第234話
「まぁ、俺よかなら胡散臭い商人の方がより詳しそうだけどな。ここ十年くらい前からヒト族の男性中心に盛り上がってきたのがホーンラビットの角製の御守りとかアクセサリーだな。恋が叶う御守りらしい。そうだな、胡散臭い奴を呼び出すか……。まぁ、茶でも飲んで待っててくれ」
そう言うとラルフロ=レーンさんがお茶を淹れてくれた。ほんのり漂う甘い香り……紅茶系か? 渡されたお茶は多分紅茶で、ふんわりと香る花のような柑橘系のような匂いがした。ぶっちゃけ失礼だけどラルフロ=レーンさんには似合わない。
「ありがとうございます、いただきます」
一口啜ると口内に広がる甘い香りは薔薇なのかな? ほのかにオレンジの香りもするし何だか少しだけ甘味も感じられる。ティーカップじゃなくて取っ手のついたビーカーみたいな器で出されたのが非常に残念だけど。
「どうだ? イケてるだろ」
「はい。凄く美味しいです。薔薇のようなオレンジの様な香りがとても素敵だしほんのり甘いのもいいです。でも……器がアレなんですけど………」
「花弁やらドライフルーツやら、色々混ぜてみてるんだよ。ブレンドの比率は試作中だけどな。器はな……気にするな」
前世でもいたな、理科室とか研究室のビーカーでコーヒーを淹れる人とかインスタントラーメンを煮る人とか。
「なんやなんや、人使いが荒いですわ。儲け話でもありましたん?」
程無くしてカーン=エーツさんが姿を現した。しかし揉み手で現れるドワーフってのもなぁ…胡散臭いわー。
「おう、悪いな。そこのミーシャ=ニイトラックバーグが話を聞きたいんだとよ。儲かるかまでは知らんな」
「まぁ、ミーシャはんなら面白い話を持ち掛けてきそうですわ。で、何ですの?」
「カーン=エーツさん、こんにちは。ヒト族の風習の関係で年末から春先にかけてホーンラビットの角が売れるみたいなんですけど、その話です」
「あれやね。ヒト族の男性がカップル成立のためにハッスルするやつやねー。その験担ぎでホーンラビットの角が人気になるんですわ。メッチャ迷惑や」
「あ……迷惑なんですね」
「時期的にホーンラビットの毛皮は需要が高まるのに、変なイベントのせいで手間ばかり増えるんですわ。クッソ面倒い」
「素材が売れるには売れるんだがな、処理済みだとそこそこ良い値で卸せるけど一匹丸ごとだと足元を見られる。小分け処理するにしても余る部位がウザいね」
「そっ、そうなんですね。余る部分と言うのはどれなんですか?」
「耳と骨、後は後ろ脚。内臓は言わずもがな…ですわ。あ、骨いうても頭蓋は使うさかい」
「耳は廃棄部位なんですね」
「毛皮も肉もロクにあらへんし」
言われてみればそうだよなぁ。バニーさんの耳にする訳にもいけないし……いや、試せなくはないのかも。
「手間は掛かるんですが、処理方法を思い付きました」
「どんなです?」
「ええと……普段から耳は廃棄してるんですよね?」
「討伐証明でもないからな」
「ホーンラビットの耳の毛皮を鞣して耳の付いたヘッドアクセサリーにしたらどうですか。外側は毛皮のまま使えるけど、内側の方は毛が生えてないので別の個体の耳の毛皮の毛を剃るか短くカットしたものを使って縫い合わせます。それこそ内側は薄ピンクに染めてもいいと思います」
「耳の飾り付きヘッドアクセサリーねぇ…。ウサギにでもなるのか?」
「そう、それです。ウサギに扮する装備品です。耳の中に針金を仕込んでおけば形も変えられますし」
「二手間くらい掛かりますやん」
「はい。だから売るためにキャッチコピーを付けるんです。これは異性にアタックする免罪符だとか何とか…と」
「アタック待ちの印でもいいか。それなら男女問わず使える」
「いや、アタック印は男性のみでええですわ。女性は可愛いとかファッション感覚で着けたい場合が多いやろうし」
「耳は毛皮鞣しの所で余らせてるハズだろ。試しに作らせてみるか?」
「今月中に試作品が上がれば来月にでもヒト族の所に売り込みに行けますわ」
「後ろ脚は『脱兎の御守り』とでもしておけばいいんじゃないですか? 勿論その恋イベの期間用って事で。本当に回避とか敏捷度を上げれる様にするなら錬金術師の協力が必要になりますよね?」
「悪い虫から逃げる御守りってか」
「逃げるのにも追い掛けるのにも一足飛びの『脱兎の御守り』です。でもウサギって少し走ったら止まります。引き際の分かる男の持ち物ということにしておいたら恋にガツガツしていないアピールになるんじゃないです? 女性だったら、逃げた振りなの。あなたの事を気にしていない訳ではないわ……的な意味合いを持たせられます」
「面白いなぁ。ミーシャはん、商売人向きですわー」
「その辺は錬金術ギルドと擦り合せが要りそうだな。本当にバフ効果を付ける予定があるか、ジョークグッズで終わらせるか……のな」
「骨はどないします? 流石にスライム行きでええですやろ?」
「う〜ん、広場に檻でも作ってもらって、そこに “ どこの兎の骨とも分からない物をブチ込む ” ってノリでストレス解消してもらうとかかなぁ…。スライムを入れておけば骨で溢れることもなさそうだし」
ブッ… クスクス
「ヤバい、面白い。その骨、一本銅貨一枚とかで売りまひょか。それこそムカつく輩に悪態つきながら投げ込んでもらえばええんとちゃいます?」
「内臓以外の廃棄物処理が出来そうじゃねぇか」
「よし、今から企画書書きますわ。商業ギルドに提出してええんよね?」
「いいんじゃねぇか?」
「ほな、さいならー」
カーン=エーツさんはそれこそ脱兎の如く商業ギルドに向かっていった。
「素早いですね」
「そりゃぁ儲け話に繋がりそうだからな。俺ら三人で盛り上がったから取り分も三等分だが薄利多売でもヒト族相手なら母数がデカくなる分儲けも増える。儲けが出たら何を買うかねぇ、そこに新しい錬金炉でも入れるか……」
俺はその時はまだバニー祭りが始まるなんて思ってもいなかった…。




