第204話
数年ぶりに開催される大会議の為に『スワロー』にある錬金術ギルドに続々と “ ドワーフの為のギルド ” の要人達が集結していた。
「いやはや、今年は 大豊作だとか?」
「我々も新作を手掛けるのが楽しみですよ」
「そちらの業界も大変な事になりますな」
「初期投資さえ済ませてしまえば儲けは後から付いてきますからな。快適輸送に先行投資は付き物ですよ」
ドワーフという種族は見た目で見分けが付きにくい為、皆、胸元に所属部門ごとに色分けされ個人名が書かれたプレートを下げている。
「皆、息災かの?」
そこに一際目立つ白い髪と、爆発に遭った直後のような白髭を蓄えた老ドワーフが現れる。
「ガルシア翁、お久し振りです」
「ガルシア翁こそお元気そうでなにより」
ガルシア=ウィンカー。旧名:ガルシア=ウィン。鉱山系で活躍するウィン氏族の出ながら魔道具開発に精通していた為、若い頃より『ネオ=ラグーン領』の領都『ネオラグーン』にある学園の学長を務めており、現在の肩書は名誉学長。それに伴い氏族名を単独氏族名 “ ウィンカー ” に変更している。
「何でも今年は “ 美味いもの ” が沢山出てくるのだとか」
「らしいですな」
{ ―― ガルシア麺ですよー!! ―― }
「ん? 何か言いましたかね?」
「いや、私は何も」
「今、名前を呼ばれた様な気がしたのだが……」
「気のせいですよ。それより今年は酒の登録が複数あるとか。今から試飲が楽しみでなりません」
猫獣人・三毛皇の立ち上げた配送業【黒猫印の配送便】と錬金術師の開発した転送の魔法陣が提携することにより可能になった『人類輸送術』という空間移動術式がある。発端は【黒猫印の配送便】スタッフである黒猫獣人のみが利用していた移動術である。元々は猫妖精の秘術で、それを妖精王が気まぐれに魔法陣に落とし込んだ事により、猫妖精と猫獣人のみ利用出来る術式が完成したのだという。動物の猫がフラ〜ッと姿を現したり暗闇に溶けるように消えるのはこの術式を模せるからだともされている。
錬金術師の開発した転送の魔法陣は物品の転送しか出来ないものであったが、そこに【黒猫印の配送便】スタッフが荷物を運ぶ為だけに利用していた移動術を重ね合わせることにより、 “ 黒猫印の配送便スタッフ同伴なら人類も輸送することが出来る ” こととなる。尤も、猫獣人側の許可がなければ同伴輸送は出来ないので、誘拐した人質を遠方に連れ去る等の不正行為は出来ない。
三毛皇が猫妖精の秘術を猫獣人も使うことが出来る様にして欲しい…と妖精王に交渉したとされているが、何をもって交渉したのかは秘匿されているため不明である。何でも、 “ 夏を刺激した ” と言う事らしいが……。
なので、【黒猫印の配送便】は大会議に参加するドワーフ要人の同伴輸送で大忙しなのである。大会議に秋口を選ぶのは、【魔多々媚】の実が生る時期であり、尚且つ鮭の採れる時期だからで、支払い代金の他、この二大収穫物を提供することにより同伴輸送依頼が円滑に進むからだったりする。
「黒猫印の猫の人スタッフさん、同伴輸送お疲れ様です。こちらは名誉猫獣人パイク=ラック様よりスタッフ様宛の差し入れとなっております」
転送陣の設置場所である馬車ギルドで、ギルド職員が黒猫スタッフに【魔多々媚】蔓で編んだ腕輪を差し入れする。普段と違う仕事内容に文句を言いがちになるところを、【魔多々媚】一つで懐柔されてしまうのも如何なものだが。尤も、三毛皇の信頼厚い名誉猫獣人作の腕輪が貰えるのでは致し方ないといったところか。
「にゃにゃっ!! 有難うございます!!」
やはり猫獣人にとって名誉猫獣人パイク=ラック作の【魔多々媚】細工というのはキラーワードらしい。
「これとサモンを持っていったらプロポーズ大成功なのにゃ〜」
ご機嫌な猫獣人を横目に苦笑する馬車ギルド職員。円滑に輸送を行う為とはいい、無償で腕輪の提供を申し出たパイク=ラックには頭が下がる思いだとその場にいる職員は思った。尤も、パイク=ラックとしては庇護養子の大やらかしの所為でギルドを初め各方位に多大なる迷惑をかけてしまったと思っているので、せめて差し入れの【魔多々媚】細工でも…という事なのだが。
「やれやれ、商業ギルドも人使いが荒い…」
「特別招待枠のガルフ=トング様ですね。こちらに記帳をお願いします」
「久々にパイク=ラックの冷やしエールが飲めるな」
大量の荷物と共にガルフ=トングは会場に向かった。
「ガルフ=トングさんですよね? 私はリンド=バーグの伴侶のアリサ=ランド、冒険者で大会議の警護担当です。ガルフ=トングさんを見かけたら工房にお連れする様、リンドから依頼されています」
「初めまして、ガルフ=トングだ。そちらがリンド=バーグの奥方か。そうだミーシャはどうしている? ミーシャは元気かね?」
「ミーシャちゃん、元気を通り越して……」
「ん?」
「追加登録が……」
「あぁ、そうだろうな、そうでなくてはミーシャではないな。大会議にはリンド=バーグとパイク=ラックも呼ばれたかな?」
「はい」
「ミーシャはそれこそ嵐のようなドワーフ娘で……」
リンド=バーグの工房に向かう道中、ガルフ=トングは懐かしくも振り回されたミーシャとの日々をアリサ=ランドに語るのだった。




