第214話
おじいちゃん騎士役のパイク=ラックさんが俺の事を悪い虫から護ってくれている状況に苦笑い。この人のバックには猫獣人軍団も付いてるからなぁ…。
「あの、さっきの上位鑑定を隠蔽する魔法って…」
「それは『コンシーラー』だ。認識阻害系だからカテゴリー的には精神魔法。『汎用魔法』なら『マスキング』ってのが下位互換だ。どちらも使えない場合は『イレースインク』と言う魔導インクで内容を書いてから『イレースフィルム』という魔道具で処理すれば見えなくなる。見る時は『フィルムリムーバー』という魔道具を使う」
よしっ、『汎用魔法』の『マスキング』を覚えよう。
「三号、青琥珀で確定だな」
「ですね。ボクとしては透明度も良かったしサイズもそれなりなので、綺麗に板状のまま研磨して、陰刻の素材にでもすればいいんじゃないかと思いました。勿論ボクに彫刻の技術は無いので売りに出します」
「なるほど、いい発想だ」
「太陽神、女神・コヴァ=サティ様のお姿でも掘ってもらうのがいいかな…って。太陽光でぼんやり青く光るのって魅力的ですよね」
「それでいいんじゃないか?」
「二号はモッサリしすぎてて、何にするか思い浮かばなかったので表面だけ綺麗にして終了でした。気が向いたらカットしてビーズ加工するかも…です」
「で、どうする? 俺に卸すか学園に持ち込むか?」
「一号は学園に持ち込みます。反応が薄かったらラルフロ=レーンさんに卸します。二号は手元に残しておいて、三号はラルフロ=レーンさんに卸します。それと、失礼ですがラルフロ=レーンさんが一号を買い取る時の値段を教えて下さい。学園の提示価格との比較に使いたいです」
「言うようになってきたな。本来は買い取り価格は教えないんだがな。まぁ、ミーシャ=ニイトラックバーグには教えてやってもいいか」
「ありがとうございます」
「そうだな…ノート込みで金貨三枚だ。この前後の価格帯がここ最近の一般的な仕入れ相場だ。研磨もちゃんとしてるし鑑定結果も悪くない。もし魔獣が入っていたらこんな価格じゃ済まないけどな」
「学園の買い取り価格が金貨三枚より上だったら、差額分でエールをご馳走しますね」
「そりゃあ楽しみだ」
「あ、リンド=バーグさんとパイク=ラックさんも一緒にですからね」
「そうだな。それが安心だ」
「チッ、保護者付きかよ」
「嫌なら誘いませんので」
そうじゃそうじゃ…といった感じでパイク=ラックさんが頷いてるよ。二人には悪いけど庇護養親の “ 養親バカ ” は有り難く使わせてもらいます。
「三号はノート込みで金貨五枚だ。陰刻加工に回って……ヒト族に出回る頃には最低でも金貨二十枚くらいにはなるんじゃないか?」
「もしそこに月の女神・セイラ=ビット神の姿をブルームーンストーンの浮き彫りにした物があれば、セット売りで金貨百枚くらいになりそうだな。ラルフロ=レーンぐらいの人脈があれば入手できるんじゃないか?」
リンド=バーグさんが挑発したぞ。リンド=バーグさんはその素材を手配してセット売りを企む気がする。
「星の神様は難しそうじゃな」
「宙石だ。隕石に線掘りすればいい」
「それ、セット売りしたら、けっこう大変な額になりますよね?」
「なるじゃろうなぁ…」
「ラルフロ=レーン、儲かったらエールで宴会だな」
「言っただけだ。手配が大変だろうが……」
そういえば、ラルフロ=レーンさんってリンド=バーグさんと同年代なんだよね…。もしかしたら、あの問題児先輩のことを知ってるかもしれない…。怖いけど聞いてみようかな。
「ラルフロ=レーンさん、ハーレー=ポーターさんってドワーフはお知り合いですか?」
「ハー…………… ひっ、久々に疫病神の名を聞いたぞ」
疫病神って随分と酷くないか? まぁ言いたいことは分かるけど。
「関わらないのが吉だ。まぁ、ミーシャ=ニイトラックバーグは同性だから政略結婚の話は来ないからいいだろうけどな…。同年代の地雷だぞ」
「そうなのか?」
「リンド=バーグは鐘割り嫁と結婚が早かったから知らないだろうけどな」
ラルフロ=レーンさんの説明によると、御者ゴーレムを開発したハーレー=ポーターさんは、その技術力を他種族(主にヒト族)に狙われる存在になった訳で、本来ならばポーター氏族の誰かか有力氏族の子息と婚姻関係を結ぶことにより保身と技術の保護(という名の技術流出防止策)を取るのが一般的な身の振り方なのを蹴って、潤沢な報奨金と権利金を元に “ やりたい事に没頭 ” する日々を過ごしている……のだと。職校に在籍しているのは、(主に他種族から)婚姻や就職を打診された時に「自分はまだ職業訓練校の生徒ですので…」と言葉を濁す目的なんだとか。卒業後の進路(笑)は一応決めてあるそうなので、俺は関わらないようにしつつ、遠くから何とな〜く応援していてあげよう。
「噂だとな、興味のあるゴーレム案件の話を見つけたとかで何時になく張り切ってるらしいぞ」
「へぇ〜、そうなんですか」
その、ハーレー=ポーターが見つけたゴーレム案件というのが、パラパラポンチ絵に関することだと言う事をまだ知らないミーシャ=ニイトラックバーグなのであった。




