第202話
スライムの死核は子株分割に使う以外は基本肥料だった。勲章の飾り石にもなったくらいだから、硬度に気を付けて使ったら宝飾用にならなくもない。やはりエルフに世界樹アクセと称して売りつけられそうな予感。やはり【魔海鞘】ランプに組み込んでみたいなぁ…。
「質疑はあるか? ラスト十分だぞー」
「はぁ〜い〜。いいですかぁ〜?」
何とも間の抜けた声で質問を求める声が上がる。
「ハーレー=ポーター、お前かっっ!!」
講師の声が不満そうに荒くなったぞ。えっ…ハーレー=ポーターって、まさか……御者ゴーレムのスローライフの人!?
「はぁ〜い。質問がありまぁ〜す。今日の講義では白スライムが上がらなかったですよねぇ〜? 理由を教えて下さぁ〜い」
うわっ、ハーレー=ポーターさんってウザダル絡み系!? あまりお近付きになりたくないタイプかも……。
「それはだ、まだ新種として発表されたばかりで固定品種になってないからだ」
「それでも、学会で新発見があったという報告くらいはしていいんじゃないですかぁ〜?」
チッ…… 講師が小さく舌打ちしてるし。でも、ハーレー=ポーターさんの指摘は間違ってないからなぁ…。この人、重箱の隅をつつく系なの?
「コホン、今、ハーレー=ポーターの指摘があった通り、ここ最近発見された『白スライム』という新種がいるんだ。餌は白墨や貝殻といった石灰系だ。海産物を商売にする業者の貝殻廃棄物の処理や石灰華 鋳造の鋳型処分なんかに使えるだろうということで注目されている」
「はぁ〜い、説明ありがとうございまぁ〜す」
貝殻を食べるって、白スライムってホタテビキニの天敵なんじゃ!! きゃ〜、白スライムさんのエッチ!!
「後は質問はないか? 無ければ閉講だ」
「終わった、終わった。ミーシャ、野菜刻みに行く前にパラパラポンチ絵の報告に行こうぜ」
パート君、パラパラ漫画の件を忘れてなかったよ…。
「あ〜、君が噂のミーシャ=ニイトラックバーグ? 初めまして〜」
教科書やノートを鞄に仕舞っていたら不意に背後からハーレー=ポーターさんから声を掛けられた。でも、何で俺のフルネームを知ってるの?
「はっ、初めまして。ミーシャ=ニイトラックバーグです。先輩、宜しくお願いします」
「先輩かぁ〜、いいねぇ。先輩っていい響きだよねぇ〜。どうせならさぁ〜、「ハーレーせんぱぁ〜い」って呼んでほしいかもぉ〜」
絶 対 イ ヤ ! ! 断固拒否させて頂きます!!
「いやっ、そんなっ、ボッ…ボクなんかがっ、ハーレー=ポーターさんっ、せっ…先輩をっ、そんな風に軽々しく呼びかけるとかっ、失っ…失礼にあたりますのでっっ!!」
「え〜〜、つれないなぁ〜。似た者同士仲良くしようよぉ〜?」
にっ、似てないから!! 似てないから先輩、絡んでこないで!!
(「君、派手に登録やらかしたって聞いたよ。で、職校と学園で六十年間遊ぶんだって?」)
慌てる俺の耳元で、ハーレー先輩が俺にだけ聞こえる音量でボソッと呟いた。その直後、 背中を冷や汗が走り、 サーッ と血の気の引く音が聞こえた様な気がした。いや、多分俺には聞こえていたんだ……。
「ミーシャ、行こうぜ。ハーレー先輩、お先します」
「ミーシャ君、じゃぁね〜〜」
「先輩、失礼します…」
パート君、ナイスフォロー!! もう、登録でいいからこの空間から連れ出して!!
それより、ハーレー先輩と同類に見られたくないんだけどぉ… (けどぉ… けどぉ… けどぉ…… ( ← 心の声のエコー) )
コンコン 「失礼します」
パート君に連れられて教員室に入室する。報告担当が「パート=ラッシュ、またお前か?」と言っているのは聞かなかったことにしておいてあけよう。
「今日はそこのミーシャと一緒に登録に関する報告です」
パート君が担当さんに説明をしてくれるのはいいけど、流れでスライム学の教科書をみせなきゃいけなくなった。落書きした教科書見せるのって、凄ぇイヤ。
「ほう、弾く様に捲ることでポンチ絵が動いて見える訳か」
「まだ有って、ミーシャ、ノートも頼む」
「はい、こっちはもう少し描いてあります」
「エールが飲み干されるのか。そりゃあいいな。まぁ教科書に落書きは褒められない事だが」
「それで、ミーシャは面白がってポンチ絵を動かしただけなんですけど、エールの方を見たら、これって酒場の看板に使えないか?って思い付きました。他にも、調理の指南とか、解体の指南とか、そんな紹介的な内容をもっと絵の上手い人がもっと差分を細かく描いて、それを魔道具で動かせたら…って思ったんですけど、俺にはその魔道具が思い付きません」
「それで、報告に来たと言う訳か」
「はい!! 面白い事や不思議な物を見つけたら、些細なことでも報告しろと教わっていますので」
パート君、ちゃんとした場所だとそこまでチャラくないんだ。ちゃんとTPOをわきまえれる人なんだな。
「面白くていいんじゃないか? じゃあ、パート=ラッシュとミーシャ=ニイトラックバーグの連名で報告しておくからな」
「ありがとうございます」
「あ、ミーシャ=ニイトラックバーグ、その教科書は回収するぞ」
「えっ!?」
「資料のポンチ絵が描かれているからな。ノートも渡してもらいたいくらいだが」
「ノートは下のポンチ絵のある箇所だけ切り取って下さい。その上で紙片を綴じてもらえればパラパラ捲れると思います。教科書は…、どうしても提出しなきゃ駄目ですか?」
「スライム学の教科書にスライムを動かすポンチ絵が描かれているのがいいんだよ。描かれた理由が分かりやすいだろ?」
「そうですね…、でも、まだスライム学の講義が残ってるので……」
「そうか、そっちの心配か。すまんすまん。代わりに俺の教科書をやろう」
え〜〜っっ?
「先生の蔵書ですか?」
「そこまで古くないから大丈夫だろう。俺のは三版・六刷だ。ミーシャ=ニイトラックバーグのは、どれどれ…四版・二刷か。もし大幅に内容が違ったら買って返すからコレを持っていけ」
さようなら、俺の教科書 with パラパラ漫画。




