



全裸まで後少し。フェンタ=イーサン=エロー男爵の鼻息が荒くなる。看守の鼻の下も伸びている。



「俺様の勝ちぃ。脱〜げ」


「クソッ………」



ポロン。女騎士が右のビキニアーマーの中からパットを取り出し投げ捨てた。



「それは一体?」


「うっ、うるさい、これは保護パットだ!! ビキニアーマーの内側には胸の保護の為にパットが入っている。本来なら貴様らの様なゲスなんかに見せる物ではない」



右のパットの次は当然左のパットが出て来る訳で…。



「おのれ!! 右の補正パットだ!!」


「右のアンダーレザー!!」



女騎士曰く、ビキニアーマーの中には胸の位置を整える為のパットが複数入り、ビキニアーマーのアンダー部分と接触する肌を保護する為のレザーパーツも入っているのだとか。



「フルチェンよ、いつ乳がポロリするのだ!!」


「エロー男爵、今暫くお待ち下さい」



意外どころでなく粘る女騎士。女騎士が粘れば粘るほどエロー男爵のイライラ度合いは加速する。



「そろそろじゃねぇのか? さぁ脱げよ」


「仕方あるまい。私はビキニアーマーを外す!!」



ガチャリ。女騎士が外したビキニアーマーの胸部分が地に落ちる。そこに現れたのはベージュ色のレザー素材で作られたビキニというかブラジャーだった。



「くううう!!!! 何故だ、何故!!」


「私も知りたいですよ」



何のことはない。素肌に金属鎧を直接当てるのは身体に悪いので、鎧下を兼ねた皮製のブラジャーを着けているだけの話なのだ。



「さぁ〜、そろそろ終わらせようぜ」


「飲み拳ホイ!! ああ、私の勝ちだ。先ずはこの牢の鍵を渡してもらおう」


「仕方ねえ。だがまだ逃げられねぇぞ」


「ホイ!! また私が勝ったぞ。私はこの牢の鍵を開ける」


「また私だ。脱いだアーマー一式を牢の外に出す」


「悪いな。私は牢から出る」



女騎士の猛反撃に目を白黒させる看守。そしてエロー男爵とフルチェン。



「悪いが貴様のクセは見切った。私の勝ちだ。牢の鍵を掛ける」


「ん〜〜〜〜!!」


「聞け、変態さんエロ男爵!! 私は勝った。自由の身だ!!」


「ぐぬぬ……クッ殺、クッ殺ぉぉぉ!!!!」



負け続けた様に見せ掛けた女騎士は看守のクセを見抜いていたのだ。そして自由の身を勝ち取ると地下闘技場から去っていった。



「次は魔女だ!! 裁判官と魔女のバトルだ!!」



そう叫ぶ変態さんエロ男爵だったが、魔法使いが多種多様なアクセサリーを装備しているものであることには気付いていないのであった。

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