第210話
大会議が終了したらリンド=バーグさんの家でパイク=ラックさん、ガルフ=トングさんと宴会をする約束をした。勿論、料理を作るのは俺で、パイク=ラックさんにはエールを冷やしてもらう。登録料理も一応は解禁になるので『関所の集落(仮)』ハーフメンバーで久々に楽しもうって算段。リンド=バーグさんの工房なら消音の魔道具もあるしね。そのうちオロール先生も招いてブラッディーシリーズを飲ませてあげなきゃ。
学園に着いたのでここからはパイク=ラックさんと別行動。図書館で【魔多々媚】の最新情報を調べるんだって。
魔獣素材の課外学習を聞く。厳密には魔獣学の魔獣素材学習。本当はちゃんと魔獣学を学ばないといけないんだけど、職人枠や冒険者枠でピンポイントで知りたいことを習えるのは有り難いです。
「それで、ミーシャ=ニイトラックバーグとリンド=バーグの聞きたいことというのは?」
「ボクはコカコッコの蹴爪の扱い方を聞きたいです。時間があれば【運魔石】の研磨方法も知りたいのですが」
「俺は今の二つが武器・防具に組み込めるかの質問だな。組み込めるなら取り付け時の注意事項も知りたい」
「これまた有益魔獣の素材じゃないか」
「これとこれなんですけど……」
コカコッコの蹴爪と、ワギュとラパンの【運魔石】を『キーボックス』から取り出し、講師に提示する。
「これは生体由来の良素材だよ。一体どこから入手したの? 頼めば卸せるとかはあるのかな?」
ヤバい、めっちゃ食い付いてる。
「これらは、ボクが【運魔】の前で【紫萌肥し】や【穂先黍】を食べたり、コカコッコの前で【鶏餌草】を食べて魔獣達の信頼を得たら貰えました」
「はぁっ!? マジで!?」
マジです。ネタでもガセでもフェイクニュースでもないです。
「ボクは研磨が仕事にしたいくらい大好きな趣味なので、この二種類の素材を上手く研磨してアクセサリーなんかの装備品にしたいんです。それ以外にも利用方法があるなら知りたいですし」
「あー、そういう入手法なら卸しは無理なのか……」
「そんなに凄いんですか?」
「それはね、【運魔石】は通常【運魔】の死後に回収するものだからだよ。それは生きた【運魔】が渡してくれた訳だろ? 鮮度というか魔力や生命力が断然違う。しかも経年劣化しないよ。コカコッコの蹴爪は伸び過ぎによる怪我防止で切ることはあるけど、それでもコカコッコの機嫌を損なうから鮮度が落ちちゃう訳ね」
「【運魔】の方はお願いしても追加で渡してくれなさそうですけど、コカコッコの方ならお願いしたら貰えるかもしれません」
「チャンスがあったらキープしておいて欲しい。出来れば尾羽根も二〜三本。勿論、正規価格で買い取るからね。ヨロシク」
コカコッコの蹴爪は、石化防止薬、石化解除薬、解毒薬の素材に使うことができる。使い方は何れも粉末にして他の素材と一緒に使い、それぞれの薬の作り方に応じて用いること。使う分量を折り、粗く砕いた後に乳鉢で擦って粉末にする。木賊や砥石等を用いて粉末にする事も出来るが、その際は分離魔法で不要成分を除去することが推奨される。
装備すると耐毒、耐石化の微弱効果がある。総重量に比例して効果が上がる訳ではないので、スライスして中心に孔を開けてビーズ加工したものをネックレスや指輪に装着したり、布鎧に直接縫い付けて使用する。素材の《《鮮度》》で効果に若干の差異が生じることが確認されている。
「まぁ、ザッとそんな感じかな。粉末だけを飲んでも咽るだけで、特に薬効は認められていないよ」
「蹴爪を研磨することは、装備品へ加工することに関して何らかの意味や、効果上昇等のメリットはありますか?」
「普通は研磨しないで使うから、実はよく分かっていないんだよねぇ…。何ならミーシャ=ニイトラックバーグが検証実験してくれて全然構わないよ」
「検討してみます。それと、研磨で出た粉末って分離すれば薬種に回せるんですよね?」
「回せる。ビーズ加工の時に出る粉末も回収されているよ。分離魔法を取得してなければポーション瓶なんかに回収しておけば買い取って貰えるからね」
「蹴爪を切るのはどうやるんですか?」
「『鋸山荒』の針を糸鋸の弓に装着して切るのが一番だね。孔を開けるのには『螺旋錐針鼠』の棘が便利。この二つがあれば貴金属でもシルトパット・タートルの甲羅の透かし細工でも何でも、やりたい放題だよ」
「確かにその二素材はよく使うな。革の孔開けには『筒海胆』が便利だが」
「現場の意見が出てきた出てきた」
「まぁ、鋼鉄製の方が魔力干渉が出なくていいんだが、魔獣素材には鉄を嫌うものも多いからな」
「そうなんだよねぇ…」
色々と意見を交わしたり情報交換をしていたけど、【運魔石】はまだ俺には早いことだけは分かった。実は、スライムの死核で基礎練習するのがいいみたいだった。後はホーンラビットの角とか魔羊の角とか、野生種でも家畜でも比較的入手の簡単な魔獣の角で練習するのが早道なんだって。甲羅系は名前だけはお馴染みのバサルトタートルの養殖個体で練習。さっき名前の挙がったシルトパット・タートルは高級素材だった。
リンド=バーグさんは武器・防具への取り付け方のコツを教えてもらっていた。やはり基礎素材で練習するみたいだ。素材の取り付け部分の形状の研究とかをするみたい。
そして、『鋸山荒』の針と『螺旋錐針鼠』の棘を分けてもらう代わりに、コカコッコの蹴爪の根元側をニセンチほど提供することになった。始めはどうしようか悩んでいたけど、リンド=バーグさんが交換しておけとアドバイスしてくれたので交換することにした。




