第245話
学園で図書館を利用した帰りにラパン達に会いに行く事にした。本当は今直ぐにでも市場に行ってスパイス類を探したいところだけれど、生憎今日は十の日。休みのお店が多いんだよ。直接市場を回ってもいいけど、商業ギルドに聞いてみたほう探しやすい気もする。馬車組合で利用手続きをした後、ラパンとワギュのいる厩舎に向かう。
「ラパン、ワギュ、元気にしてた?」
ブルルッ ヒヒーン 二頭が前脚で地面を軽く叩いて元気アピールをしてくれた。従魔証が似合ってるな。そして組合所属証の靴下…じゃなくて脚巻はカッコイイ。裸馬も力強くていいけど、ちゃんと備品を装備した姿はキリッとしていていいなぁ。仕立ての良いスーツを着たビジネスマンって感じだ。
(「ミーシャちゃん、来てくれたんだ」)
(「ワギュは元気そうだね。ラパンはどう? ちゃんとご飯食べてた?」)
(「おっ、おうっ。あれからちゃんと餌も食ってるし、ちゃんと寝てるよ」)
(「えっ、ラパン寝不足だったの!?」)
(「ほら、ミーシャちゃんに会えなくなるのが嫌だったみたいで…」)
(「あっ、あの時はあの時なんだよ!!」)
(「ボク、最初に会った頃はラパンって気性の荒い子だと思ってたんだけど、本当は繊細で優しい子だったんだね」)
ブルルッ ブフッ……
(「おい、ワギュ!! 笑うな!!」)
(「時々、組合の人にも聞こえるように偽装工作でドワーフ語で喋るから気にしないでね」)
(「はーい/分かった」)
「はい、オヤツの【食用マンドラゴラ】。後で食べてね。ボク、今日は二頭にブラッシングをしに来たんだ」
俺、念話の偽装工作は大事だと思ってるので。
(「わーい」)
「だいぶ日も傾いてきたし、厩舎の中で順番にブラッシングしよっか」
(「ミーシャ、俺感謝してるんだ。ミーシャのいる『スワロー』が本拠地になったし、美味い餌も食わせてもらえてる」)
(「ラパン、気にしなくていいよ。そう言えばオロール先生の移動に同行する事になったんでしょ?」)
(「ああ。雪道だったら俺に橇を引かせるらしい。草の上で橇引きの練習をしてるぜ」)
並べた二頭を交互にブラッシングする為に中央に土魔法で土手を作った。残念ながら一頭ずつ念入りにブラッシングするには時間が足りないのだ。と言っても二頭とも汚れている訳ではないので、スキンシップを兼ねたタワシでマッサージってところだ。
(「痒いところがあったら教えてね」)
(「タワシって気持ちいいよね」)
(「 …ち いぃ」)
(「えっ?」)
(「気持ちいいよな」)
(「そのうち、お風呂にも入れてあげたいなぁ。ほどよい感じのお湯を張った水浴びだよ」)
(「私知ってる。ドワーフが好きなお湯の水浴びだよね」)
(「お湯なのに水浴びって表現もおかしいけどね」)
(「タワシ、仕事に行くときも持って行くんだよな?」)
(「オロール先生にタワシの話は伝えておくよ。タワシは馬車組合の標準備品になったみたいだからタワシブラッシングの心配はいらないと思うんだけどね」)
「はい、二頭とも反対を向いてね。逆側をブラッシングするよ」
(「あの、な、俺達、従魔種の魔獣ってさ、ぶっちゃけ飼われなんぼっていうか、ちゃんとした主人がいたら嬉しいし落ち着くんだよ。ギルドや組合に登録されてるって意味じゃなくて、主従関係がある、テイムされているって意味な」)
(「そうなんだ」)
(「喰われて終わる家畜種の魔獣は違うと思うけどな。使役種や従魔種は主人や飼い主がいてこそ百パーセントの力を発揮できるんだ」)
(「そうだよー。主従関係を結ぶと不思議と落ち付くって先輩から聞かされてたけど、本当だったよ」)
(「でもボクは二頭の主って感じじゃなくて、二頭は友達だと思ってるからね。契約の関係で便宜上ボスなだけで…」)
何を思ってくれたのかは分からないけど、二頭がはげしくヘドバンを始めた。これが所謂 “ 考えるな、感じろ ” なのか!? いや違うだろ…。
「はい、二頭とも落ち着こうね…」
(「もーっっ、ミーシャちゃん、尊いっっ!!」)
おっ、俺、推された!?
(「そうだ、俺のトレーニング見てくれよ。橇を引く練習なんだけど」)
ブラッシングが強制終了。いきなりラパンが俺の手に手綱を取らせ、そのまま練習場に引っぱっていかれる。
「おやおや、ラパンはご主人様に練習風景を見せたくなったのかい?」
「ボク、急に連れてこられました」
「良くあるんだよ。従魔ってのは主人に良い所を見せたがるものだからね」
「そうなんですね。ラパン、カッコイイとこ見せてね」
ブルルルーーッッ (「いっ、いや…普通だ、 からっ」)
「おーい、ラパンに【舟形橇】を付けてやってくれ」
「分かったー!! おっ、時間外の練習なのか。ご主人様に良い所を見せてやれ!!」
ラパンにボートの様な筏の様な形状の練習器具が取り付けられる。うん、ばんえい競馬っぽいぞ。
「夕方ですけど急に練習を見せてもらっていいんですか?」
「夕方の練習もあるんだよ。深夜に【運魔】は走らせないけど、明け方から早朝、夕刻や少し暗くなった時間帯とかは走らせたりするから、どんな時間帯でも困らないように練習はさせるんだ。勿論、悪天候の時の練習もする。後は、馬車と馬橇を引くためのトレーニング、超負荷トレーニングだな。そこに二頭【整地丸太】を付けたのがいるだろ?」
「ボクの知らないところで【運魔】達って頑張ってたんですね」
「そう思ったら皆に差し入れでもしてやってくれ。あいつら全員大事な相棒だからな」
「はい、分かりました」
ラパンが【舟形橇】を引いて歩み出す。それを見た二頭の【運魔】達が負けじと【整地丸太】を引き始める。あれって……前世で見た野球の星のアニメで選手が引っ張ってるコンダラか!? 回転する太い丸太を引っ張ってるんだけど……どう見ても重いコンダラだよね……、正式名称は『整地ローラー』って言うんだったか。




