第225話
講義の予定表を確認しにいったら粘土及び砂の野外採集のお知らせがあった。陶芸や鋳型用だな。粘土も砂も土魔法で創り出したりは出来るけど、天然物との差があるもんなぁ…。扱いやすいのは土魔法で作成した素材だけど、天然物との微妙な差を受け付けない職人さんも居るとのことで、その違いを学ぶ必要がある。砥石だって天然物と人造物の差があるし。粘土採集はあまり人気が無いけど、川砂採集は大人気。砂金とか鉱石拾いをしようとする生徒がいるからだとか。俺も川砂採集なら行きたいなぁ…。海砂でもいいけど。あと、鏨、目打ち、針を打つ講義も予定が出ていた。
【魔海鞘】を研磨していて思ったのが、外殻に研磨ラインを下書きする為のチャコペン的な筆記用具が欲しいという事だった。先を尖らせたチョークでもいいけど、『汎用魔法』で『白墨』を発動させてから先端をナイフで削るのが面倒臭いんだよ。縫製科の講師に聞いてみよう。
【魔海鞘】のグラデーション研磨見本を作ったら、それを参考にして様々な研磨度合いで仕上げた火屋を作ってみようっと。ストライプもオシャレだと思うけど、市松もイケてると思う。【魔海鞘】細工の専門家って居なさそうなんだよなぁ……。オロール先生に聞いてみよう。
裁縫科の教室では専攻する生徒が靴下を縫っていた。新入生は数ヶ月は運針をするのは刺し子と同じだったりするが。作業の邪魔さえしなければ見学は自由なので、静かに見学をしながら講師に聞きたかった質問をメモ用紙に書いていく。
縫い代を付けて型紙通りに裁断された靴下は、裁ち目がほつれてこない様に生徒が裁ち目かがりをしている。ロックミシンとか無いから当然だけど手作業だ。良く見たらアレ、伸縮性のある布じゃない? まさかジャージ素材か!?
(「先生、授業中すみません。質問があって来ました」)
そう小声で伝えながら “ 布に印をつける裁縫用具は存在していますか? ” と書いたメモ用紙を手渡す。
「ん? 君は新入生か。質問の答えとしては『仕立て用チョーク』という道具がある。基本は白だ。白以外で印を付ける道具には青花液があるな。これがその『仕立て用チョーク』だ。スレート岩みたいに薄くて平たい。縁をショートソードの刃の様に削り落として布に印を付ける。書いた線は水に濡らすと消えるからな。青花液は筆に付けて書く用だ」
裁縫の講師はそれなりに大きな声で回答してくれた。だったら気持ちボリュームを落とした声なら会話しても大丈夫そうだな。
「ありがとうございます。それは購買部で売ってますか」
「売ってるぞ。黒板に使うチョークと成分が違うから注意してくれ」
あ、つまり『汎用魔法』の『白墨』とは違うって事だな。布用にするなら別物を生やせ…って事か。そして青花液って多分この前『地底娘』の皆と食べた草だ。
「ありがとうございます。危なく『汎用魔法』で『白墨』を出すところでした」
「間違って使ってしまった場合、消す方法が無くもない。最近発見されたんだが、白スライムを使う方法が確認されてだな…」
あっ、スライムの授業でハーレー=ポーターさんが講師に因縁を付けてた白スライムか!!
「質問はそれだけかな? 次の講義まで時間があるなら皆の作業風景を見学していけばいい。ここにいる生徒は皆二年目以降だな。今は新素材で靴下を縫っているところだ」
「新素材って、もしかしたら先輩達が縫われている布って伸縮性がありませんか?」
「君、気付いたんだ。凄いね」
「あ、縁をかがっている時に布が伸びるのが見えたので。後、かがっている糸も若干伸びる素材ですよね?」
「そこまで見てたか。どう、裁縫科に来ない?」
「ボク、つい先日入校したばかりで、今はやりたい事探しの真最中なんです。興味が沸いたら習いに来ます」
いや、縫い物は刺し子で手一杯なんだよ。俺がやりたいのは色々研磨することだし。
「いつでもいいぞ。裁縫科は新メンバーを歓迎する」
「ところで、あの伸縮性のある布って織物じゃなくて編み物系ですよね?」
「良く知ってるな。まさか作れるとか言わないよな」
「無理です!! 編み物はマフラーなら編んだことがありますけど…。あんな薄い布は無理です」
まあ、マフラーを編んだのは前世でだけどね。おっさんが自分用に手編みのマフラーとか考えるだけでも寒かったな…。マクラメ編みも難しかったので俺は編み物には手を出さない事にしている。
「無理か。無理だよなぁ…」
「先生、あれだけ薄い編み地って誰が作ってるんですか?」
ジャージを作る機械が無いのにどうやって製造してるんだろう。それ、めっちゃ知りたい。
「あれはフェアリー種が手編みで作ってくれているんだよ。薄くて編み目の小さい布になるほど身体の小さい種族が手がけている。とりわけ身体の小さいデミ系の種族が頑張ってくれてるね」
「そうなんですね」
「彼らの技術を魔道具化出来ないか研究中なんだよ」
「それだとフェアリーさん達の仕事を奪っちゃいませんか?」
「編みの作業は奪うかもしれないけど、魔道具のケアや糸の調整なんかは彼らにお願いしないといけないから職人から管理者に変更になるだけだよ。尤も、手作業好きの子達もいるだろうから、そんな子達には手編みをお願いすると思うけどね」
「織りはボク達ドワーフと蟲人が得意なのは知ってましたが、目の細かい編みが得意なのはフェアリー種だったんですね」
「そのうち見学の授業があると思うから、ボードのチェックを怠り無くだ。さて、靴下の裁ち目かがりは出来たか? 問題なくかがれていたらパーツを合わせてマチ針で固定しておくように。私が間違いがないか確認しに行くから、それから縫い始める様に」
「あ、皆さんのお邪魔をしてしまいました。ボクはこれで失礼いたします」
「いや、邪魔じゃないからまた来てくれていいぞ」
俺は逃げるように裁縫科の教室を後にすると、その足で購買部で『仕立て用チョーク』を手に入れた。




