第243話
今回もオロール=ダフネ=オベール視点の回です
(「……とまぁ、そういう理由で『ブルー=フォレスト』に行かないといけない訳なんだよ」)
(「それで俺達のどちらかを連れて行くと」)
(「出来ればね、赤毛のあんたを指名したい。名前は……ラパンだね」)
(「俺か?」)
(「場合によっては馬橇を引いてもらうかもしれないからね。そっちの黒毛より体力がありそうだ」)
(「雪の【白肌樺】並木の噂を聞いた事があるわ。とても恐ろしいんだって」)
(「そっちの山には行かないから安心しておくれ」)
(「あんたの希望は俺なんだよな」)
(「そうだよ。ラパンは立派な体格だからね。それに話もしてみたい」)
(「話?」)
(「ほら、移動中に暇になるだろ? その時にミーシャの話が出来る」)
暇潰しもできるし、それにちょいとばかり寄り道して、この拗らせたポニーを連れていきたい場所もある。『ブルー=フォレスト』の南側に位置する『ロック=ハンド』には古くから馬型魔獣が住む地域が有り、伝説も残っている。この若きポニーに何かしらのヒントを与えてやれるのではないか、そんなお節介を焼きたくなるのが『神下ろし』のスキル持ちの性だからね…。
(「仕方ねぇなぁ、乗せてってやるよ」)
(「悪いね。向こうに着いたら【馬穂先 黍】を食べさせてあげるよ。食べ応えのある【穂先黍】でねぇ。まぁ、つまりは馬用なんだよ」)
(「ラパンいいなぁ…」)
(「もう一頭は留守番しててくれるんだろ? あんたは…ワギュだね。ちゃーんと土産で持ってきてあげるから安心をし。あそこは良い飼い葉が取れるんだ。」)
(「で、いつ出発するんだ?」)
(「実は、黒猫印の配送便で同伴転送をしてくれるスタッフの決定待ちなんだよ。まぁ、数日中には出発だろうけど。ラパンは猫人に同伴転送されたことはあるかい?」)
(「無い」)
(「距離もあるし、ちょっと転送酔いするかもしれないね。どこかで中継を入れた方が良さそうだよ。まぁ、ラパンは体調だけ整えておいておくれ」)
という事で、帯同するのはミーシャの従魔ラパンになった。さぁ、どこを中継地点にするか……『ロック=ハンド』を経由するならドワーフの隠れ里『ポットストーン』がいいかね? ああ、春先以降の物見遊山の移動ならあちこち連れて行ってやりたいところだけど今回は仕方ない。何せ『ロック=ハンド』は妖精、魔獣、亜人種に獣人種が多々住む混沌とした地域なんだからねぇ。尤も混沌過ぎてヒト族は住んでいないが。
(共)「決めたよ。ミーシャの従魔ラパンを連れて行く。行程を少し変更したい。行きは『ロック=ハンド』の『ポットストーン』を中継地点にして、そこから『ブルー=フォレスト』の『フィールドサイドアース』まで移動だよ。そこで一旦、猫人スタッフと別れ、そこから先はポニー移動だ。『チュエレ山』の麓まで行き古代エルフの長に会ってくる。帰りは逆順になるんだけれど、『ポットストーン』からポニー移動で行きたい場所が有ってね…。少し寄り道してから『ポットストーン』に戻ってくるか、若しくは『フラワーロール』に行ってそこから『スワロー』に戻ってくるか…と言う計画だよ」
(共)「『ポットストーン』経由であれば、商業ギルドか鍛冶師の誰かが使いを頼むかもしれませんな」
(共)「あそこは鉱石精錬の町だったね」
(共)「よくご存知で」
(共)「『ブルー=フォレスト』から最寄りの鉱石精錬の町だからね。古代エルフが時々鉱石を持ち込んでるんだよ」
(共)「それではその条件で猫の人を手配いたします。同じスタッフを抑えますか?」
(共)「いや、行きと帰りで違っても構わないし、帰りの寄り道の後もスタッフが変わっても気にしないよ。手間を掛ける分、全員に【去無梨】のジュースは用意するからね」
(共)「ありがとうございます」
(共)「じゃあ、手配をお願いしていくよ。料金を計算しておいておくれ」
さて、出稼ぎに出て直ぐ出戻りか…と言われないように手土産を忘れちゃいけないね。何が良いか…、やはり【サモン】かねぇ…。商業ギルド経由で取り寄せてもらうのが一番だろうね。ミーシャに調理してもらってもいいし。
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(共)「という訳でラパンを借りるよ」
(共)「オロール先生、ラパン暴れませんでした?」
(共)「いやいや、いい子だったよ」
(共)「ボクには懐いてるみたいなんですけどね。ヤンチャだけど素直な子だとは思います」
(共)「それでだね、長達に何か変わった手土産を…と思ってるんだ。【つゆ豆】汁を使ってそこそこウケそうな料理があればいいかな…と思うんだよ。手間なくパパッと出来るやつなら嬉しいね」
(共)「うーん…、『ブルー=フォレスト』って寒いんですよね? 暖かい麺料理とかどうでしょう?」
(共)「麺料理かい?」
(共)「肉や骨から取ったスープに【芋麺】、対外的には【ヨーロー麺】って呼ぶことになった麺とお肉や野菜を入れた塩味の麺料理とかは?」
(共)「新しく登録された麺だね」
(共)「【芋麺】なら湯がかずにスープに直接入れられます」
(共)「それは良いね」
(共)「後、肉や骨から取ったスープに【ケルプ入りのつゆ豆】を入れて味付けした物に、茹でたパスタを入れても美味しいと思います。野菜を入れたり茹で玉子を入れてもいいかな?」
(共)「それなら作るのも簡単そうだし、食べれば身体も温まる。きっと流行るよ」
後にこの麺料理が【ラ・麺】と呼ばれて『ブルー=フォレスト』で大人気になるのはもう少し先の話である。
時系列的にはイクラ醤油漬けの後、蒲焼きパーティーの前になります
【ラ・麺】の ラ は、フランス語の定冠詞みたいなものだと思って下さい。




