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第236話

全員が揃ったところで調理開始。二人はこの数日でだいぶ【蛇魚()き包丁】を打ったらしく、かなり自信作になっている模様。形状は違うものの市場から魚を買っては捌き…を繰り返していたとのこと。捌くのが上手なのはガルフ=トングさんの方だった。普段から包丁を打って試し切りをしてるからだとか。


(共)「おや、【蛇魚】専用包丁なんて打ったんだね。それがイイ感じなら【海蛇魚】や【大蛇魚】にも使えるんじゃないか? きっと漁師に人気の包丁になるよ」


オロール先生の説明によると、【海蛇魚】は前世のアナゴっぽい魚、【大蛇魚】は前世のウツボっぽい魚な模様。


(共)「その他に細長い魚は居ないの?」


(共)「せいぜい南の海に【妖精の杖(フェアリー・ケイン)】と呼ばれる魚がいるくらいかねぇ…。ただ、太さがなくて指程度の細さだから、捌くとしてもその包丁は使わないね」



妖精の杖(フェアリー・ケイン)】という魚はオレンジと白のボーダー柄や白地に黒い斑模様の魚で、海底の砂に逆J字で刺さっており頭部の曲げ方が杖の様に見えるのでそんな名前が付けられている。細いので杖は杖でも妖精用って事か。……って、前世のニシキアナゴとかチンアナゴじゃなかろうか? 水族館のアイドルだ。確かに食べたことはない。



(共)「【笛魚(リコードフルート)】もいるな。笛の穴が七つ八つ空いている様に見える魚だな」


(共)「そう言えば【七星眼魚(セブンアイズ)】がいたね。忘れてたよ。エルフ語だと【七星眼魚(セブンアイズ)】読みなんだけど、古代エルフ語だと【七眼魚(ななつまなぐ)】だね」



あ…、それは多分ヤツメウナギだ。何だ、意外と【蛇魚()き包丁】対応魚がいるじゃないか。



ガルフ=トングさんがタワシを使って【蛇魚】を擦り洗いしてヌメリを落とし、長い板に目打ちで頭を固定する。それから背中側から刃を入れて捌いていった。そうか、関東風か…。それから骨の下側に包丁を入れ器用に骨を削ぎ落とし、頭と骨を取り除いていた。前世の鰻屋さんみたいだ。結構きれいに引いてるし。もしかしたらスキルが生えたとかしてないか? そう言えば前世の鰻は血に毒があるとか聞いたことが有るけど、【蛇魚】はどうなんだろう? 鑑定しないと駄目だろうな。その間に俺は鶏肉とネギを一口大に切り分け鉄串に交互に刺していく。皮も細切れにして鉄串に刺せば準備完了。



(共)「念の為【蛇魚】に鑑定掛けますね」



(簡易):開きになった【蛇魚】。血液に毒がある。

(鑑定):開きになった【蛇魚】。血液中に加熱で消える毒がある。光魔法の『浄化』もしくは『解毒』で完全無毒化が可能。生体の【蛇魚】に使用しても無毒化されない。



(共)「血液に毒があるみたいですが加熱で無害化します」


(共)「確かにそう出てるな。ぶつ切り煮込みしか作らないから気付かない訳か…」


(共)「開いたら串を打ちます。完全無毒化は無理だけど、気休めで『汎用魔法』の『浄化』を掛けますね」


(共)「残念、イルマがいなかった」


(共)「誰が串を打つ?」


(共)「どれ、儂が打とうかのう。籠の留めや板に釘打ちするのと変わらんじゃろう。一本のままで打てばよいんじゃな?」


(共)「あ、可能なら二等分か三等分にして、それを串打ちで筏状になるように纏めて下さい」



パイク=ラックさんが【蛇魚】の開きに大胆に鉄串を打っていく。とても初めてとは思えないほど躊躇なく且つ的確に打っていく。



(共)「どうじゃ?」


(共)「凄い!! 多分、完璧です。スキルか何かですか?」


(共)「木工やら籠細工やら何やらじゃが、熟練すると釘打ち位置のベストポジションが見えてくるのじゃよ。微妙な打ち込み角度もじゃな」


(共)「スキルは関係なく熟練の技だったんですね」


(共)「どれ、焼きは俺がやろう。下から炭火で炙りか?」


(共)「はい。何度か返しながら焼きます。途中で【粗相豆】と水飴を合わせたタレを何度か塗って焼いていきます。壺にタレを入れておき、そこに串を浸し引き上げてまた焼きます」


(共)「この前の【穂先()(キビ)】焼きみたいな味か」


(共)「はい、そうです」



焼きはリンド=バーグさんが担当する。鍛冶師の焼く蒲焼きかぁ…。蒲焼きのタレを入れる為の容器を土魔法『土器』で作る。タレの量がないから厚みの薄い四角い壺だけども。そして、リンド=バーグさんの火入れの加減が絶妙だ。ヤバい、ドワーフが三人もいれば老舗顔負けの鰻屋さんが開業出来るぞ。そしてどこから出したのか団扇のような物でパタパタと風を送り始めてるし。



白焼き状態の【蛇魚】の身から炭火に脂が垂れる。ジュワっという音と共に脂の焼ける香ばしい匂いと煙とが部屋中に漂い始める。



(共)「いかんな、これは窓を開けよう」


(共)「竈神キャシーが喜ばれておるのぅ…」


リンド=バーグさんが一度目のタレ付けをする。炭火に垂れる脂混じりの蒲焼きのタレが香ばしい匂いを醸し出してくる。匂いだけで白米が食べれるやつだよ、コレ。



浸ける、焼く、浸ける、焼く。それが幾度か繰り返される。繰り返す度に脂混じりのタレが炭火に落ち、その度に香ばしい匂いと煙とが空間を支配した。


焼き上がった蒲焼きを皿に移す。リンド=バーグさんが身から鉄串を抜いた。香ばしく艷やかに焼き上がった蒲焼きだ。頭側から少し身を取り竈に焚べ、竈の神様にお供えをした。匂いだけ捧げるとかは不敬罪に当たりそうだしな。神様だって美味しいものを食べたいに決まってるよね。



皆で一口分ずつ取り一気に頬張る。すると誰彼構わず 「んんっっ〜〜!!」 という声を漏らす。そのままガツガツと食べ進め、あっという間に完食。あまりに凄い蒲焼きのインパクトに全員がエールを飲むのを忘れてしまっていた……という。

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ドワーフが酒のこと忘れるってなかなかのインパクト
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