第242話
今回はオロール=ダフネ=オベール視点の回です
(彼女は古代エルフ語で思考している訳ですが、それでは分かり辛いので共通語に翻訳状態で表記します)
まさか【つゆ豆】汁に酒と水飴を加えるだけであんなに美味いタレに化けるとはねぇ。それを使った料理は絶品すぎるし。これはさっさと長に謁見してドワーフに対して【つゆ豆】の輸出と品種改良種の種の販売を許可してもらわないとね。肉や魚や野菜だけでなく、【サモン】の生の魚卵にも使えるタレだよ。まてよ、もしかしたらあのタレ、飲めるんじゃないか!?
移動は同伴転送で行けるギリギリの位置まで運んでもらって、そこから先は徒歩か【運魔】だけど、現在の長、ケヴィン=リュヌ=エル=マチュが居るのは『チュエレ山』の麓の町、『ランドインナー』だ。私の実家のある『フラットインサイド』方面に行くより『フィールドサイドアース』から行ったほうが近いのか…。ただ問題は『フィールドサイドアース』に借りれる【運魔】があるかどうかだね。今の時期だと若者は粗方出稼ぎに出てしまってるだろうからね、一緒に【運魔】も出払ってそうだ。…となると、ここ『スワロー』の馬車組合から借りた方がよさそうかね。下手したら向こうは雪かもしれない。馬車ごと借りるわけにはいかないね。一頭だけ借りて、最悪、手持ちの馬橇を引いてもらうのもいいかもね…。そんな都合のいい【運魔】が居ればいいけど。まぁ、駄目な時は歩くさ。
そうだ、補佐役のダミアン=アナナス=ビゴも巻き込むか。あの人は他種族に寛容だ。古代エルフには珍しく、金ピカ装備で歌って踊れる陽キャラ、所謂パリピだ。そのくせ本業は素材融合が得意な錬金術師だからね、人は見た目に寄らない良い例だよ。
(共)「という訳でね、黒猫印の配送便の猫人同伴転送をお願いしたいんだよ」
(共)「商業ギルドから聞いておりました。今から所用で『ブルー=フォレスト』に戻られるとか」
(共)「それも往復だよ。せっかく暖かい『ネオ=ラグーン』領に飲み……いや出稼ぎに来たってのに」
(共)「しかし、『ブルー=フォレスト』領では転送距離が長くなりますが」
(共)「行きたい町が転送陣のエリア外なんだよ。最寄りまで送ってもらってそこからは【運魔】に乗っていこうと思っている。大変なら途中で中継してもいいよ」
(共)「では【運魔】付き転送ということで」
(共)「季節的に馬車を引かせるのは無理だろうからね、手持ちの馬橇を引いてもらう可能性があるんだけど、いい感じの【運魔】がいればいいんだけどね」
(共)「まぁ、そこは実際に見ていただいて決めていただいた方が宜しいかと」
ヒヒン ヒヒーン ブルッ
ああ、いい子達だね。毛艶もいいし張りもある。おやおや、髭も猫耳も無い長耳は珍しいか。ドワーフ領の【運魔】だからポニーサイズなんだね。まぁ私もあまり大柄な【運魔】だと持て余すから丁度いいよ。
(共)「このポニー達は組合の【運魔】なのかい?」
(共)「はい。今ここに居る六頭はギルド所有ですので、ドワーフ領内でしたら組合の何処で解放しても問題有りませんよ」
(共)「ちょっと北方を連れ回さなきゃいけないからね…。ドワーフの馬車組合の息の掛かっていない場所じゃ置いていかれないし…」
(共)「転送陣で返却して頂いても宜しいですが」
(共)「それだと帰りが面倒臭いんだよ。夏場ならまだしも、冬に猫人を『ブルー=フォレスト』観光させて待っててもらう訳にもいかないだろ?」
(共)「そうですな」
(共)「寒冷地に付き合わせる以上、追加謝礼も考えてあるよ。【去無梨】のジュースだ。酔っ払わないから【魔多々媚】ジュースを飲めない時に便利だろ?」
(共)「それはまた珍しい物を」
(共)「幼子が居る家庭とか、新婚さんで嫁さんが酔われない場合に便利だからね。飲んでも酔わないけど雰囲気を楽しむには良いだろ?」
(共)「流石、古代エルフ。我々ドワーフでは酔わない飲み物という発想は生まれませんからな」
(共)「いや、古代エルフも酔わない飲み物は遠慮したいよ」
ふふふ… ハハハハ…
酒好きな二種族だけに酒談義は話の繋ぎにちょうどいい。これがエルフ相手だと「まぁ、飲んでもいいけどねぇ、古代エルフは少しお酒を控えなよ。ついでに塩っぱい食事もよくないよ」って言われるんだよ。分かっちゃいるけど止められないんだよ。
(共)「そうだ、向こうにミーシャ=ニイトラックバーグから預かってる【運魔】がおりました」
(共)「おや、ミーシャの【運魔】かい」
(共)「ミーシャ=ニイトラックバーグに懐いている暴れ【運魔】がおりまして、先日、所有権を移行したばかりなのです。馬車組合預かりなので借りることは可能ですよ」
(共)「どれ、挨拶してこようかね」
(共)「私は向こうの事務所におりますので、どの【運魔】にするか決められたらお声を掛けて下さい」
確かミーシャの魂を見た時に【運魔】に懐かれていると出ていたね。それがその【運魔】か。どれ、ちょっと波長を合わせて……
次元収納の中でジャラジャラと数珠を弄ってやる。相手は【運魔】。生きた魔獣であれば死者の魂と違って念話を繋ぐことはさほど難しくない。ましてミーシャの関係者だ、あ…繋がったね。
(「こんにちわ。今、直接あなたたちの魂に語りかけてるからね。【運魔】語で考えてくれて構わないよ」)
(「なっ!?」)
(「驚かないでおくれ。私はミーシャの友達でね」)
(「胡散臭いな」)
(「どちらがミーシャと念話を繋いだのか……」)
(「ラパン、このエルフ、見えてる系かな?」)
(「ミーシャの名前を出してどうする気だ? ミーシャに手出しはさせないぞ」)
(「あ、そっちの赤毛が懸想してる馬か。なるほど、お前さんがあの馬か…」)
(「なっ…!? 何のことだ???」)
(「いやいや、私は古代エルフだからね、色々と見えてしまうんだよ」)
いやはや、ミーシャも面倒な雄【運魔】に惚れられたものだよ…。




