第248話
炭焼きの準備の為の野外作業が始まった。『スワロー』の北側に位置する里山、そこが実習場だった。アリサお姉ちゃん達『地底娘』の皆と出掛けた場所よりは『スワロー』に近かった。参加人数の事もあるのでトイレの近くだったりする。勿論、スライムチェックは欠かせない。スライムは元気そうで何よりだ。
パート君とジョーブ君も来ていた。今のところ二人とは野菜刻みの時くらいしか顔が合わないんだけどね。
「ミーシャ、俺は調理は次に進んだぜ。今はパン作りに挑戦中だ」
「僕も野菜刻みを脱出したよ。僕は肉の整形を習っているよ」
「えっ!? 二人とも野菜刻み終了したんだね。おめでとう」
「ミーシャ…、まだ野菜刻みなのか?」
「うん。何かと忙しくて、まだ三時間くらい残ってるかな…」
先の授業で習っていた炭焼きに適した樹木の授業内容を元に実物を観察、確認していく。鑑定スキル持ちはスキル使用は許可されているのでバンバン確認していく。………んだけど、大樹に雑木、灌木、下草、雑草、茸………と多種多様過ぎて鑑定を後悔するハメになる。まぁ、これは鑑定あるあるらしく、取捨選択を学ぶ場でもあるらしい。
ちなみに最初に覚えさせられる木は【塩塗木】、別名は【赤ら顔】。鑑定結果によると前世のヌルデと出ていた。ヌルデはウルシの仲間なので、人によっては触ると爛れる。俺も前世で実物を見たことは無く、アケビ細工の職人さんから 「山にアケビ蔓を取りに行く時はヌルデに気を付けないとね」 という話を聞かされたから名前を知っている程度だ。いち早く紅葉するので秋口だったら見分けが付きやすい木でもある。因みに別名の【赤ら顔】はこのいち早く紅葉する様を、直ぐに酔っ払って顔が赤くなる姿に例えたものなんだとか。
つまり、触るなよ!! という事だ。
一通り樹木を確認する。講師が切る木と切らない木に分け印を付ける。切らない木も後日、下枝を払ったり樹勢を整えたりするんだな。炭にもしない不要な木を払う前に地表の確認があった。まぁ、どんな枯れ枝や枯れ葉が落ちているかをチェックするってだけなんだけど。もう少し冬に近付いたら落葉広葉樹の葉も落ちて、腐葉土にする葉をどう集めてどう使うかの説明をするのが楽なんだろうけどね。今はまだ枯れ葉が落ちてなさすぎて微妙だもん。今回はどちらかと言えば針葉樹の枯れ葉枯れ枝を集める方だな。焚き付けに使うので、普段は専ら里山を管理する林業ドワーフや冒険者が採取依頼で集めている。町の近くの林なら焚き付け集めは髭無し達のいいお小遣い稼ぎにもなるらしく、冒険者が護衛で付き添いしている姿が見られるんだとか。これ、ドワーフの冒険者だから成立する依頼だよなぁ…。針葉樹の枯れ葉は腐葉土になりにくいので極力排除するのは分かるんだけど、松葉の処理はどうしてるの? …って思ってたんだよね。庭ならまだしも里山だよ。
結論から言うと松葉の枯れ葉はフェアリーが集めて焚き付けに使っていた。もっと小さい針葉樹の葉はデミ種のフェアリーが集めて使っていた。フェアリー達は落葉広葉樹が好みらしくキノコの周りでダンスを踊る。その為、伐採した後に何本か倒木として残しておくのが共生上での礼儀だ。
前世だったら枯葉を集めるのには熊手や竹箒なんだけど、異世界はどんな材料で箒を作ってるんだろう…と思って渡された箒を鑑定してみた。
(簡易) 箒:【魚卵草】の枯れ枝で作られた箒
(鑑定) 箒:【魚卵草】の枯れ枝で作られた箒。実が魚卵のように見えるのでそう名付けられた。【魚卵草】の実は若干青臭いが、ベジタリアン用の代替魚卵として食べることが可能。紅葉が綺麗。
トンブリ!? あの青臭い粒粒のことか? 前世で秋田旅行に行った時、『畑のキャビア』って書かれてたから興味半分で食べてみて挫折した思い出が蘇ってきた…………。いやまて、ベジタリアン魚卵って事はエルフに売り付けられるんじゃ??? それこそ『畑の魚卵』だぞ。オロール先生がイクラの醤油漬けや筋子を口にした時に 「エルフには【魚卵草】がお似合い……」 なんて一言も言わなかった。もしかしたらトンブリが食べられることが知られてないのかもしれないぞ。オロール先生はどんなに身体に良くてもトンブリは食べないんだろうなぁ……。
その後に下草を刈る。鑑定したら【紫萌肥し】や【鶏餌草】や【山烏麦】や、【萌萌詰め草】とか【刈染め草】とか出てきた。
【山烏麦】は前世のカラスムギで、【萌萌詰め草】は前世のクローバーの仲間で、【刈染め草】は何と前世のススキだった。
(鑑定)【刈染め草】:前世のススキ。草木染に使える。
「刈り取った下草は切らない印を付けた大樹の根元に纏めておくように」
「先生、何に使うんですか?」
「馬車組合の人が飼い葉用に貰いに来たりするな。農業ドワーフが緑肥に使ったりもする」
つまり、馬車組合に所属している俺は飼い葉用に貰っていって構わないという事なのではなかろうか?
「先生、ボクが貰っていっても構いませんか?」
「君は? 農業ドワーフには見えないが」
「ボクはミーシャ=ニイトラックバーグです。先生、これを持ってても駄目ですか?」
そう言いながら『キーボックス』から馬車組合の所属証と馬車ギルドの所属証とを取り出す。目の前にある質の良い飼い葉はラパン達に食べさせてあげたいしな。
「なっ…、あ……関係者なのか。それなら持っていっても構わないぞ。零さないように持てる範囲で持ち帰る様に」
やったぜ、飼い葉ゲットだぜ。




