第220話
今回は大会議の後の、商品名を決める会議の話です
ヒト族他に売るために受けの良さそうな名称を考案する商業ギルドを始めとする支部長達。試食をし、試飲をし、状態異常回復ポーションを飲む。仮眠を取って起き抜けのボ〜ッとした頭を目覚めさせる為に冷やしエールを飲み、気合を入れ直す。
「【血祭り】は色味とノリは分かり易いが、ヒト族の一般受けはしないのではないかね」
「ノリは冒険者向けだな」
「【血の】ではなく【情熱】にしてみてはどうか」
「【血の海】は度数が高いから【扇情】にしてみてはどうだろう」
「ならば【血の雨】は【逢瀬】か?」
「響きがオシャレ過ぎて、我々には飲んだ気がしない名だな」
「ブラッディーの方が酒を取り合ってる感が出てるからな」
「ドワーフ向けは【血の】シリーズの方が名前の通りが良いだろう。後、ヒト族でも冒険者向けには【血の】シリーズで構わないと思わないか?」
「冷凍【緋茄子】を擦り下ろしたものを加えるアレンジは、接頭語で “ 冬の ” を付け加えたらよいだろう」
「ほな、【緋茄子】は “ 情熱の果実 ” とでもキャッチフレーズつけましょか?」
「相も変わらず、商人様はイヤラシイ売り込み方が得意ですな」
「おおきに。そうですなぁ……いっそのこと『浮気をされたら相手に【緋茄子】をぶつけても構わない』って設定作るのはどないです?」
「でっち上げのルールか。下町の住人には受けそうな設定だ」
斯くして、『情熱の果実(=緋茄子)』のカクテルは、【情熱】、【扇情】、【逢瀬】となり、浮気されたら相手に【緋茄子】をぶつけてもかまわない という設定をワンセットに。冒険者や下町を中心に新しいカクテルを売り込むことが決定する。
「次は【芋麺】だな。分かり易いがそれだけだ」
「そもそもヒト族間で【茄子花芋】の扱われ方が宜しくない」
「原材料を隠した方が良いかもしれんな。デンプンと芋麺、その完成品のみ卸した方が良さそうだ」
「そもそも登録者は何故デンプンと名付けたのかね?」
「沈殿した粉でデンプンだそうです」
「タワシと同じノリだったのか」
「単純に芋粉で良いのでは」
「そこは【カルトーフン】か【カルトープン】の方がヒト族の耳には響きがいいだろう」
「麺は【カルトーフン麺】かね?」
「茹で上がった麺は透明で雨や滝のように美しい。その辺りも名称に使えないものか?」
「確かエルフが好む麺に【マンナ芋の白糸麺】という物が有りますわ。白糸麺は使うたらあきまへん」
「滝か…。滝と言えばヨーロー伝説を思い出すのだが」
「あの、酒が滝になって流れる伝説の地・『ヨーロー』の物語ですな」
「 “ 伝説の地・『ヨーロー』で流れ落ちる滝の様に美しい麺 ” という売り込み文句、ええですわー。原料は謎の白い粉【カルトープン】。神秘的ですやん」
「芋麺改め【ヨーロー麺】でいこう。芋麺を揚げた料理は【ガルシア麺】でいいだろう」
デンプンと芋麺もヒト族向けに【カルトープン】と【ヨーロー麺】と名前が変わる。キャッチコピーは “ 伝説の地・『ヨーロー』で流れ落ちる滝の様に美しい麺が出来ました ” だ。
「デンプン繋がりで水飴ですが、水飴はそのままの名称でいきますか?」
「商品名を【メロウモルト】にし、一般名を水飴では駄目かね?」
「【鉱夫飴】はそのままいけますね。名付けたのは例のドワーフではないのでしょうな」
「後、甘味料は【モミジシロップ】と【カエデ糖】でしたな。拭き草の茎も名前を考えねば」
「拭きに引っ掛けて富貴とかフッキーとか…」
「輪切りにしたら天使の頭にある輪に見えるというネタが有るとかないとか」
「天使の輪ですか!」
「そちらは茎の砂糖浸けの名称に使いたいものですな。茎の水煮はまた別の名が欲しい」
「【見通し】」
「【シュノーケル】」
「それは茎が筒状だからか?」
「特徴を前面に出すとそうなるな」
「ノリが悪いですわ。甘い方が『天の使者』こと天使ですやろ? ほな甘くない方は『天の部隊』こと天部でええんとちゃいます?」
「なるほどセット売りか」
「確かに天部は空から雷を撃ち下ろす。それを矢に見立てて茎と関連付けてみては?」
「茎に穴が空いているのは、天雷を吹き矢の様にして撃つこともある…と」
「ホンマかいな」
「天の方々は何でもアリだろう。それこそ鏃ではなく槍の穂先かもしれぬし棍かもしれぬ」
「では、【天使の輪】、【天部の矢】というのはどうだろうか? ヒト族の、特に貴族受けしそうな名前にしてみたのだが…」
「いやまて、【天部の輪刃】はどうだ? 輪切りは甘い時は天使の輪で、甘くない時は天部の輪刃。そう説明ができるぞ」
「お見事!!」
「天に縁のある拭き草やさかいに “ 魔物ではないスライムが住み着く ” んですわ」
「また設定かね?」
拭き草の茎のままではドワーフに忌避感や嫌悪感を持たれてしまうので、最初から全種族向けで商品名を【天使の輪】、【天部の輪刃】と決定される。甘味料は水飴が【メロウモルト】に。樹液を煮詰めた【モミジシロップ】と更に水分を飛ばした【カエデ糖】、この三種が売り出される事になる。尤も、量産体制の関係上、ドワーフ領で出回るのは水飴こと【メロウモルト】なのだが。キャッチコピーは “ もう蜂に頼らない!! ” だそうで。
「【鉱滓包み】も我々にはイメージが付けやすいが…」
「ちゃんとした名前を付けねばヒト族の冒険者に【討伐証明】と呼ばれてしまうぞ」
「ゴブリンの耳よりならスラグの方がマシだろうに」
「発案者は何か言ってなかったかね?」
「溶けた銀塊や金塊に見えなくもない、財産の象徴としている地域があるらしい…とか言っていたとか」
「元ネタ、お金やったんか!! ますます討伐証明呼びですわ」
「巾着。金貨の詰まった巾着はどうかな」
「【巾着焼き】ですか?」
「巾着をオモニエールと呼ぶ地域があるそうです」
「それはいかん。『主にエール』では酒の飲み方ではないか」
「『とりあえずエール』の対義語の様ですな」
「『とりあえずエール』で『オモニエール』!! って注文ギャグですやん。あ……、二人寸劇のネタが浮かびましたわ」
結局、広げた皮で中に様々な具を包んで作ることからヒト族向には【巾着焼き】と呼んでもらう事にした。多分、冒険者達は面白がって【討伐証明】と呼ぶのだろうが。
そんな騒々しい会場に、さながらゾンビの様な姿を晒しつつ、会議の内容全てを記録しているホーク=エーツがいるのだった。




