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第205話

今回はガルフ=トング視点の回です


ミーシャが旅立ってからもう半月が過ぎたのか…。閑散とした…いや閑静だ、この閑静な関所代わりの集落も落ち着きを取り戻し………てはいないのだよ。ミーシャと共にパイク=ラックが去ってからというもの、すっかり冷やしエールに慣れきってしまった俺たちは、禁断症状に苦しんだ。どれくらい苦しんだかというと、ジョー=エーツが不融(とけず)氷が有るのでは? と氷を探しに洞窟に行ってみたり、冷却に関わる魔法やスキルを手に入れようと鍛錬(修行か?)を始めてみたりと実に充実した日々を過ごしている。かく言う結果は散々なのだが……。


その合間を縫って、マリイン=リッジは実験畑を拡張。【(あか)茄子】研究に余念がない。追熟実験にも力を入れている。【粗相豆】の栽培も開始された。【樹樹(じゅじゅ)菜】は食材用というよりはお供え用として栽培されることになった。ミーシャが使っていた部屋の戸棚が『地母神レミ』へのお供えを置く場所になったのだ。あ、お酒の神様へのお供えも同じ場所だが。


『地母神レミ』に願い事をしながら、まるごと一本茹でた【樹樹(じゅじゅ)菜】をお供えして、朝まで倒れていなかったら願い事が聞き届けられた証拠。そんな冗談を交わしながら特に何事も起こらない集落で過ごしている。まぁ、関所でトラブルがおこらないのには越したことがないんだがね。



俺はあれからタワシ作りに力を注いだ。どちらかと言えば小間物細工師の仕事なのだが、タワシの繊維を捻じり上げる針金作りは(しょう)鍛冶師の仕事だし、その他の作業道具も一から作りあげるとなれば鍛冶師の力が必要不可欠。タワシ繊維の裁断にも専用刃物を作ったくらいだしな。それと並行してT字型の剃刀も研究している。確かミーシャは替刃がどうこう言っていたな。しかしこの剃刀だが替刃という便利さを追求するとなると悪用防止を考えねばならぬ。替刃を持った暗殺者に暗躍されても困る。



「ガルフ=トング、魔法の時間だよ〜!!」


マリイン=リッジの呼ぶ声がする。これから中央広場で冷やしの為の特訓が始まる。集落のメンバー全員でエールの入ったジョッキ片手に冷やしの為の特訓をする。



「ちょっと汚い話なんだけど、小用を済ませた後ってブルブルってするじゃない? あれって熱い液体が体内から放出されて身体が冷えてるよね」


「そうだな」


「やっぱり熱を分離するのが冷却に近付くのかな?」


「分離はいいが、分けられた熱は何処に行くんだろうな?」


「蓄熱の魔道具って欲しいかも。温いエールを吸熱してくれて、その熱を貯めておく」


「貯めてどうする?」


「うーん、温室の暖房とか、厩舎の暖房に使う? お風呂が沸かせたら最高だけど」


「それだな、そのネタを提出しよう」


「本当にそんな魔道具が完成したら、宿屋は買うだろ?」


「いや、全ての家が対象にならないか?」


「錬金術師と魔道具師に頑張ってもらおう」


「あっ、『熱分離』が発動したかも……」


「マリイン=リッジ、本当か!?」


「多分、今なんか来た……、ゴメン、トイレ!!」




「ゴメンね。出して来たらブルブルきたよ」


「で、エールは?」


「ゴクッゴクッ……気持ち冷えたかも? もう一回試してみるよ」




「なんか来たかも……、で、トイレ!!」


「何でだよ!!」



マリイン=リッジが  飲む→スキル→出す  を繰り返すこと数回。



「いい加減、スキルオーブだろ」


「そうだね………、えっ??? 『熱移動(弱)』 って生えた」


「『熱移動』!?」


「だから排熱(トイレ)が組み込まれるのか」


「これはまた謎スキルだな」


「便利かもよ。冷えた身体を暖めるのに温いエールから熱を貰う」


「そこで冷えたエールを飲んだら、折角温まった身体が冷えるぞ」


「もう一回温いエールから熱を貰おう」


「で、冷えたエールを飲んで身体が冷える」


「永久機関じゃないか」


「いや、途中でトイレが挟まるだろう」



真っ昼間から、()()酔っ払っていないオッサン共の笑い声が集落に響き渡った。




「『熱移動』からの『放熱』を身体経由しなければいいのかなぁ…」


「しかし、それではエール一杯をセルフ冷却する程度だ」


「まぁ、パイク=ラックみたいに樽ごと冷やす訳でなければ実用価値はあるか」


「熱分離からの熱移動を経由して熱備蓄か…。面倒臭いな」


「原理としては、外部魔力が身体で魔力移動して魔法発動と変わらないんだけどなぁ」


「確かに、魔道具にセットされた魔石から魔力を補充しながら魔法を発動するのと変わらないな」


「エールより奪いし熱よ、奔流となりて敵を討て!! なーんてね」



パーーン!!  マリイン=リッジが指差した方向から軽い音と共に何となく蒸気が上がる。



「まっ、マジぃ!?」


「今のは!!」


「いや、俺もね、冗談で唱えただけなんだけど!!」


「ミーシャもビックリだろ」


「スキルオーブだスキルオーブ!!」





「…………、あ……えっ!? 複合魔法『熱波(ロウリュ)(微)』 まって、スキル内容をセルフ鑑定するから……」



複合魔法『熱波(ロウリュ)』: 熱と湿度と風を合わせた攻撃魔法。



「マリイン=リッジ、陶板濡らしに送風は試した事があったな」


「そうだね」


「そこに熱移動が合体した…とでも?」


「それより、エール、エールは冷えたか???」


「冷えた!! 冷えてる!!!!」




ロウリュと〜 冷やしエールが〜 僻地の集落で〜 出会った〜〜

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