第249話
貰った飼い葉用下草に毒草が含まれていない事を鑑定で確認してから『汎用魔法』JSSトリプルコンボをかけてから縄で縛る。本当は『次元収納』の中に仕舞っておきたいけどね。やはりいろんな意味でマジックバッグを買うしかないか…。ラパン達に届ける前にパイク=ラックさんの家にアポ取りしに寄っていこう。
明日も午後から野外実習。使う木が既に伐採済みの里山に向かい植林についての説明を聞く授業。そりゃそうだよね、勝手に有用な木がニョキニョキ生えてこないって。ある程度は計画的に植林しないと欲しい木は手に入らない。その一方、魔銘木は一点集中で単独栽培するか魔族領で生えている物を輸入するか…しか入手方法がないみたいだ。魔素というか土地の魔力が強い場所に生える木が魔銘木なので上手くコントロールしてやれば一定数は確保できるらしい。逆に言うと、小面積でも高魔力溜まりなら勝手に生えてくる可能性があると言う事だな。そして近場ではエルフの多く住む『ロング=フィールド』領が栽培地に当たる。魔銘木が欲しければエルフのご機嫌を取ってなんぼだった。まぁ、『ブルー=フォレスト』もそうなんだけどね。エルフは魔境に住むものらしい。
山は計画的に植林と伐採を繰り返す計画林業地区と、雑木や灌木を払って数年放置して…を繰り返す多目的地区に分けられていた。多目的地区ではワイルドベリーを採取したり、つる植物を採取したり、栗やクルミなんかの木の実を採取したりする。【蛙手】/【鶏足】もこの地区に植えられる木だ。これからは樹液事業で注目を浴びることになるんだろうなぁ…。それもあってか若干の植林計画の変更があるみたい。まぁ、ドワーフ領全体での話なんだけどね。
そして、有るようで無い【粗相豆】……。こっそり探してたんだけど見つからなかった、残念。
パイク=ラックさんの自宅でアッシュさんと一緒に料理をする日は五の日に決まった。『コカコッコの祝福卵』を使ったサラダを作ると伝えてある。温玉乗せもいいけどミモザサラダも食べたいかな。となると、網目の笊か篩が欲しい。こっちの笊ってボウルに水玉柄の穴が空いてる形状なんだよね。前世の衛星放送でヨーロッパの紹介番組なんかで似た形状のは見たことが有る。大型な玉杓子とも言うな。笊でなくても目の細かい金網でもいい。ここは一つガルフ=トングさんに相談してみよう。もしかしたら鎧の補強とかに似た物を使っているかもしれないからリンド=バーグさんにも聞いてみるか。
ガルフ=トングさんは来月になったら自宅の有る『スリーストライプ』に向かうそうだ。『スワロー』からは馬なら一日掛からない距離。頻繁に遊びに来そうな予感がする…。【蛇魚裂き包丁】の一件以来、リンド=バーグさんの工房で共同作業をしている模様。
「リンド=バーグさん、こんにちわ。ボク、ちょっと質問が…」
「おっ、ミーシャか。リンド=バーグと一緒に【蛇魚裂き包丁】の新しいバージョンを作っていたんだ」
「ガルフ=トングさんもいらしてたんですね、こんにちわ」
「大小鍛冶師が協力して包丁を打つなんてのは中々ない経験だからな。いい勉強になる」
「それこそ俺も夫婦包丁を打つ事になるとは思ってもいなかったよ」
「夫婦包丁ですか?」
「小鍛冶師は夫婦物を打たなくてもいいんだけどな、面白くなってしまって、つい……」
そう言いながらガルフ=トングさんが見せてくれたのは普通サイズの【蛇魚裂き包丁】と二倍くらいの大きさの【蛇魚裂き包丁】。
「うわっ、大きい包丁が出来てます」
「先日、【大蛇魚】も居ると聞いたからな、大型包丁も作ってみた」
「ついでにコレもな」
そう言って普通サイズの半分くらいの【蛇魚裂き包丁】を取り出してきた。
「夫婦包丁じゃなくて家族包丁ですよ」
「ガルフ=トングが面白がって小さいのも打った」
「【妖精の杖】という小型種用だよ」
「実物の【蛇魚】がなくても作っちゃうんですね」
「まぁ、そこは…だな」
「文献を調べてみたら【海蛇魚】には牙種と通常種がいることが分かったんだ。牙種は『ハポン=ヤポン』の西側地方でヒト族の多く住む『キャピタル=メトロポリス』領で流通しているらしい」
「淡水種の【蛇魚】には【笛魚】の他に【川底小枝】という種類がいたぞ。尤もヒト族が好んで食べる種らしいが、これは『イースト=キャピタル』領で流通しているみたいだ」
【川底小枝】……やながー、柳川……柳川鍋!? まさかドジョウ!? 海の鰻っぽいのはアナゴだと思ってたけど二種類いるのか?
「無理を言って商業ギルドに各種【蛇魚】を発注したんだ。三の週・十の日、つまり今月最後の日に商業ギルドの利用許可を押さえた」
「どうしても『スリーストライプ』に帰る前に俺が試したくてな」
新しい道具を直ぐに作りたくなって、それを試して改良しちゃってまた試し……のループはドワーフだったら仕方ないもんなぁ。
「それより、今日はお二人に質問があるんです。目の細かい笊か篩が欲しいんですけど、縫い糸くらいの細さの針金で出来た金網って有りますか? 目の細かさは三ミリーミートルくらいです」
「それはプレートアーマーの関節部分の保護網でいいんじゃないか?」
「粉ふるい用の金網だな。粉薬を作る時にも使うし、もう少し目の荒い物は麦粒の選別に使っているぞ」
あ、普通に存在してるんだ。しかも種類も多いし。
「良かった。それは何処で買えますか?」
「普通に荒物屋で買えるし、薬種用だったら錬金術ギルドだな」
「職校や学園の購買部にも有るんじゃないか?」
「ありがとうございます」
「で、何に使うんだ?」
「パイク=ラックさんのお孫さんのアッシュ=ラックさんと一緒に料理を作る約束をしたんです。その時に使おうと思っています」
「そうか。上手くいったら【蛇魚包丁】を試す時にでもその料理を出してくれ」
「はい、分かりました」
笊は明日探しに行こう。




