第230話
その二日後、ワギュとラパンの引き渡しが終了した。従魔登録もしたのでいつでも一緒にいられる……けど、従魔と同居可の賃貸物件は少ないので預かり賃を支払って馬車組合に預かってもらうことになるけど。二頭とも馬車組合で働いてもらうのでトラブル防止の為、俺は馬車組合の組合員登録と馬車ギルドの会員登録をすることになった。二頭の安全の為なら会費を払うのも安いものだよ。従魔証と馬車組合『スワロー』支部の所属証と馬車ギルドの認定証を着ければ準備完了。従魔証は額に付け、組合所属証は脚巻、馬車ギルド認定証は耳に付ける仕様になっている。奮発して馬装も馬車組合の標準仕様とは違うものにした。個人所有の【運魔】だと見た目で分かるようにしておかないといけないし。
ヒヒーン ブルッ ヒヒーーン
ワギュとラパンがヘドバンで出迎えてくれる。やばい、二頭とも可愛い。そしてワギュが鼻先を擦り付けてきてラパンは甘噛みという、いつもの挨拶をしてきた。
( 「これからも宜しくね」 )
( 「はーい」 )
( 「おうっ」 )
簡単に念話で二頭に挨拶しておいた。まめにブラッシングしにいこう。
それから学園に虫入り琥珀の査定結果を聞きに行く。やはり棚卸しミスだったらしく、本来ならば間違ってもワゴンセールには回らない琥珀だった。研磨ノート付きで金貨三枚と銀貨三枚。ラルフロ=レーンさんの提示価格とほぼ同じか…。これは悩むな。多分、銀貨三枚というのは俺が買った値段って事なんだろう。俺としてはラルフロ=レーンさんに卸してもいいんたけど、ここは学園に恩を売っておくことを選択だな。
オロール先生が『ブルー=フォレスト』に戻っている間は学園の学生寮に泊まってみようかな…。香辛料の研究というかカレーの実験がしたい。
【蛇魚】包丁はリンド=バーグさんの工房で試作することになり、そこにガルフ=トングさんも参加する。蛇を解体する為の刃物なら冒険者ギルドが黙っていないけど、【蛇魚】は魚の中でもマイナーな部類になるので研究開発はご自由に…という事なのか。
ウナギを捌いたら蒲焼きにしたいわけで、蒲焼きのタレには酒と醤油と砂糖が必要なんだっけ? 砂糖の代わりは水飴なんだけど、登録者特権で優先的に水飴を買う権利を手に入れた。勿論、デンプンもだ。これで自作しなくても品質の良い水飴とデンプンが手に入るぜ。蒲焼きのタレは焼き鳥にも照り焼きにもすき焼きにも流用できる。早く白米を手に入れたい……カーン=エーツさんに聞いてみるのが一番なのかな。
リンド=バーグさん、ガルフ=トングさん、アリサお姉ちゃんに蛇と【蛇魚】の骨格の違いを説明をする。ウナギに関しては土魔法『土器』で細長いカマボコ型の模様を二本用意し一本だけ内側の平らな方に骨の絵を描いておく。蛇の模型はCの形を細長くした形状。抜けてる箇所がお腹側。内臓を抜き終わった状態の模型ってことね。盛り上がった側、蛇でいったら背中側になるところに背骨と肋骨の絵を描けば準備完了。後はメモ用紙が一枚あればよし。
「これが蛇と【蛇魚】の模型です。まずは蛇からいきますね。アリサお姉ちゃんは蛇の解体ってやったことあります?」
「あるよ。野外で簡単に獲れるお肉の代表格だからね」
「これが蛇の模型です。メモ用紙が背中側のお肉だと仮定すると、こうカーブを描くように解体ナイフを動かしますよね?」
と言いながらメモ用紙と土器の間に指を入れて肉を削ぐ動きを表現する。
「そうそう。実際にはロクにお肉が取れないから肋骨ごとミンチにするのが現実的だけどね」
「で、【蛇魚】は普通の魚と同じで骨は平らなので最初はこう上身を捌きます。下身に骨が残っています。本当は頭を動かないように目打ちで固定するんですが…」
そう言ってカマボコ型の土器を平らな方を上にし、二つ並べて魚の開きを表現する。
「そして、骨の外し方なんですが、骨の下側と下身の間に刃を入れておろしていきます。使う包丁はマチェットみたいな形の…、えっと…刃先の手前の短い箇所がこうカーブを描く感じではなくて、直線的にスッとした感じで……した」
「ちょっと待て、粘土板を出す。それで説明してくれ」
リンド=バーグさんが刃物の形状見本を作るための粘土を用意してくれた。いわゆるマチェットの形状に近い形に粘土板を切る。そして先端側をスパッと直線的に落としてやる。カッターナイフの刃みたいな形状ね。
「細身で厚みのある魚だから、あえてこの形状で引きやすくしている…か。取り回ししやすい様に刃渡りも短いと」
「腕ぐらい太かったらマチェットでもよさそうですが」
「スネちゃん、ぶつ切りじゃないんだ…」
「表面のヌルヌルが生臭いので、タワシでゴシゴシ擦ってヌメリを取り除き、長い板の上に乗せて頭を目打ちで固定します。そしてマチェット似の包丁で開いていく…が捌き方です」
「それでアリサの作る【蛇魚】の煮込みは生臭かったのか」
「タワシと【蛇魚】マチェットをセット売りすればよいのだな。どれ、打ってみるか…。リンド=バーグ、悪いが炉と金床を貸してくれ」
防音の魔道具が稼働する工房の中でガルフ=トングさんがハンマーを振るう。リンド=バーグさんもガルフ=トングさんが作業しやすいように材料を整えていてくれていたのであっという間に刃渡りの短いマチェットが出来上がる。形を整えたところで焼きを入れ刃をつける。
「こんな感じかなのかね? 柄も付けてみるか?」
「流石!! そして速いです!!」
「まぁ試作だしな。本気の仕事は自宅に帰って炉を温めてから打つとするよ」
「今から捌くか?」
「でも、【蛇魚】開きを焼いた時に塗るタレが【粗相豆】と水飴を合わせたタレなんですよね。念の為、商業ギルドで焼いたほうが良くないですか?」
「それは危険かもしれない」
「【穂先黍】焼きのタレに近いの?」
「はい」
「それは商業ギルドに行こう。パイク=ラックも呼ぶか?」
ガルフ=トングさん試作の【蛇魚】包丁で【蛇魚】を捌いて蒲焼きを作るのは明日か明後日の夕方、商業ギルドの許可が取れ次第という事になった。それまで二人は何本か試作品を打つらしい。




