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第268話

輪ゴム指鉄砲の一件で皆から怒られる訳ではなかった。怒られるどころか感謝されてたし。ただ、この件については箝口令が敷かれるという事で他言無用に。この話が【履筒(タイヤ)】に関わる重要案件であると公文書に記入する事も禁止されたので俺が『伸縮事変(エラス・インシデント)』に関与した事実は完全に伏せられた。まぁ、表に出さない機密文書には勿論記載されているんだけど。流石にそんな事実なんて無かった…って事には出来ないもんな。


秘密にするにあたり、特に神殿で神に誓って契約するとかは無かった。ちょっと期待していただけに残念。一応、そういった術式を組み込んだ魔法陣は有るみたいだけどね。



そしてこの一件の発見者は校長先生という事になった、というか校長先生の発見にした。お孫さんにせがまれて着けてみた髭エクステを外した時に気付いた…という体にするって話だ。校長先生には功績を奪うみたいで申し訳ないと頭を下げられたが俺としては悪目立ちしなくて済むのでそこはWin-Winの関係です。



で……、俺達はまだ学長室にいます。まだ帰してもらえません。どうせなので来月からの学生寮の利用申請をしていこうかな。




「それで、『指弩弓フィンガー・カタパルト』の他にもチューブワーム由来素材が武器転用されるかどうかだが」


「ボク、思い付いたんですけど、スリングショットの弦に使えますよね?」



そう言いながら人差指と中指でYの字を作り、そこに【伸縮輪(エラス・リング)】を掛け、中心部分を二本一緒に引いてみせる。後でゴタゴタするより今のうちに言っておくに限る。



「どう見てもスリングショットそのものだな」


「これがありましたか」



この世界での弓に使われている標準的な弦は麻糸か馬の尻尾の毛、もしくは絹糸を使った双撚(もろよ)撚糸(ねんし)だ。双撚(もろよ)りというのは二本の糸を捻って作った撚り糸の事。丈夫にするために蝋を引いてみたり【魔(にかわ)】を塗っててみたり、そんな作り方をしている。絹糸で作られた弦は高級品。金に糸目をつけなければ【魔絹(マジック・シルク)】や【魔蜘蛛糸マジック・スパイダーシルク】なんかで作られた弦もあるけど、どうこう言ったところで所詮弦は消耗品。消耗品にそんな魔獣素材を使うのはヒト族の王侯貴族が箔付けというか貴族の力を自慢する時ぐらいだ。


なので、スリングショットは存在している。…けど、撚糸を使うものは弓と比べれば射程も短く殺傷力も低いのでオマケの武器程度でしか普及していない。魔法を飛ばしたほうが簡単って事か。実のところ魔物素材を使っていない弦と矢に魔法を付与(エンチャント)するのは意外と難しい技能であり、スリングショットも同様である。弾は飛ばない強化もし辛いスリングショットは人気が無くて当たり前なのだ。スリングショットにはマンイーター系の触手を使ったりもするけど、触手は獲りに行くのが大変らしい。



「費用的には魔獣素材を使った場合とどちらが安いのかね?」


「今はまだチューブワームの方が高いですが、直ぐに逆転するでしょう。もしかすると絹糸よりも価格が下がるかもしれません」


「これも弦に転用出来ない様にいたしましょう。幸い、チューブワーム素材は縦方向にはそこまで伸びませんので」


「輪切りであれば、ヒト一人を丸呑みする様なサイズでもなければ弓に使う事のできる十分な長さの弦は取れないでしょう」


「組紐や編んだ紐で想定外の強度が出ない様にしないといけないのではないかね?」


「それでしたら縦方向に裁断する時は一ブーン、公用単位ですと三ミーリミートル幅以下には出来ない様にする事にしましょう。もしくは組んだり編んだりすると素材干渉が発生する様にするか…」



なかなか大変そうだ。改良や開発は俺には関係ないハズ。錬金術師さん、魔道具師さん、お仕事頑張って下さい。




「そうだ学長、例の件はどうなっていたかね? パラパラポンチ絵だよ」


「ゴーレム機関の流用で速度は遅いながらも動かせる様にはなってきていますよ。見ていかれますか?」



あ、そんなネタもありましたね……。



「なかなか難しく、それだけに面白い。ハーレー=ポーターが新しいおもちゃを見付けたとばかりに食い付いてますよ」



見せてもらった物は二種類。パラパラと底から上に絵を目繰り上げる方式の物と、その逆順で上から絵を下ろして積み上げていく方式の物。流石に初歩の初歩、基礎の基礎って感じだけど、これがアッという間に改良進化していくんだろう。とても楽しみです。そして初代問題児ことハーレー=ポーターさんが開発部にいるのか…。



「今はまだ積み上げられた絵を順番に動かすだけですので膨大な量の絵が必要になっておりますが、ゆくゆくは遠隔投影を実現化させ、更には記録された物を個別に映し出せる様にしようと考えているみたいですね。」



遠隔投影というのは基地局でパラパラポンチ絵をゴーレムに読み取らせ、それを転送して別の場所で再生させる構想のことなんだとか。そんな事を考えて実用化しようとしてるんだからハーレー=ポーターさんは凄い(ドワーフ)なんだと思うよ。



(「いやはや、一号二号のツープラトン攻撃ですな」)


(「技術の一号、ネタの二号ですかね?」)


(「『魔法の箱(ツァバ・キャステ)』と言うか『箱の悪魔ディアボ・デュヴァート』と言うか…」)



何かヒソヒソ声がするんだけど、そこそこ聞こえてますよ。『異世界言語(X−リンガル)』さんによると、『魔法の箱(ツァバ・キャステ)』は古い時代のドワーフ語でビックリ箱。『箱の悪魔ディアボ・デュヴァート』はエルフ語でのビックリ箱。ちなみに共通語だと『冗談箱(ジャキーン・ボクス)』で古代エルフ語だと『驚き箱(オンローハゴコ)』になる。になる。問題児だと聞こえが悪いのか言葉を選んで表現を濁してる? それ聞こえてるんだけど……いや、聞かせてるのか!?



それより俺って “ ネタの二号 ” だったのね…。



{ ――― ウニ イカですよ〜 ――― }



ヤーデさん、元気してたんだ……。海胆(ウニ)烏賊(イカ)って食材? ウニイカ丼?



{ ――― あら?発音が悪かったかしら。ウリーカ?ウリイカ?エウレカ? ――― }


{ ――― ミーシャさん、ウニイカ入りまーす ――― }




ヤーデさんのメッセージの意味がよく分からないままウニとイカの口になってしまった。

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