第280話
「それでマジックバッグのレンタルの件なんですけど…」
「受付で手続きしてくれればいい。料金は返却が確認されるまでギルドの登録証から自動引落しされる」
「儂は三毛皇閣下に納品する新年飾りをこのマジックバッグに詰め込んできたのじゃ。配達後はミーシャの借りるマジックバッグと一緒に返却じゃな」
パイク=ラックさんは時間停止無しの大サイズのマジックバッグをレンタルしていたよ。尤も、新年飾りは商業ギルドも一枚噛んでいる話なのでレンタル代は商業ギルドと折半。受付で贈答用品を収めるための外箱を買い、わらび餅とみたらしタレとを詰め「お代官様のお好きな黄金色の菓子でございます」と一筆を添える。ワラビの絵を描いた紙を貼り付ける。
そこに日本語で書いた手紙を添える。
「 海鮮一家の長男風味の出汁に心当たりはありますでしょうか? 」
発送は明日。かつお出汁、有るといいなぁ…。
案の定、ゴボウの購入は呆れられてしまったな。それでもキンピラゴボウの布教を始めることが出来た事は喜ばしい。改めて思ったのは日本食は醤油ありきだという事。その点では『ネオ=ラグーン』領内に【粗相豆】が生えていてくれて本当によかった。この先もし転生する魂にアドバイスする機会があれば「チート能力より味噌・醤油のある世界を選べ」と言いたい。味噌は無くても醤油の有る世界を選んでくれ。
話が逸れたな。そう、ゴボウの話だ。俺、思い付いたんだけど【魚卵草】の実を上手くトンブリに処理できたら『ベジ魚卵』と称してエルフに売り込んで、代わりにゴボウを購入出来るかもしれなんじゃないか? …って。とは言え、収穫した実からトンブリに加工する為の処理方法が全く分からない。前世でトンブリに遭遇したのは秋田旅行の時に興味本位で口にして悲しい気分になった時と、スーパーの野菜売り場で真空パックになって売られているのを見かけた時だけだ。コキアを植えて紅葉を観光のウリにしている所でも紅葉後に実を収穫しトンブリ加工を体験するイベントなんてやっていなかったみたいだから、前世でも生産地以外では加工方法が広まっていなかったのかもしれない。まぁ前世だったらネット検索すれば出てくるんだろうけど、生憎ここでは検索のしようがない。
出来ることならトンブリを輸出してゴボウを輸入したいんだよなあ…。ついでにコンニャクもね。オロール先生が言うにはこの世界のコンニャクを練るには魔力が必要だと言う事なので、出来ることならエルフが生産してくれたコンニャクの完成品を購入したい。だって、おでんに入れたいじゃん、コンニャクとゴボウ入りの練り物。【プラントオーク】で作る豚汁にだってコンニャクを入れたいし、将来的にはすき焼きとか鍋物にもコンニャクを入れたいんだ。豚汁にはゴボウも入るか。まぁまだ味噌は無いんだけどね。醤油みたいにどこかに生えてないものか…。まぁ、醤油味の豚汁で妥協するだけだな。
しかし、仲が悪い訳でもないんだろうけどエルフ情報が少ないな。オロール先生の反応からすると、多分ドワーフもエルフと仲良くはなれなさそうな予感。仲良くなれなくても上手く利用…いや交流出来ればいいんだ。それにはエルフの特産品を知る必要があるな。植物に造詣が深いのなら豆腐や味噌を知っているかもしれないし。
それにはやはりトンブリなのか…。【魔海鞘】ランプや【スライムの死核】アクセサリーでも良さそうではあるけれども。レミ神、貴神はトンブリの処理の仕方を知っているのでしょうか???
{ ―― そんなのはね、煮ればいいのよ。ザーッと煮ちゃうの ―― }
え………!? 神託!?
――――― ( ここからカーン=エーツ視点 ) ―――――
あぁぁ〜〜〜えろう疲れた!! 折角、サクッと仕事して時間作ってミーシャはんの手料理を堪能しに行こと思ってたんやけどなぁ…。何でヒト族領であないに疲れる商談せんとあかんのか。『啼哭過激団』はんとも話し合おうてんけど。『啼哭』はんで一番のクセモンは『道化師のエイト』はん。あのだんさんは食えんお方や。
「カーン兄貴、おかえり」
「疲れたわー、疲れてもう……言葉にならねぇよって、ホークは眼鏡じゃないのか」
「アッシュ=ラック、パイク=ラックのお孫さんから冷やしワートを出してもらったからね。酔ってないよ」
「カノジョ…じゃなくて、幼女かよ」
「まだ髭が生えてきたばかりの可愛い子ちゃんだったよ。でも手を出したら爺バカに殺られるけどね」
「出さねぇ出さねぇ。で、ミーシャの飯は美味かったの?」
「すっごくね。あ、マジックバッグの中に【海蛇魚】を焼いた時の匂いがあるんだけど、兄貴、嗅ぐ?」
メンテナンス前のマジックバッグに香りを詰め込むって、ホークは馬鹿なのか? そう言えば一回目の【蛇魚】焼きでは匂いで大変なことになりかけたとか報告が入ってたな。それでマジックバッグに入れたか。普通はやらねぇだろ。
「あー、嗅ぐ嗅ぐ。 くんくん…、うわっ、ヤバッ!! なんやねん、これ!!」
「噂のタレ焼きの香り」
「匂いだけとかって、イヤガラセかよ」
「あ、唐揚げをお土産に持ってきたよ」
「ホークにしたら気が利いてる」
取り出された唐揚げはすっかり冷めていて…。どうせだったらこっちを時間停止のマジックバッグに入れていて欲しかった。
「はい、唐揚げとエール。エールは温いけど勘弁して」
唐揚げを食べる。固そうな見た目に反して簡単に噛み切れる。塩と…これは【長胡椒】風味か? 魚なのに濃厚で食べ応えがある。冷たさだけが残念だよ。
「これ、魚だよな?」
「そう。兄貴がミーシャにお土産で買ってきた【大蛇魚】ね」
「ブッ…… こ、これが【大蛇魚】!?」
マジかよ。イヤガラセでも何でもないじゃないか。単なる美味しいお魚だぞ。
「でね、更にタレ焼きのタレを絡めてマヨネーズを掛けたらこうなるよ」
「まだ有るのか……、これも美味い。エールが温いのがムカつく」
「皆で食べた時は、熱々の唐揚げをキンキンに冷えたエールで楽しんだよ。俺とアッシュ=ラックはワートだったけどね」
「く〜〜っっ、何で 俺は その場に 居なかったんだ……」
「また買ってくればいいんじゃない? どうせまた兎の人のところに行くんでしょ?」
クソッ…今度はヒドラ饅頭を買って帰ってやる。




