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第262話

俺は柄のほうが余るように地金を叩き出していたので柄の方を切り落とす。クリフ君は『つぼ』側を、ローザさんも俺と同じで柄のほうを切り落とした。端材を切り落すやり方は、材の厚みにも左右されるけど、 “ 切り(たがね) ” という金属を叩き切る為の(たがね)をハンマーで叩いて切断する。



「これはオリハルコン含有材の “ 切り(たがね) ” だ。これを精錬してオリハルコンを抽出する事は出来るがかなり効率が悪い。それでもオリハルコンって響きだけでヒト族に狙われる道具なんだよなぁ…。という訳で将来独立した時はそこら辺に転がしておくなよ。作業中でも使わない時は『キーボックス』か次元収納に隠しておけよ。鍛冶師は素材の事もあるから次元収納は小さいサイズでいいから必須のスキルだ。覚え方は『キーボックス』の時と似た感じだ。俺の説明が悪くて申し訳ねぇんだが、まぁ次元収納は……頑張れ」


「はいっ、頑張ります」


「『つぼ』部分は今回は縁を整える以上の研磨は無しでいく。最終的な形を考えながら叩いていけよ。角度を出すのはそこら辺の当て台、金床(かなとこ)、当て金、矢坊主(やぼうず)なんかは使っていい。その時は木槌や撞木(しゅもく)鎚を使えよ。金槌じゃねぇからな」


当て台というのは凹状に窪みが付けられた木製の作業台。そこに金属を置いて矢坊主(やぼうず)を当てて木槌で叩いて凹みをつけてやる。矢坊主(やぼうず)は円柱の先に球が付いた形状。巨大なエノキダケかブナシメジって感じかな。金属に当てる方はエノキダケの球状の方ね。円柱状の柄の先を木槌で叩いて使う。矢坊主(やぼうず)のサイズは極小から特大まで沢山あるので紛失に注意だ。矢坊主(やぼうず)を使って板材から鈴やカウベルを作れるようになったら(しょう)鍛冶師を名乗っても構わないのだとか。金床(かなとこ)は金属製の叩き台。板状もあればレンガ大の塊もあるし、エリンギみたいに柄の先に叩く台が付いた形状のものもある。キノコ型の金床(かなとこ)は切り株なんかで作られた木台に差し込み穴を掘り、そこにキノコ型の金床(かなとこ)を刺し込んで使う。当て金は金床(かなとこ)の変形版。金床(かなとこ)だと支えられない個所に金属を当てて支えたりするのに使う。スプーンなら柄を曲げたりする時に支えるのに使う。


この辺りの工具類は鍛冶師も使うけどアクセサリー類を作る彫金作業でも使うので、カリキュラムが進むうちに鍛冶師から細工物師に転向する(ドワーフ)も珍しくなかった。



クリフ君は二年生。本気で鍛冶を学ぶつもりなので炉の扱い方や地金の準備とか先輩達のサポートが中心だったので本格的に作品作りをさせてもらえるのはこのスプーンが最初だったとのこと。ローザさんは細工物師にも興味があるので体験と勉強を兼ねて鍛冶の講義を学んでいるんだって。『エイドパス鉱山』に行ってミスリル鉱を採取し、それを使ってアクセサリーを作りたいらしい。


「ミーシャさんは魔導刺繍の為の縫い針を作ろうとしてるのね」


「はい」


「私も針を作ってみようかな。アクセサリーって針で留めたりするものもあるし」


「ローザ、アクセサリー用の針は打ち出さなくても針金からいけるぞ。セーフティーピンなんかは針金から作った方がいいな。ブローチの針は打ち出してやっても構わないが…」


「ヴォルド親方、そうなんですか?」


「アクセサリーに模した暗器を作ったりもするから全くないわけではないな。バレッタの纏め棒で仕込針を入れた暗器とかは有名だ。暗器作りは特殊技能だからなぁ…、ヒト族に捕まったら一生座敷牢生活だぞ。尤も、外に出られない代わりに酒は飲み放題、武器は打ち放題、特殊な金属は買ってもらい放題だから天国っちゃー天国なんだが……」



あ……前世の時代劇で、江戸のお掃除屋さんでアクセサリー職人さんがいたよなぁ…。キュピーンって効果音で(かんざし)を構えてプスッと打ち込む完遂掃除人が。そしてそんな “ 飲める打てる買える ” 天国は遠慮したい。



「確か暗器職人って(おお)鍛冶師、(しょう)鍛冶師、細工物師の三つを極めないとなれないんですよね?」


「クリフ、良く知ってたな。興味が有るとかか?」


「俺は(おお)鍛冶師も(しょう)鍛冶師も興味はあるんですけど、暗器は……」


「暗殺云々を抜きにして、アレは一種の芸術品だぞ。ヒト族じゃなくてエルフ御用達になる手も有るしな」


「エルフですか?」


「エルフは弓で遠距離攻撃が得意なイメージがないか?」


「はい」


「あいつらは近距離だと暗器で対応してくるぞ」


「えっ!?」「ええっ!?」「マジで?」


「普通だったら弓の使えない距離、剣なんかで戦う近接戦に持ち込めば勝てると思うだろ? エルフはそれを逆手に取って至近距離での暗器戦に持ち込んでくる」


「暗器の届かない中〜近距離は? それこそ槍やハルバードの距離なんかはどうしてるんですか?」


「その距離はギリギリ魔法が打てるな」



そう言えばオロール先生もトマホークでの接近戦や無手での格闘術が得意だったよなぁ。いかん、エルフのイメージがガラガラと音を立てて崩れてゆく。



「昼飯にはまだ早いがタマゴの三人は休憩して来い。身体を伸ばして、飯食う前にスプーンを穴が開くくらい見とけよ。で、ゆっくり食って戻って来い」


「はいっ、親方!!」✕ 三人



「あれは優しいんじゃなくて、ちょっと場所開けろ…なんですよ」


「親方と先輩達もスプーン作ってそうよね」


「午後の開始時間まで二時間弱あるからそうかも…」




結果から言うと、ヴォルド親方と先輩達は作業の手を止めスプーンを作っていた訳で…。


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