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第294話

炭焼き窯に戻って来たけどアルチュールさんは居なかった。アリサお姉ちゃんもまだか。炭焼き入門組が全員揃ったところで講師が説明を始める。


「これから実際に窯に火を入れるわけだが大切な事がある。それは三つある。一つ目は一人で窯に火を入れない事。二つ目は水魔法が使える、もしくは次元収納に大量の水を用意してある事。三つ目は火を入れた日時を記録しておく事だ。この中で水魔法が使える者は何人いるかな?」


挙手したのは三人。次元収納持ちは大っぴらに公開しない事になっているので講師も有無は聞いてこない。



「今回は四組の冒険者パーティーが野営訓練を兼ねて護衛してくれるから何か有ったら頼ってみる様に。水魔法は勿論、回復魔法も使える者が参加している。酒は飲んでもいいが深酒して作業に支障をきたす場合はその時点で実習修了になるのでそのつもりで嗜む様にな」



流石にいくら酒好きのドワーフでも炭焼き実習で徹夜が確定している時は酒を慎む模様。



「冒険者パーティーは『(みゃく)見役(みやく)』が到着しているので水魔法という点では問題ない。それでは竃の神キャシー様に炭焼きの無事を祈願して、それから火入れだ」



お昼休憩の間に先輩達や先生が入門組が詰め込んだ木材の確認をしてくれていた。木材の乾燥具合はスキルで調整されている辺りが異世界の炭焼きって感じだ。キャシー様に炭焼きの無事を祈ってお酒を奉納。ポーション瓶に入った『生命之水(蒸留酒)』をお供えするだけだった。


土魔法で赤土を出し、炭焼き窯の入り口を塞ぐ為の壁を作る作業に入る。底の方は薪を入れて火を焚く焚口になるので縦✕横を三十センチメートルずつくらい残して開けておく。上まで全部塞がないで空気穴を開けておくのか。焚口用にレンガを積んでいく。一番下にレンガ一つ分の空気穴が空くスペースを確保。最後に焚口に蓋をした時にそこだけ空く様にするって事なんだ。焚口のレンガと炭焼き窯の隙間を塞ぐように粘土を使って固定。赤土だけでなくレンガも粘土も土魔法で出せるからいいよね。そして炭焼き窯後方の煙突を確認。窯の中の薪が乾くまでは煙突に蓋をしておくので適当に鍋が被せてあった。



「どうだ、大変だろう? いよいよ窯に火を入れる。最初はゆっくりと薪を燃やしていく。そうすることで材木がゆっくりと乾燥していくし窯の中の温度も均一に上がっていくからな。ここから三日くらいは薪を絶やさないように。昼夜問わずの作業になるから交代で火の番をする様にな。無理そうだったら誰かを頼れよ。三日目を過ぎた辺りで煙突から出る煙の色が変わってくる。この辺りで煙突の蓋を外す。黄色っぽくなってツンとする臭いも出て来るから、そうしたら火を止めて焚口に蓋をする。そうしたら冷めるまで待つだけだ」



皆で必死にメモを取る。分からなかったら聞き直すなり皆で確認をすればいい。軽い気持ちで参加したけどこれはかなりハードな実習だ。リンド=バーグさん達が炭焼き実習がトラップって言っていた意味がよく分かったよ。パート君もジョーブ君も来てるけど、そこまで仲良しでもないので無視しない程度で対応しておく。まぁ、皆必死なので騒いでもいられないと言うのが本音だけどね。



「先生、火の番に参加しない生徒は三日後に合流ですか?」


「火を止める少し前に来てもらいたいから二日目と半日が過ぎた辺りで合流して欲しい。五の日のお昼前までに戻ってきてくれれば丁度いいだろう」


「炭焼きの先生、五分ほど時間を貰えないだろうか?」


「ん? 『(みゃく)見役(みやく)』の…」


「はい、私は検脈師(けんみゃくし)のマック=アースです。一言だけ生徒の皆さんにお伝えしたい事がありまして」


「あ、『脈』か」


「はい。私の仕事は検脈師(けんみゃくし)です。大地に走る水脈や鉱脈、龍脈を探り当てる仕事をしています。炭焼きの竃を作る時はその大地の『脈』を外して作ることが大切なのです」


「もし『脈』の上に建てたらどうなりますか?」


「『脈』を刺激し『脈』の機嫌を損ないます。竃が壊れる程度なら些細な事と言われるかもしれませんが、もしそれが大規模な製鉄の炉だったり魔導ガラスの工場だったら大惨事を引き起こす可能性があります。なので最初から『脈』の上に刺激するものを建てないことが推奨されるのですよ」


「そうなんだ」 「不思議だね」 「『脈』って凄いんだな」



これって前世で活断層の上に危険な施設を建てない様に…ってのと感覚的に一緒なのかな? 少し違う? 



「家庭の竃も含まれますか?」


「厳密にはね。私達検脈師(けんみゃくし)の間では、家庭の竃はギリギリセーフで、鍛冶師の個人宅の炉はアウトと言う事にされています。水脈の上に家庭の湯船を置くことは許されますが大規模な共同浴場を作るのもアウトですね。わからない時は頼ってください。その為の検脈師(けんみゃくし)ですので」



(みゃく)見役(みやく)』は検脈師(けんみゃくし)が二人所属している六人組のC級冒険者パーティー。マック=アースさんともう一人がナックヤーマン=キーン= ニックさん。専ら大地に走る『脈』を調べている特殊な冒険者パーティーだった。



「ここの炭焼き窯は大丈夫なんですよね?」


「勿論、問題有りませんよ。ですが、意外かもしれませんが『脈』というのは生き物なのです。十年二十年するうちに『脈』が産まれることも動いたりすることもあります。なので、先人が決めた場所だから安全だと盲信せず、気になる様なら調べてみる事が大切ですよ」



これは結構重要な話だな。将来、家を建てる事になったら検脈師(けんみゃくし)に調査してもらおう。



そして皆が見守る中、先生が焚口に積まれた薪に点火。少しづつ火力が強くなっていき、煙突からは水蒸気を含む湿った白っぽい煙が立ち昇った。で…『地底()』の皆さん、来るの遅くない? もう火入れは開始しちゃったよ。 帰る前にワギュと触れ合っていこうか。

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