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第277話

「それで、試してみたい調理方法というのは? 私、食べた事あるかな?」



多分ないと思います。俺も前世でそこまで食べてないし。いつだったか、職場の忘年会で出た事があったかなぁ…。熱燗と一緒にやったけど美味かったよ。



「【強情菊(ゴンボ)の根】の皮を包丁の背でこそげ落とします。それから包丁を枝を削る時の様にスッスッと動かして【強情菊(ゴンボ)の根】を薄い削ぎ切りにします。アクが強いので水に晒しておきます」



柳川鍋の作り方は一応知ってる。ドジョウを使わないバージョンはレシピサイトにもそれなりの数が上がってたしね。



「面白い下処理だな。【強情菊(ゴンボ)の根】の事を知らなければ木の根を削って食わされると勘違いするところだ」


「小鍋に『生命之水(蒸留酒)』と水を合わせ、そこに【川底小枝(ヤナガー)】の開きと【強情菊(ゴンボ)の根】削ぎ切り、【緑白(りょくはく)葱】を入れ、沸騰したら【粗相豆】と水飴少々で味を整えます。最後に溶き卵を注いで火が回ったら完成です」


「【川底小枝(ヤナガー)】と【強情菊(ゴンボ)】の卵とじか」


「熱々を食べながら『生命之水(蒸留酒)』を飲んだらいいと思うので、先に先日アッシュちゃんと作った卵を使ったサラダとかを作った方がいいです」


「はーい。ミーシャねぇね、あの後サラダをじぃじのために作りました」


「凄い。アッシュちゃんって勉強熱心なんだね」


「じぃじ、喜んでくれました」



それを聞いてデレデレの笑顔を浮かべるパイク=ラックさん。幸せそうでなにより。




それから前回パイク=ラックさんのお家で作った玉子サラダを順に再現。なので最初は温泉玉子を作るところからだ。



「卵を保温器に入れるんだ。加熱するなら『コカコッコの祝福(ブレス)卵』の必要はないんじゃないの?」


「ホーク=エーツさん、これ卵を半生で仕上げるので念の為です」


「半生? 半熟じゃなくて?」


「半生です」



温泉玉子を放置してる間に普通の茹で玉子を準備。茹で上がったら冷水に取って冷やし、殻をむいて白身と黄身に分けておく。サラダ用の葉物野菜は洗って千切っておく。アッシュちゃんが段取りよく手伝ってくれるので前回よりもサクサク進む。クルトン用のパンも乾かし、【茄子花芋】のポタージュも完成。


続いて魚の調理へ。アナゴの串打ちはパイク=ラックさんの仕事だ。的確に串打ちする姿にアッシュちゃんがくぎ付けになってるよ。


「アッシュ、これは籠や板材に釘を打つ時のスキルの流用なんじゃよ。どんな物にも『目』というものがあってのう、そこを目掛けて尖ったものを刺せば抵抗無く刺さるのじゃ」


「じゃあパイク=ラックさんは人体の急所にも打てるんですか?」


「アリサ=ランドさんじゃったな。勿論打てるのじゃよ。まぁ緊急事態にでもならない限りは打たぬがのう」



パイク=ラックさんって優しい笑顔に似合わず経絡秘孔の使い手だったのか…。



「俺もガルフ=トングも『目』は見つけられるぞ。というか大抵の鍛冶師は見えてる」


「そうなの?」


「柄の目釘留めの為に武器の(タング)に穴を開ける時とか、金属アーマーをカシメる時に穴開けする時とかがあるだろ。あの時に『目』を外してるぞ」


「穴を開けていい場所を『目』と呼ぶ場合もあるがな。間違わないように『(バツ)目』と『(マル)目』と言い分けてるよ」


「儂の串打ちは『(マル)目』という事じゃな」


「そうだな」


「リンド、『(バツ)目』を開けたらやっぱり武器としては不良品になるの?」


「武器だったら(タング)が折れやすくなるな。穴を開けたくなる箇所に限って『(バツ)目』が出たりすることもあるしな」


「それでたまに変わった位置に目釘が有る武器があるんだ」


「加えて武器を取り回ししやすくする為のバランス取りもするからな、気を使う。それはそうとパイク=ラックの仕事でも『(バツ)目』は有るだろ?」


「ここに釘を打ったら材が割れる…とかの事じゃな」



鉱石だったら劈開の位置とかだな。前世でどれだけ泣いたことか……。




アナゴは蒲焼きに。ハモは湯引きで食べるのとスープの具にする。ウツボは唐揚げ。ドジョウは柳川鍋。居酒屋って感じだ。



「外した背骨と頭を軽く焼いてからお湯で煮てスープ用の出汁を取ります」



出汁を取っている間に魚を焼いたり揚げたりが始まる。ゴボウの余りとニンジンを千切りにしてキンピラゴボウを作る。醤油万歳!! 今はまだ野外採取に頼っているのでいつ在庫切れしてしまうか心配で心許ない。



俺らが調理している間にアッシュちゃんにミモザサラダ用の茹で玉子を荒目ザルでを通してもらう。記録係のホーク=エーツさんが感心しながら観察してるよ。



「ここからタレに浸けて焼く作業が始まるが」


「待って!! このマジックバッグに香りと煙を移して」


「マジックバッグに…ですか!?」


「先日、あの香ばしい香りでギルドが大パニックになったから。今回はメンテ前のマジックバッグを持ってきた。どうせオーバーホールだから臭いや汚れが移っても問題ないから」


「本当は排気の魔道具があるんだ。マジックバッグでも代用出来るが臭いや汚れが付くから推奨しないな」


「『汎用魔法』の『換気』をマジックバッグに繋げばいいだけだよ」



錬金術師や薬師の作業中では悪臭や有害ガスが出る事が珍しくないので、前世で言うドラフトチャンバー的な魔道具が存在するのだ。まさか蒲焼きの焼ける香ばしい香りがその対象になろうとは…。



「まさか秘薬製作時の換気と同じ扱いにされるとは…」


「いや、あれは破壊兵器だろ?」




ハモはスープに入れる用にはデンプンをはたいてから茹でた。これで口当たりがツルンとする。唐揚げが揚がり、柳川鍋も火が入る後は卵でとじるだけ。蒲焼きも香ばしく仕上がる。ウナギの蒲焼きよりは脂の焼ける匂いが弱い感じだ。キンピラゴボウも完成。柳川鍋を卵とじしている間に温泉玉子を割る。ちゃんと白身はドロリと白濁で黄身はもっちり半生になっていた。


「それが半生卵?」


「はい。サラダのトッピングです」


「その【強情菊ゴンボの根】と【食用マンドラゴラ】の炒め物は?」


「職校で非常勤講師をされている古代エルフの伝統料理をボクなりにアレンジしました」


「じゃあ試食と記録を開始しよう」

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