第197話
オロール先生の部屋に連れて行かれ、そこで俺の分も【魔海鞘】の火屋を貰うことになってしまった。しかも二つ。
(共)「【魔海鞘】の火屋は小火にならなくて便利だよ。『グレート=フラット=オーシャン』の『リ=アース海域』に行ったら取り放題だしね」
魔海鞘、火屋、小火。 はっ、早口言葉!?
(共)「便利な素材なんですね」
(共)「加工は中身を抜くだけ。魔石を入れたら勝手に光る。しかも低燃費。中身は食える。最高だよ」
(共)「食べられるんですね」
(共)「フレッシュな物は内臓を外したらそのままぶつ切りで頂くよ。スライスした【長細瓜】と一緒に食べると最高だね。後は……干物だな」
そう言うとオロール先生は次元収納を探り始める。取り出されたのは干したアンズに似た鮮やかなオレンジ色をした干物だ。ほんのり漂う海の香りがそれがドライフルーツではないことを教えてくれる。
食べてみると独特な風味がする。好き嫌いが分かれるというか、コレ、多分食べる人を選ぶ
珍味だな。酒の肴と言われても微妙にエールとは合わない気もするしなぁ…。
(共)「駄目そうなら無理しなくていいからね」
(共)「ははは…これ、ボクは少し苦手かも」
(共)「これは古代エルフでも好き嫌いが分かれるからねぇ」
(共)「良かった、ボクが特殊なのかと思いました」
(共)「味もさることながら、見た目のせいで【海辺で魔松に寄生した死神の果実モドキ】とか呼ぶ輩もいるからね…」
あ……海のパイナップル的な(苦笑)
【魔海鞘】の火屋のランプに魔石を入れてみた。本当に小さい、極小サイズの魔石を入れただけなのに、【魔海鞘】ランプは間接照明的な暖色系に輝き始める。松明より明るいかもしれない。信じられない明るさの光を放っていた。
(共)「凄く明るいです」
(共)「火を使わないから坑道やダンジョン向けだよ。ただ重大な欠点があってね…、遮光が出来ない」
(共)「坑道ではいいですけど、ダンジョンの冒険者には不向きですね」
(共)「海辺だと、沖に出た舟に港を教える目印にも出来るよ」
(共)「凄い…。オロール先生、これ、ドワーフ相手に商売したらどうです?」
(共)「売れそうな相手を教えておくれ。それはそうと、この【魔海鞘】だけどね、外被が黒みがかった臙脂色じゃないか」
(共)「魅力的でもあり残念な色味ですよね」
(共)「上手く研磨してやるとその臙脂色を落とせるんだよ。ガラスと同様とまではいかないけどね、かなり透明には出来る」
(共)「まさか、それって!!」
(共)「ガラスランプの火屋の代用品になる。しかも魔石で光る仕様はそのままだよ」
ヤバい、【魔海鞘】を磨いてみたくなった。どうしてこうも鉱石以外に研磨欲を刺激してくる物が多いのか。
(共)「オロール先生、この【魔海鞘】火屋って、魔石以外を入れても大丈夫ですか?」
(共)「ん? どういう意味かな?」
(共)「あの、例えばなんですけど、スライムの死核とかを入れるという意味です」
(共)「魔力干渉しなければ大丈夫じゃないか? でもまた何故?」
(共)「いや、赤スライムの死核を魔石と一緒に入れたら赤い光になるかなー? …って思っただけです」
(共)「ミーシャは面白い娘だねぇ。もし赤く光ったらどうするんだい?」
(共)「世界樹ランプと称してエルフに売り付けてみようかと…」
ぶっ…… オロール先生が吹き出した。
(共)「ミーシャ、世界樹って!!」
(共)「前にボクがスライムの死核を磨いた時に、スライムの死核をアクセサリーに加工してエルフに売り付けたら面白いんじゃないかって話題が上がったんです。なので、内陸に住んでいるエルフにほんのり海辺の生臭さが漂う【魔海鞘】ランプに追加してみたら面白そうだな……って」
くっ……… っっ…… オロール先生は笑い声を押し殺してる。これ、ウケて…るのか?
(共)「面白い!! ネタとしてはかなり面白いよ。して、どう作る?」
(共)「魔松の柄の先端にスライムの死核を灯芯の様に取り付けて、【魔海鞘】の火屋を着脱可能な仕様で取り付け、その中に魔石を放り込もうかな…と。多分、【魔海鞘】の内側に直接魔石が接触することで魔力干渉が起こって火屋が発光していると思うので」
(共)「でも何で世界樹……。っっ…… ぷぷっ」
(共)「それはスライムの死核は植物の肥料になるので、世界樹も育てられますよ…って売り文句です」
「たんげ、おもしぇ!!」
訳:(超〜っっ、面白いよ!!)
久々にオロール先生の古代エルフ語を聞く事になった。めっちゃウケてるし…。
(共)「それは開発してみたらいいんじゃないか? もしかして調光出来る事になるかもしれないし。まぁ調光が無理でもインテリアにはいいんじゃないか? 七色に光るとか、ヒト族にもウケそうだよ」
余談だが、この【魔海鞘】の火屋にスライムの死核を組み込んだランプが、『ロマンチック・ランプ』と呼ばれてヒト族の人気商品になるのは、まだだいぶ先の話である。




