第2話 (3〜10)
その瞬間は突然に。
えー、俺は今、白い空間にいます。
浮いています。
……夢!? へっ!? ええっっ!!!!
やべーな、夢じゃなければ俺死んだ? 会社に連絡どうするよ。それより石だよ、石! 明日届く予定のパワーストーン原石セット、受け取れないんだけど。詰んだー。死んだー。
えっ、お前はもう死んでいる?
小一時間前は何時死んでもいいかーな人種でしたが、今なら言える。
「嫌だ、死にたくない! 死にたくない! 死にたくなーーい!!」
一頻り暴れると少し落ち着いた。よくよく見れば、空中から自分の死体を見下ろしてる訳でもないし?脚だってある。
もしかしなくても、これは夢なんじゃぁ……。
「美石屋敷 玄武様、この度は真にご愁傷様です」
そう語る機械的な女性の声が聞こえ、俺が抱いていた淡い期待は直ぐに粉々に打ち砕かれた。
「あのー、此処は何処で、貴女はどちら様でしょうか?」
恐る恐る尋ねてみた。俺の予想では、ここはラノベあるあるの転生準備部屋で目の前の女性は女神様とふむ。50ルピー賭けてもいい。
「ここは不慮の死を遂げた魂を救済する為の準備部屋です。そして私はサポートAIです」
ラノベ展開キター!!
えっ、女神様じゃない!? しかもAIって意外とハイテク仕様!?
「ANGEL IDEA 、頭文字を取ってAIと呼ばれています。あなた方人間が神と呼ぶ上位存在の意を伝え、不幸な魂が彷徨わないためのサポート係です」
AIさんと言うかエンジェルさんと言うか、この人、女神様じゃなくて只の誘導のお姉さんだったよ。
「美石屋敷様は先程、心不全からの転倒により頭部を座卓の角で強打。心停止に加え脳挫傷を併発いたしました。それにより上位存在は美石屋敷様の生命活動の停止を確認し、蘇生を断念。異世界に早期転生を選択させることにより、前世の記憶や転生先の世界の言語知識等といった十分な特典を利用出来る権利を供与する事にしました」
目の前のAIエンジェルは淡々と俺の死因と異世界転生を告げてくる。転生を選択させるって言ったな。選択しない自由もあるのか? しないとどうなる?
「あのぉ…、もし転生しない選択をしたとしますよ…」
恐る恐る尋ねる。
「今世での魂が消滅し、生命の洗濯(と書いて 輪廻の渦 と読む)に加わります。そのうち、何も知らないまっさらな魂に生まれ変わります。なお、転生先は不明となります」
マジか。これって記憶持ったまま転生した方がお得って事か!? それとも新手の転生転生詐欺か?
仕方ない、腹を括ろう。 さようなら日本。
まさか、『よいお年を!! また来世!!』ってネタをリアル体験出来るとは思わなかったでござるよ。俺のキャラ付け、どんなだよ。まぁ、ぶっちゃけ死んだし、もうどうでもいいでござる。転生先ではどんなキャラ付けにしようかニャ………、 キモいわ。
さぁ、転生だ。
先ずは異世界設定の確認をしよう。
「転生先の世界ですが、剣と魔法のファンタジー世界ですか? 科学と空想溢れるSF世界ですか? それとも、地球上の現代社会ですか?」
「剣と魔法の世界です。生前時の世界と初設定かけ離れている方が新しい人生もより楽しめるだろうと上位存在はお考えです」
はい、ファンタジー世界キター!! これはあれですね、前世知識を駆使してマヨネーズを布教したり、水洗トイレを設置したり、日式カレーを世に広めたり、食糧として価値の低いコメを大人気にしたりするテンプレ展開の臭いがプンプン丸っす。
「で、スキルとかレベルとか、アビリティとか、HPとかMPとか、ギフトとかチートスキルの空間収納とか、勇者とか魔王とか亜人がいるとか、ステータスオープンで画面が出て来て、冒険者ギルドのクラスがF級からS級まで……とか系ですか? それとも、攻撃魔法はあるけど回復魔法は期待出来ない蘇生魔法は当然ないという、魔法のある中世ヨーロッパ似な系だとか……?」
ファンタジーの字面に騙されるな俺。詰むから。
「前者の異世界ファンタジー設定バリバリの方です」
ヨッシャー!!勝った!! ラノベ知識と中二病的妄想思想を総動員出来るとは僥倖だ。待ってろエルフ、猫耳少女!!
「転生にあたり、キャラメイクはデフォルトとフルスクラッチ、どちらににいたしますか?デフォルトの場合ランダムセレクトもご利用出来ます」
マジでRPGだな。そこは勿論フルスクラッチだろ。デフォルトはまだしも、ランダム、お前はダメだ。リセット出来るゲームじゃないんだから、スキル、能力値、職業等がランダムセレクトされたキャラ縛りのドMプレイをする趣味なんてのは俺にはない。
「美石屋敷様は戦闘職と非戦闘職、どちらを選ばれますでしょうか?」
「生産職で!!」
そこは生産職の一択でしょ! 折角、異世界転生するのだから、そこは趣味の鉱石研磨をしながらスローライフする未来しかない。憧れの異世界スローライフだ。スローライフとか言ってるくせに開拓開発で忙殺されるラノベあるあるにはなりたくない。
えっ、これってフラグか!?
「では、生産系のキャラビルド画面に移行いたします。戦闘系に変更したいときは何時でもお申し付けください」
先ずはスキルから。『宝石研磨』くらいはあるだろう。宝石研摩に付随しそうなスキルを片っ端から選んでゆく。当然『鑑定』は必要。『魔石知識』、『鍛冶』、『装身具製作』、『採掘』は外せない。『精錬』、『魔法知識』、『魔道具作成』とかも欲しい…、どちらかと言えば『錬金術』に近い気がする。
「質問だ。ここに無いスキルって俺が言えば追加してもらえるのか?」
「スキルポイントを消費して作ることが出来ます」
あ、でたよスキルポイント。スキル取得に使うやつだ。でもあれだ、新規スキル作成にポイント使って、そのスキルを取得するのに更にポイントを消費しなきゃいけない。畜生、搾取してきやがる。
「ポイント足りねぇ……」
足元を見られてる気がするし。やりやがったな、上位存在。
「では、年齢や種族を変更してみてください。加齢や亜人等、初期状態に対して不利な設定に振れば対価としてポイントを得る事が出来ます。勿論、能力値をポイントに変換することも可能です」
ならば、初期状態の年齢(=十四歳)から四十歳に加齢して、種族をドワーフに変更。性別は女性で。敏捷度の数値も減らそう。
『石知識』、『砥石知識』のスキルを新規作成した。研磨には水が必要なので水魔法を取ろうとしたらドワーフの水魔法適性の低さに泣く。仕方がないので『汎用魔法』をセレクトした。土魔法は適性高いのに……。
女ドワーフにしたのには理由がある。先ずドワーフなら人間社会の貴族だ何だに振り回されないハズ。行った先に亜人差別があるかどうかは不明だが、少なくともエルフよりはチヤホヤされたり拉致されたりはしないだろうと思う。そして女ドワーフなら活躍したり目立ったりしたからといって王侯貴族の配偶者に選ばれたりしないんじゃないかなぁ…?そんな妄想故だ。酒臭い髭っ娘が好きな第一王子とか特殊性癖持ちがいたら別だが。ポイント入手のために加齢したといってもドワーフの40歳は人間なら20歳前後。どう見てもピチピチギャルだろ、これ。それに職人キャラの加齢補正は経験値上乗せに等しいのだよ。
そうだ、ギルド関係やら商売関係やら、宗教と回復関係、種族間のあれこれも確認しておかねば。ぶっちゃけドワーフだったら鉱石研磨の傍ら、自給自足で(スローライフには程遠そうだが)生きてはいけるんだろうが。だがしかし、折角、転生して初めての異世界暮らしを楽しむんだから、冒険者ギルドに登録してみたりダンジョン攻略とかもしてみたい。魔道具開発とかも実はちょっとだけ憧れてたりする。
「で、冒険者ギルドとか、宗教と神殿とか、生産・商売関係とか、魔導ギルドとか、錬金術ギルドとか……、亜人種とか魔族とか、魔物?モンスター?とか、そういった話はどうなってるものか。後、地理・歴史や言語等の転生先の世界の基礎知識も教えてほしい。」
そう、転生先で、しれーっと転生者と悟られぬ様に生きてゆく為には、その世界の基礎知識が標準装備でないと詰むからな。転生勇者とか祀り上げられるのだけは勘弁だ。
まぁ、生産職の女ドワーフが実は転生勇者で、無理矢理貴族にさせられ、更には王侯貴族の政略結婚相手に担ぎ上げられ……、悪役令嬢に嫉妬されて婚約破棄からの王都から追放されて、魔族領で歓迎されるよ王子ザマァ!……とか絶対ないから。
AIから種族、言語、宗教、動植物、魔物、魔族、職業、スキル、魔法、魔道具、錬金術、地理、歴史、国家……諸々が語られる。尋ねた手前大声で言えないけれど、ぶっちゃけ全部覚えるのが面倒くさい。絶対忘れる。メモ帳機能、マジで欲しい。
「……(中略)……と多岐にわたっておりますので、転生者にはお詫び特典としてスキル・『記録保管所』を差し上げることになっております」
やばっ、変なチートスキルきた。どうせだったら容量無視の不思議ポケットな空間収納をください。
種族=ドワーフ、性別=女、年齢=40歳。取得スキルは決まった。転生特典で『記録保管所』、『次元収納』、『異言語知識』を貰った。他にも様々な特典スキルが候補リストに載っていたが、下手に手を出すと勇者認定を喰らう可能性があったのでそこはスルー。スローライフの対極、転生勇者にだけはならない様に心掛けないといけない。
元々、亜人種は自分の種族の言語以外に全種族共通の公用語を使える。尤も、読み書き出来るかはまた別だが。個別種族の言語は必要性があれば覚える者もいるらしい。まぁ、商売とか恋愛とか、必要に迫られると覚えるってやつだな。各種ギルド職員は多言語習得が必須なんだとか。特殊な言語を習得したら給料に上乗せされるとのこと。今アツイ言語はムササビ獣人語とサメ獣人語なんだとか。
俺の貰った『異言語知識』は、知ってる言語なら見聞きすれば勝手に母国語変換してくれるとっても有り難い転生御用達チートスキルだ。日本語で文字を書いても勝手に異世界語にされちゃうんですって、奥さん。尤も、複数言語を操れる場合は基本をどの言語にするか決めておかないと混乱を招くことになるが。
鉱石磨きが趣味の辺境出身のドワーフっ娘が、ドワーフ族の多く住む地域『ネオ=ラグーン領』に憧れて出奔してきたことにする。ミーシャ四十歳、ボクっ娘。赤毛ツインテ、髭は編み込み。瞳=藍色、酒量=控え目(ドワーフ基準で)。
所有スキルは鉱石研磨に関わるものを中心に。採取採掘はしても討伐はしないスタンスで。一応、得意武器も決めておくかな…、そうだピッケル、ピッケルにしよう。採掘にも戦闘にも使えるバトル・ピッケルでどうだ。鍛冶と調理スキルは最低限でいいかな。地道に育てていけばよい。そのうち追加で関連スキルも生えてくるだろうし。錬金術は知識のみ。魔力の関係上、術式展開は無理だろうから。まぁ、拘りスキルで固めた、ある意味ドワーフらしい構成になったとは思う。
鉄板スキルの鑑定も取る。鑑定阻害も取らないと転生者だと身バレしちゃうと困るから、スキルポイントを使いたくなかったけど仕方なく取った。ぷるぷる、ボクは変なドワーフじゃないよ。
さて、そろそろこの白い空間から旅立つ時がきた様だ。心残りは部屋に置いてきた砥石類と明日届く予定だったパワーストーン原石詰め合わせセット。まぁ死んでしまったから仕方ない。
「AIさん、ありがとう。そろそろ旅立とうと思う」
「美石屋敷さん改めミーシャさん、準備はもう宜しいのですか?質問や心残りは御座いませんか?」
AIさん、可愛い。
「無いといえば嘘になるけど、まぁ仕方ない事だから」
嘘も何も、心残りが無いわけがない。未練タラタラだよ。転生話がなくても成仏出来ないやつだよ。
「もし、一つだけ生前世界から持ち込める物があると言われたら、美石屋敷様は何を選択いたしますか?」
へっ!? 最後に爆弾発言キター!! 悩む。悩む。考えろ、俺。
……、…………。
「質問していいか? もし、俺が剣と魔法の世界から別の同様な世界に転生するとする。その世界の俺は錬金術師で、先程同様、何か一つを持っていけると提案された、と。俺は錬金術の道具を持ち込みたいと考えているが、この場合、道具箱に一定の道具を纏めた錬金セットは許可できるのか、その中からたった一つ…例えば試験管一本のみ許可されるのか、その答えを知りたい」
この質問は賭けだ。
「そうですね、最低限の道具箱は許可されるかと思われます。剣士が愛用の業物の剣を一本持ち込むのと錬金術師が試験管一本を持ち込むのでは、天が許可したギフトとして同等ではないでしょうから」
「なるほど、ありがとう。だったら俺は砥石と工具の入った『道具箱』を持っていきたい」
そう言いながら俺は自室に残してきた道具箱を思い浮かべる。
「なるほど、それでそんな質問をしてきたのですね」
AIさんは苦笑いしながら俺の道具箱を召喚する。中を改めると、砥石一式、耐水ペーパー、ダイヤモンド鑢、奴床、鏨、ハンマー、油性ペン等々、作業に使う工具一式がキッチリ収まっていた。ありがとうAIさん、マジ有能。いやここは上位存在、マジ神!! が正解か。
「ちょっと待ってて…」
工具箱の中から俺は作業途中だった石を見つける。生前最後の仕事はルチルクォーツの手磨きだった。しかもハート型。石は磨き終わっていて後は市販のシルバーリボンで縁取りをして、ペンダントトップに加工してフリマアプリに画像をアップするだけだった。媚びたデザインは好きではないんだが、原石の形がハート型に適していたし、販売を考えたら一般ウケする形を選んだという。
長めに切られていたシルバーリボンをハート型のルチルクォーツに当て、上にきた余剰部分を纏めて捻って簡易的なバチ環にし、そこに革紐を通す。そして工具を仕舞い工具箱にロックをかける。
「AIさんにこれを。これは俺が最後に手掛けていた作品。工具じゃないから多分持ち込めないと思う」
そう言いながら俺はAIさんに完成したペンダントを手渡す。
「これを私に……!?」
「ルチルクォーツ、別名エンゼルヘアー。水晶の中に入っている金色のルチルがさながら天使の髪の毛みたいに見えるからそんな呼び名が付いたんだとか。AIさんって天使みたいだし。これは本当、俺のワガママなんだけど、受け取ってくれたら嬉しい」
AIさんにペンダントを手渡すと俺の姿がドワーフっ娘に変わってゆく。どうやらタイムリミットらしい。
「ありがとう。ボク、頑張っ……生き… て …く」
お礼の言葉が言い終わらないまま、俺は白い空間から吐き出されていった。
「美石屋敷さん、私なんかに……。転生者からプレゼントされるなんて、私、初めてなんですよ………」
一人残された空間で、AIは小さくそう呟いた。




