第250話
そうこうするうちにオロール先生が『ブルー=フォレスト』に向かう日が決定した。十の月・三の週・四の日。昼過ぎに出発するって。
(共)「見送りに来なくていいからね。ミーシャは授業に出るように」
そう釘を差されてしまった。当日は午後の炭焼き講義の前に顔出ししよう。初日は『ロック= ハンド』の『ポットストーン』まで一気に同伴転送で移動するんだって。それで昼過ぎに移動開始なのか。
無理矢理野菜を刻んで調理の授業の制限を解除した。これである程度の調理内容の選択が出来るようになった訳だ。上級カリキュラムは単位の取得数や選択コースなんかで制限は掛かっているけど、大抵の調理の授業は学ぶことが出来る。解体や製菓もいいけどスパイス&ハーブを学ぶのもいいかな。とにかくカレーに近付きたい。
炭焼きの講義で貰った下草飼い葉をラパンとワギュに与えるために馬車組合に持ち込んだら、馬車組合から回収代行の依頼がきたので素直に請けた。回収用にマジックバッグを貸してくれると言うことだったしね。鑑定で毒草を除去し、『汎用魔法』のJSSトリプルコンボを掛けられると言うのが決め手だった模様。小銭が稼げて馬車組合の評価も上がるのだから請けて損はない。それに馬車組合に行ったらラパンにも会えるしね。親バカじゃないけど不安なんだよね。ラパン、初めてのお使い。
と言ったら、(「いや、従魔契約前に仕事してたから」) って返されたけどさっ。
植林についての講義は意外にも…と言ったら失礼だけどちゃんとしてた。日照がどうだの、成長差がどうだの、将来的な利用目的がどうだの、前世でチラッと聞き流したことの有るナンチャッテ植林知識と比較しても大差無かったしね。そして里山を管理してるのはドワーフだけど、森林問題はドワーフ以外の種族にも関与してくるので好き勝手に伐採や植樹をしている訳ではなかった。
「いいか、あんまり好き勝手に森林を作り替えようとしたら、『樹精』や『樹妖』に殴り込まれるからな」
「先生、殴り込まれるって言っても、『樹精』も『樹妖』も本体から離れられないんじゃないんですか?」
「『樹精』や『樹妖』には代行者が付いている。白いキツネに乗った老人姿の精霊、『灰撒き翁』だ。敵対者の顔目掛けて熱い灰を投げつけてくるぞ」
ちなみに『灰撒き翁』は農業神の眷属でもある。普段は土地に灰を撒いて土壌管理をしてくれている。
そして今日は三の週・四の日。オロール先生とラパンが出発する日だ。午前中は極力作業を減らしていたからお昼前に馬車組合に到着した。
(共)「オロール先生、ラパン、いってらっしゃい」
(共)「暫くラパンを借りるよ。飼い葉とタワシはちゃんと持ったから安心しておくれ」
ブルルルー!!
(「ラパン、気を付けてね」)
(「おうっ、頑張ってくる」)
(共)「そうだ、ラパンに御守り作ってきたんだ。今着けてあげるね」
(共)「御守りかい?」
(共)「はい。特に魔力の籠もった素材を使ったわけではないので気休め程度ですが」
そう言いいながら俺は『キーボックス』から手作りの御守りを取り出す。縦が三センチメートル・横が十センチメートル程の帆布に紐を取り付けたもので、俺の髪の毛と髭を使って “ 交通安全 ” と縫ったものだ。勿論、漢字は少し直線的にして漢字を知らない者には直線を組み合わせた幾何学模様っぽく見える様にアレンジしてあるけど。まぁ三毛皇さんに見られたら一発で日本語ってバレるレベルだけど。印鑑に使う書体とか知らないから仕方ないよね。
それを左脚の脚巻の上に重ね付けして紐を結べばOK。
(「ラパン、安全移動の御守りだよ」)
(「この御守りから凄くミーシャを感じる」)
(「無事に帰ってきて旅の話を教えてね」)
(「任せろ!!」)
(共)「見たことのない模様だけどミーシャの “ 念 ” は感じるよ。髪や髭を使ったね」
(共)「はい」
(共)「身内に渡すのなら、一番入手が簡単で一番効果的な素材が髪や髭だよ。ラパンは幸せな子だね。そうだ…」
(「ラパン、悪いが尻尾の毛を一本二本ミーシャに渡してくれないか?」)
ヒヒーン (「いいけど何でだ?」)
(共)「ミーシャ、ラパンから許可がでたからね、尻尾の毛を一本二本もらっておくれ」
言われるままナイフを使い根元近くから尻尾の毛を二本切り取る。
(共)「ミーシャの髪の毛を一本、髭を一本抜いておくれ。あ、無理に引っこ抜かなくていいよ。そのナイフで切ればいい」
(共)「はい。でもここには鏡がないので抜きます」
ツインテの片方を解き髪の毛を一本抜き、髭も三つ編みを解きやはり一本抜く。ちょっと痛いな。
(共)「ミーシャの毛とラパンの毛を合わせて撚り合わせておくれ。撚りの掛け方は分かるかい? 縄を綯うのと同じだよ」
根元を四本揃えて玉結びし、毛を二本ずつに分ける。玉結びの部分をオロール先生に摘んでいてもらい、二つに分けた毛をそれぞれ同じ方向に捻る。十分に撚りがかかったら一つに纏め、先程と逆方向に同じくらい捻れば撚りのかかった糸が出来る。撚りが解けないように毛先側も玉結びしておく。
(共)「上等、上等。これでミーシャとラパンの縁が絡んだ糸が出来た。後で何か気持ちを込めた模様でも縫って御守り代わりにミーシャが持っていればいい」
(共)「ありがとうございます」
それなら “ 戻 ” か “ 帰 ” がいいかな。 “ 祈 ” とか “ 思 ” とかでもいいか。う〜ん、毛の長さも考えたら複雑な文字は縫えない。これ、結構悩むかも…だ。
(共)「では行ってくるよ。何か持ってきて欲しい土産はあるかい?」
(共)「無事な姿が一番ですけど……あ、【魔海鞘】とか、魔力の籠もった貝殻とかをお願いします」
(共)「貝殻かい?」
(共)「ボクの友達のコカコッコ夫婦に渡してあげたくて。後、木賊の鉢植えにも使ってあげたいんです」
(共)「分かったよ。期待して待っていておくれ」
そして、オロール先生とラパンは黒猫印の配送便スタッフさんと一緒に転送陣の向こうに消えていった。




