第229話
塩引き鮭が焼けたので寄せておく。竈の神様のお供え用に少し取り分けておく。竈の神様には糖蜜パイもどきもお供えする。地母神レミ様には一本ブロッコリー。折角だから糖蜜パイもどきもお供えしちゃおうかな。
生パスタを茹でる。湯から引き上げる時にトング改め【トングース】を使う。こういった場で使い勝手を試し、初見勢に使い方を実演するのだ。
―――― もわもわ〜 (ミーシャ妄想中) もわもわ〜 ――――
「見〜て下さい。この【トングース】を使うと茹でたての熱々パスタも溢さず簡単に掴めちゃいま〜す」
「凄〜い。でもお高いんでしょ?」
「お値段は金貨二枚です」
「高〜い。店長、安くなりません?」
「今なら特別価格で銀貨五枚になりま〜す。二本セットなら銀貨九枚で〜す」
「安〜い。嬉しい店長、ありがとう」
―――― (妄想終了) ――――
怪しい通信販売を妄想してしまったよ。これって、やっちゃいけない実演販売の寸劇芝居の演目になりそうな感じだ。あ、手が肉球系の種族だと少しトングが掴みづらいかもしれない。サポートパーツを付けたバージョンも要る気がしてきた。前世でも事故や病気で手の動きが不自由になった人の為の箸やスプーンとかがあったしな。
茹でたてパスタにバターを絡める。そこに醤油を少々。これは基本のバター醤油パスタ。もう一つはバターを絡めたパスタの上に解した焼き鮭とイクラの醤油漬けを乗せたハラコ飯ならぬハラコパスタだ。この二つを小皿に移し焼き鮭と糖蜜パイもどきを一口分切り分けた物を竈の神様キャシー様に、一本ブロッコリーと同じく切り分けた糖蜜パイをレミ様にお供えする。
(共)「神様にお供えもしました。これが最後の料理になります」
(共)「これまた単純にして病みつきになりそうだ」
(共)「【サモン】の身と卵を同時に味わうのか」
(共)「これはいい。飲んだ後に小腹がすいた時に食べたくなるよ。これはどちらも『ブルー=フォレスト』でもウケるだろうね」
飲んだ後の締めのラーメンみたいなものだもんなぁ…。バター醤油パスタって単純だけど美味いもん。となるとバター醤油ご飯も食べたくなるのが性。
(共)「そしてこの菓子。背徳感のある甘さがたまらん」
(共)「パンじゃよな?」
(共)「はい、材料はパンです。パン粉と水飴を合わせて焼きました」
(共)「もしや、バターを乗せても……」
(共)「ミーシャちゃんも危険な物を作るなぁ」
(共)「アリサお姉ちゃん、そんなに危険かな?」
(共)「美味しいから食べ過ぎちゃうよ。確実に樽体形になるよ」
(共)「それはあるかも」
(共)「名称はそれこそパンのパイで【ブロートトルテ】、もしくは水飴パイで【シロップパイ】ですかな?」
(共)「響き的には【ブロートトルテ】がええんとちゃいます? 【ブロートルテ】とか【ブロットル】でも良さそうやけど」
(共)「エルフ語系だと【シャプリュパイ】、【スィロタルト】だね」
(共)「ヒト族向けとその他亜人向けとで名称を変えるとしますか」
(共)「それこそ、水飴で作ったパイとその他シロップで作ったパイとで名前を変えてもよさそうだ」
(共)「これ、焼く時に上にナッツやドライフルーツを乗せてもええんちゃいます?」
(共)「絶対美味しいやつだね。探索に持っていったらテンション上がるよ」
(共)「そしてこの甘い菓子の口直しには【血祭り】が一番じゃ」
(共)「意義無し!!」
(共)「俺は甘い菓子だけでいいよ。はい、今日の料理研究会の記録です」
ホーク=エーツさんって飲ませなきゃめっちゃ優秀だよ。
(共)「ん? ミーシャはん、ホークの顔に何か付いてまっか?」
(共)「あ、いえ。ホーク=エーツさんってお酒が回らないと凄く優秀な文官なんだな…って思って見てました」
(共)「まぁ、そこはエーツ氏族やからね」
(共)「それこそ、ヒト族とか他種族領の出張所で働く方が楽じゃありません?」
(共)「甘いですわ。それこそドワーフが他種族領に行ったら、ドワーフは皆ザルやと思われとるさかい、ぎょうさん飲まされますわ。ドワーフ族=《イコール》酒だと思われとるさかいに…」
(共)「つまり、ドワーフ領内にいた方が安心だと」
(共)「せやせや」
それは危険だ。俺もそこまで酒には強くないから気を付けないと…。まぁ領内から出なければいいだけか。
(共)「校長、私なんだけどね、何日か授業を休講にして構わないかな? ちょいと『ブルー=フォレスト』にひとっ走りして、長に【つゆ豆】の改良品種の件を伝えてこようと思ってね。そりゃあ新年の休みを使えば授業に穴は開かないけれど、話は早いほうがいいんだろう?」
(共)「校長、許可してやってくれんかね。商業ギルドから直接指名依頼で処理しよう」
(共)「なに、課題なら出していくよ。生徒には酒を飲みすぎて寝込んでいるとでも言っておくれ」
その仮病が嘘っぽく聞こえないのがオロール先生らしいといったら失礼かな?
(共)「そう言えばオロール先生ってどうやって『スワロー』まで移動したんですか?」
(共)「基本は【黒猫印の配送便】の同伴転送を依頼して、転送エリア外は徒歩か馬だよ。雪が積っていない事が前提だけどね」
黒猫印の配送便ってあちこちに業務展開してる訳か…。実動配送スタッフは黒い毛色の猫の人だけど、裏方スタッフには普通に様々な毛色の猫の人達が働いているとのこと。業務受付は白い毛色の猫の人が担当してるそうです。




