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第253話

何故だ……魔獣に餌を届けに行っただけなのに、何故こんなことに………。教えて、試される大地の動物王国の主宰さん!! やっぱり「よーし、よしよし…」とかやらないとダメなのか?


鳥ヒナなんて飼ったことないし。調べてみるしかないな。で、俺の後ろをカルガモのヒナが付いてくるみたいになるとか? それはそれで憧れるけどさっ。




オロール先生のいない夕食はちょっぴり味気なかった。………来月から学園の寮に行こう。



−−−−−−−−−


今日はアッシュ=ラックさんと料理をする日だ。使う予定の食材一式と荒目の粉(ふるい)と木ベラを持って家に向かう。後、マヤ=リークさんの自宅のお店で買ったエプロンもだ。



「パイク=ラックさん、こんにちはー」


「おお、ミーシャかよく来たのぅ。アッシュ、ミーシャが訪ねてきてくれたのじゃ。きちんとご挨拶するんじゃよ」


「はい、じいじ。ミーシャ=ニイトラックバーグさん、始めまして。わたしはアッシュ=ラックです。わたしはミーシャ=ニイトラックバーグさんからお料理を習いたくて、じいじにワガママ言ってミーシャ=ニイトラックバーグさんをお呼びしました。今日はよろしくお願いします」



ヤバい、アッシュ=ラックさん可愛いぞ。緩いウェーブのセミロングヘアで髭の生え始めた幼ドワーフなんだな。ヒト族なら八才〜十才くらい相当?



「アッシュ=ラックさん、始めまして。ボクはミーシャ=ニイトラックバーグです。今日はよ宜しくお願いします。それとボクのことは庇護氏族名を付けて呼ばなくていいからね」


「いいのですか?」


「ボクの庇護氏族名のニイトラックバーグのラックはパイク=ラックさんの氏族名から付けて貰ったので、アッシュ=ラックさんとは血の繋がらない親戚みたいなものだからね。パイク=ラックさん、いいですよね?」


「よいよい。その代わりミーシャもアッシュの事はアッシュと呼んでやっておくれ」


「はい、分かりました。アッシュちゃん、改めて宜しくお願いしますね」


「はい。ミーシャさん、ミーシャねえね、ミーシャお姉さん、どうお呼びすればよいですか?」


「ボクの事はアッシュちゃんの呼びたい様に呼んでいいからね」


「ミーシャねえね。ミーシャねえねがいいです」



目を細めて嬉しそうなパイク=ラックさん。いつも以上にデレデレだよ。まぁ大事なお孫さんと離れてあの『関所の集落(仮)』でオッサン達と数年暮らしてたんだから仕方ないか。



「これは今日使う予定の食材と道具です。後、エプロンです。アッシュちゃん、サイズが大きかったらごめんね」


ヒヨコとトマトとハンマーと歯車の柄がスタンプされたエプロンってどうよ? 多分、畜産、農業、鍛冶、工業及び魔道具をイメージしてるんだと思うけど。ちなみにアッシュちゃんは六角形と蜂の柄のエプロンを持ってるんだって。見せてもらったけど可愛らしい子供向けの柄と言うよりは、ヘックスマップに蜂ユニットだった。



「そうだパイク=ラックさん、前にあの集落で使っていた蝋の温度をチェックする温度計って今ここにありますか?」


「作業場に置いてあるが何に使うんじゃ?」


「新しい玉子料理に使いたいんです。お湯の温度をチェックするだけですけど」


「で、どんな作業になるのかのう?」


「新しいお料理を作るんですか?」


「はい。作り方なんですけど、蝋が溶けるくらいの温度に三十分くらい玉子を浸しておくだけです。お湯が冷えないように保温している必要はありますが」


「それじゃとエール作りの時の麦芽の保温と同じくらいじゃな。保温器は儂の家には置いてないのじゃが、比較的簡単に入手できる物じゃな」


「そうなんですね。今回は土魔法『土器』で作った箱に麦藁を詰めて保温性を持たせ、そこに蝋が溶ける温度のお湯を入れた鍋を置き、玉子を入れて蓋をして放置しようかと思ってました」


「それなら二重箱でよいじゃろう。ガラス製品等の壊れやすい物を運ぶ時に使う箱があるのじゃよ。外箱と内箱の間に五サンチミートル程の隙間が有って、そこに麦藁や乾燥させた【萌萌詰め草(もえもえキュッキュ)】を詰めるんじゃ。それから内箱の中にも乾燥させた【萌萌詰め草(もえもえキュッキュ)】を敷き詰め、壊れやすい物を置いたら動かない様に【萌萌詰め草(もえもえキュッキュ)】を詰め込んでから内蓋をし、最後に麦藁を思い切り詰め込んで外蓋を閉じる。そうやって衝撃から守っておるのじゃ」


「じいじのお仕事の箱です」



そうだ、元々パイク=ラックさんは家具などを作る木工ドワーフだった。【魔多々媚(マタタビ)】細工専門職人じゃなかったよ。【萌萌詰め草(もえもえキュッキュ)】は【(もや)し草】、前世で言う “ 詰め草 ” つまりクローバーの仲間の一種だ。乾かしたものをパッキングとして使っていて、詰めていく時にキュッキュと音がするからその名前になっている。名前の響きは何だか可愛らしいんだけど、ヒト族のギャングというか破落戸達は 「【萌萌詰め草(もえもえキュッキュ)】詰めするぞ!!」 というセリフを吐くから使い方を間違うと大変な事になる。ちなみにその意味は “ 木箱(=棺桶)に詰め込んでやるぞ ” で、前世の表現なら 「コンクリート詰めして海に沈めるぞ」 に相当する。 



「ミーシャねえね、今日は何を教えてくれますか?」


「今日は玉子を乗せたサラダと【茄子花芋】のポタージュだよ。パンも買ってあるから試食でお昼ご飯だね」


「じいじ、お野菜ですよ」


「アッシュとミーシャが作ってくれるんじゃ。完成が楽しみで仕方ないのう…」


「そうだ、飲み物はどうします? アッシュちゃんがいるけどエールにしますか?」


「ワートでよいじゃろう。甘すぎたら【リモー】の搾り汁を入れればよいのじゃ」


「わたし、ワート大好き」



ワートはエールの材料、つまり麦汁ね。甘いジュースだ。ドワーフの慣用句で “ 甘い汁を吸う ” と言えば、エールの材料をくすねる、他人の物でいい思いをする等の意味で、前世の日本語のそれとほぼ同じなのには笑ったけど。

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