第217話
馬車ギルドに行って、その帰りに学園に虫入り琥珀を査定してもらいに行くぞ。その前に昨日、小鍛冶師が修復した包丁類の展示を見てこないと。破損状態の包丁類はスケッチか残されており、どこをどう修繕したか見ればわかる様になっていた。パート君、結構ガッツリ先端を欠いたんだな…。それが少し刃先の角度が違う程度に直されてる。クソッ、匠の技を見たかったぜ!! 他にも、魚の硬い骨を無理に切ろうとして刃が欠けた包丁とか、下手に研いで刃が軽く湾曲して見える包丁とか、研がないで使い続けていたら切れなくなった果物ナイフとか、鉄錆の浮いた包丁とか、先の潰れたアイスピックとか、焦がした金串とか、様々な素材提供が有ったんだな。次回は鍋や金ザルとか刃の付いてない調理用具を直す授業なのか。次こそ見学したいな。
「呼び出しの有ったミーシャ=ニイトラックバーグです」
「おっ、来てくれたか」
「もう大会議の方は大丈夫なんですか?」
「馬車ギルドはね。我々の管轄とは違う項目を扱うギルドの支部長達はまだ頑張ってるよ」
「トップの方達って大変なんですね」
「ミーシャ=ニイトラックバーグ、君がそれを言うかね?」
主に飲食に関係してくるギルドが粘っているのだと馬車ギルドの支部長さんがコソッと教えてくれた。
「それで、今日ボクが呼び出されたのはどんな用件でですか?」
「実は馬車組合から苦情がきていてね。赤毛の【運魔】、何という名前だったか…パパンだったかラマンだったか」
「赤毛って事はラパンですか? ちょっとヤンチャな子ですよね」
「それだ、その赤毛【運魔】がだな、客を乗せずに暴れていると報告がきている」
え〜〜〜、ラパン何やってるの? ヤンチャな子なのは知ってたけどお客さんを乗せないってのはダメだろ。
「それは困りますよね」
「大困りだ。隣町との往復ならまだ働いてくれるが、遠くに行くのは拒否し続けているという報告だ」
「遠くってに行く事は片道輸送なんですよね?」
「そうだ。基本、馬車組合にいる【運魔】は馬車ギルドの共有財産だから、領内をグルグル回って輸送している訳だ」
「もしかしてラパンは『スワロー』から移動したくないとかですか?」
「その可能性を考えて、テイマー職や馬の人に【運魔】の声を聞いてもらったところ、その個体には何らかの契約があるらしく『スワロー』から離れたくない模様だ」
「契約……」
契約ってまさか、俺が【運魔石】を貰ったとか、念話が繋がったとか、それが原因じゃないよね?
「それで我々はミーシャ=ニイトラックバーグの事を思い出してね」
「ボクですか?」
「ミーシャ=ニイトラックバーグが迷惑でなければあの赤毛【運魔】を買い取らんかね?」
「そうですね……、エエーーッッ!!??」
「個人で【運魔】を所有するのはそう珍しいことではないから安心したまえ」
「はい… ……って、ボク、そんなお金持ってませんよ」
「いやいやどうして。報奨金と権利金で十分を通り越した額が来るハズだ」
「いや、ボクって学生寮住みですから、【運魔】を飼う場所なんて無いんですけど…。それに学生の身では【運魔】を乗り回したりはしませんよ」
いくらなんでも寮の部屋にポニーは連れてはいけないよ。その為に家を一軒借りるのもなぁ……。カレー実験棟には出来るけど。
「何なら馬車組合に貸し出してくれてもいい。個人所有の【運魔】なら片道輸送はさせられないから【運魔】も納得してくれるハズだ」
そしてそのまま有無を言わせず馬車組合に連れて行かれる。俺に拒否権は無いのか……。
(「ラパン、ワギュ、ボクだよ、ミーシャだよー!! 会いに来たよーー!!」)
通じるかどうかは分からないけど念話を飛ばしてみる。
(「ミーシャちゃんだーー!!」)
あ、通じたよ。この声はワギュだな。
「組合長、連れてきましたよ」
「これは支部長、お疲れ様です」
厩舎に連れて行かれる。ワギュとラパンに会うのも久々だ。元気かな?
「ワギュ、ラパン、元気してた? ……あれ、ラパン痩せた?いや窶れた? ちゃんとご飯食べてたの?」
(「ラパンはミーシャちゃんに会えなくて食が細りました」)
(「えー、そうなの?」)
(「ワギュ、余計な事を言うなし」)
(「ねぇラパン、大丈夫? 病気じゃないよね?」)
(「…………あぁ」)
「ラパン、撫でるね。蹴ったら嫌だよ」
そう言ってラパンの首筋を撫でる。そのまま背中から腰までポンポンと触りながら撫でていく。
「これが噂の暴れ【運魔】ですか」
「いやはや、大人しいもんですな。やはりミーシャ=ニイトラックバーグに引き取ってもらうのが一番なのでは?」
(「引き取るって???」)
「ねぇラパン、ラパンが嫌じゃなかったらボクの所に来る?」
ブルルッッ (「いや、…その………」)
「嫌?」
ブルッ ブ…ヒヒッ
(「ラパン、豚の真似?」)
(「ワギュ、うるせぇ」)
「組合長さん、支部長さん、今ここに【紫萌肥し】の種って有りますか? もし有ったら発芽させてもらいたいんですが…。飼い葉用に少し育ったものもあればお願いします」
「分かった、用意しよう」
「ボクと二頭で【紫萌肥し】食べながらお話ししてみます」
準備が整うまでの間、いつの間にか馬車組合の備品になっていたタワシを借りて二頭を交互にブラッシングしながら念話を交わし続けた。




