第218話
(「ラパン、ワギュ、ご飯を食べよっか」)
(「はーい」)
(「ああ」)
組合長さん達の目を誤魔化す為に【紫萌肥し】を食べ、タワシでブラッシングを続ける。
(「もしかしてワギュとラパンがボクに【運魔石】を渡しちゃったからボクのいる『スワロー』から離れられなくなったとかじゃないよね?」)
(「違うよ。ラパンのワガママだよ」)
(「いや、俺…ミーシャが気に入ってるから、遠くに輸送に行ったら戻ってこれなくなるのが嫌で……」)
(「それだけ? 本当にそれだけ?」)
(「俺はミーシャの近くに居たい………」)
(「そっか…。で、ラパン、ボクが飼ってもいいの?」)
(「でも高いんだろ? 俺らは」)
(「そうみたい。でも、馬車組合にラパンを貸し出してお仕事してもらえば、時間は掛かるけどお金は回収出来るみたいだよ」)
(「そうなのか 」)
(「ラパンが嫌ならお仕事しなくていいけど…」)
(「嫌じゃねぇ。ミーシャの居住地が本拠地になるのなら問題ない」)
(「ラパン、ありがとう。これからも仲良くしてね」)
(「それで、ミーシャちゃん、お金に余裕があったら私も飼ってもらいたい。もちろん組合でバリバリお仕事するよ。それにね、ラパンも単騎仕事より二頭立て馬車の方が仕事が来ると思うんだよね」)
(「確かに「単騎乗りで何で乗り捨て出来ねぇんだよ!」って客に言われそうだ」)
(「じゃあボク、組合長さんと支部長さんにお願いしてみるね」)
グゥ~
「あれ? ラパンお腹空いてたの? 一杯食べてね。ボクは組合長さん達とお話ししてくるから」
ワザと二人に聞こえるように声を上げて【運魔】との語らいが終わったアピールをする。二頭分の購入代金はどれくらい掛かるのか……一頭あたり金貨三百枚とかそれくらい?
「で、どうすることにしたのかね?」
「はい、組合長さん、支部長さん、差し支えなければ二頭を買い取り馬車組合に貸し出ししたいと思っています」
「ほう、二頭も」
「ラパン、赤毛の方の【運魔】だけボクの所有にすることも考えたんですけど、単騎の貸し出しだと返却が面倒で借り手が少ないんじゃないかと。その点、二頭だと馬車を引けるのでまだ往復で借りてもらえそうですし」
「確かにそうだな」
「それで、お客さんに払ってもらった賃料って、組合やギルドに規定の納付額を納めた残りはボクの取り分でいいんですよね?」
「ああ、それで問題ない」
「だったら、個人所有の【運魔】なので、往復割引があるって貸し方でも問題ないですよね?」
「ミーシャ=ニイトラックバーグの取り分が減るだけだから組合的には何ら問題はない」
「だったら確実にラパン達を返してもらいたいので、それでいきます。後、猫の人の同伴転送って【運魔】も運べますか?」
「確か生物は同伴転送が可能だったハズだが」
「それなら、乗り捨てしたい利用者には同伴転送代も込みで代金を支払ってもらうことにします。嫌なら往復で使ってくださいって事で」
「そこまでするのかね?」
「二頭ともボクの大事なトモダチなので」
「そうか、トモダチか」
「それで、肝心の売却価格だが、登録料込みで二頭で金貨六百五十枚でどうかね?」
「すみません、ボクとしては今は手持ちが無くて、大会議で決まる報奨金や月々の権利料で支払うしか方法がないんです。それに職校と学園の授業料もその中から一括六十年分支払い済みたいで……」
「まさか、六十年一括払いをする者があいつ以外にもいたとは……」
組合長さんの言うあいつって、絶対ハーレー=ポーターさんの事だよね?
「組合長、多分一括で払えるだろう」
「そうなのか?」
「ミーシャ=ニイトラックバーグは入校後に何件かの追加申請をしていた。それも最重要事業化案件なので、そちらの金が回せるだろう」
「それは頼もしい若者だ。タワシの恩もある」
「タワシは確かにそうだな。あれを使うようになってから【運魔】達が頗るご機嫌だ」
「では、権利金等からの差し引きで二頭の購入価格を支払うという契約で売買を成立させよう。書類は馬車ギルドで作らなければならないので、来週の二の日にギルドに来てもらいたい」
書類が完成したら、従魔登録と馬車組合へ貸出登録をし、馬車組合の厩舎での預かりをお願いする手続きをする。餌代は俺持ちなので、組合で与えている基本の餌を買うか特別な餌を手配するかはオーナーの自由なのだとか。どうせだったら少し良い餌をあげたい。
二頭の傍に戻りオーナーになった報告をする。ワギュは鼻先を擦り付けてくるしラパンは甘噛みをしてくる。いつもだとヨダレ鼻水塗れになるのは嬉しくないけど今日だけは違うぞ。
馬車組合としても限定条件付きとはいえラパンの運用ができるのは願ったり叶ったりらしく、俺としても二頭を飼い殺しにしなくて良かったとホッとしている。ポニーだって野山を駆け回ったり荷物を運んでナンボだと思うし。運送業務の他にも新型馬車の試運転や実験にも駆り出される模様。俺としては二頭に危険さえなければ全然問題無しだ。
そうだ、蹄鉄を発注しないと…。後、俺が乗る時専用の馬具一式も要るな。
――――― 【運魔】の声 ――――
(「ラパン、良かったね」)
(「マジで嬉しい」)
(「ミーシャちゃんが困らないよう、一緒にお仕事頑張ろうね」)
(「おうよ。千リー ( = 三千九百キーロミートル) でも走ってやるぜ」)
(「千リーは無理じゃない?」)




