第292話
動物王国6256。いや、そんなに動物には囲まれないと思うんだけど…。あ、養蜂したら有り得るのか。タマゴちゃんの名前は考えてるんだよ。候補はコカちゃん。流石にね、炭酸飲料の名前はいかんでしょ。まぁコーラちゃんでもいいんだけど何で甲羅だよ…ってなりそうな予感。
微弱ながら解毒が生えた。これは嬉しい。これ、植物毒とか動物毒とかで別れてないだろうな。鉱毒とかありそうなんだよなぁ…。まさかがありそうだから意識して使ってみたほうがいいかもしれないな。毒看破とかあるかな? 毒の種類を見分けるやつ。毒素分解あるいは毒成分分解とかもあるといいよなぁ…。それがあったら毒キノコとかフグが美味しく食べられるんじゃない? それこそ二日酔いも分解してくれそうだぞ。
学園には共同浴場が無い。でも小さなお風呂はあるとの事。何事も体験ということで学園のお風呂に入ったけど、湯船が樽で消化不良。代わりにシャワーが付いているのは便利でいいんだけどね。異世界ってシャワーが無いのかと思っていたらちゃんと有った。ただ、カテゴリーとしては魔道具の一種なので一般普及していないというだけだ。その点、学園は魔道具研究もするし魔法にも関与してるし。耐用実験で洗い場に付いているだけなのよ。詰まる所、職校のお掃除ゴーレム『走婆』と同じ扱いだった訳か…。
洗い場は三メートル四方くらい。シャワーは赤いボタンを押すと一分ほどお湯が出て、青いボタンを押すと一分ほど水が出る。前世の銭湯でもお馴染みのシステムだな。壁から生えた水道管の先にジョウロの先端が付いている固定タイプ。一つだけホースタイプが有った。多分、試作品なんだろう。面白いのは、
“ 『浄化』、『洗浄』、『汚れ落とし』を使ってから湯船に浸かりましょう ”
と書かれた注意書きが貼られている事かな。樽だよ樽!! お湯なんてロクに溜まらないよ!! それと石鹸が置いてないんだよ…。そして、『汎用魔法』に『汚れ落とし』という呪文があった事を今知りました。
夕食はね、職校と比べると量が少ないんだよ。頭脳労働だからか? エールの提供は二杯までは共通ルールらしい。値段も変わらず一杯が銀貨一枚。ガッツリいきたかったら職校で食べるのがいいみたいだ。肉も野菜もバランスよく味付けが薄めなのも特徴かな。それより壁にね、
“ 錬金砂糖が完成しますように ”
って貼り紙があるんですよ。皆、甘い物に飢えているんだな…。
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今日は炭焼き実習の火入れの日。チョッピリ気合をいれるか…と言うことで髭を編み込む。最近は三つ編みばかりしてたからなぁ…。『汎用魔法』の『汚れ落とし』は炭焼きと相性が良さそうな気がしないでもない。それも炭の取り出し作業と。クルラホーンのアルチュールさんがいた時のことを考えてツマミを持っていくか。今日はセミドライの細サラミとカレンズ。小さいサラミも小粒のレーズンもクルラホーンならそこそこのサイズになるしな。居なかったら居なかったで俺のオヤツになるだけだ。
ちょっと待てよ、【粗相豆】の鞘って、クルラホーンなら四合瓶とかワイン瓶サイズじゃないのか? 気持ち小さい? そう言えば前世で魚の形の瓶に入ったワインを見たことがあるぞ。今度ワインを詰めておいてあげよう。
炭焼き窯に木材を詰める。先生の話だと壁際や入り口付近で出来上がる炭は品質が一段落ちるので、最初からグレードの低い木材を配置するといいとのこと。高品質の炭は窯の中心部分に置かれたものから取れるので、勿論そこに品質の良い木材を詰める。そして縦置き時も下が梢側、上が根元側になるようにするんだったな。ちゃんと上側に印を付けて陰干ししておいたけど、良い材木だけは鑑定で確認する。曲がった枝が綺麗に窯の中に収まらない。これ、炭にするからって適当な木材を選んだら苦労するんだ。当たり前だけど細枝でも真っすぐな方が詰めやすい。曲った枝は薪にするのがベストと言う事だね。
皆で試行錯誤しながら窯に木材を詰め込んだらお昼前。そこで先生から声が掛かった。
「はい、お疲れ様。本当はここから直ぐ窯に火を入れるんだけど、火入れをしたらノンストップだ。交代で火の番をすることになる。なので、一回休憩を入れるぞ。職校に戻って昼飯を済ませてくるように。火入れをしたらそこからは交代で火の番だ。火の番に参加しない生徒は日が暮れる前に戻っていいからな。窯出しの時に来てくれればいい。尚、火の番には冒険者の方達が参加してくれるので安心する様に。冒険者の方達は午後からの参加だ」
アルチュールさんはいるかな〜? ……いたよ。お昼を食べに戻る前に差し入れしておこう。
「ルラッホー。アルチュールさん、こんにちは」
「おう、ミーシャか」
「今日も巡回ですか?」
「まあ、そんな所だな」
「はい。今日もお酒があります」
「いっつも悪ィなぁ。いいのか?」
「トモダチですから。ツマミはサラミと干しブドウです」
「いいねぇ。クゥ〜〜ッッ、たまんねぇ。生き返えらぁ」
実にいい飲みっぷりだ。見ていて気持ちがいい。そうだ、アルチュールさんに【粗相豆】を見せてみよう。だいぶ手持ちの数を減らしちゃったから、もし生息地を知っていたら一つでも二つでも採取してきてもらいたい。
「アルチュールさん、これって知ってます?」
「ん? 酒か? ……ってヤベェ汁じゃねぇか!!」
【粗相豆】、クルラホーンには【ヤベェ汁】なのかよ。
「これ、塩味の調味料なんです。ボク、最近これを集めてるんです」
「マジか!? それってアレだぞ、兵隊に取られたくない奴が飲む奴だぞ。最悪死ぬぞ!!」
気の所為でなければ俺から逃げようとしてないか?
「アルチュールさんに飲ませたりしませんから。これって豆の鞘の中に黒い発酵汁が入っているんですけど、中身を抜くとこうなります」
そう言って『キーボックス』から空になった鞘を取り出す。勿論、赤いキャップ付きだ。
「おおぅ、空っぽだな」
「これ、中を浄化したらポーション瓶の代わりに使えるんです。なので、お酒も入れられます」
「マジか?」
「赤ワインや白ワインを入れたらオシャレだと思いません?」
「イケてんなぁ」
「アルチュールさんが【粗相豆】を持ってきてくれたら、中にワインを入れた物と交換しますよ」
「ん………乗った!! 一本、二本でいいんだろ?」
「そうですね。アルチュールさんだと持ち歩くの大変そうですし」
「いつ持ってくればいい? 何処にいる?」
グイグイ迫ってくるんだけど…。酒の力、恐るべし。
「ボク、『スワロー』の学生なんです」
「学生かよ。で、どっちだ? 働くオジサンのいる方か? 魔法使いのオネェサンのいる方か?」
「両方です」
「両方ってそりゃあ神童じゃねぇか!! よし、見つけたら持って会いに行くからな。ワインくれよな!!」