第193話
プリンが無いのは砂糖の流通量が関わっていそうだ。デンプンが量産されて水飴が流通したり、樹液由来のシロップが出回るようになったらメジャーになるかな? あと、普通の玉子焼きも無いの? だし巻き玉子じゃないよ。後は、温泉玉子に茶碗蒸し。勿論、卵かけご飯も存在していない。
「『薄焼き卵のクレープ巻』も食べよう。後、『ふわふわ焼き』も」
薄焼き卵のクレープ巻は読んだ字の通りで薄焼き卵で様々な具を包んて食べる料理。肉でも野菜でも好きなものを包む。俺の好みは薄焼き卵でレタスと溶かしバターの染み込んだ大麦パンと刻みトマトとピリ辛ソーセージを包んだ物。どうせなら茹でモヤシ、茹でササミ、刻みガリ少々を包んで胡麻ダレソースで食べるとか、海老アボカドとオレンジを包んで食べるとかしてみたいんだけどなぁ…。まぁ無いものは無いので今日は諦める。いつか自作してやる。
ふわふわ焼きは卵のスフレみたいな食べ物だった。デザートなのかオカズなのか不明。泡立てた卵を焼いたもので、ハチミツやハニーバターを着けて食べたらデザート風で、オニオンスープに浸したらメイン的なメニューになる。ホットミルクに浸して食べるのが髭無しに人気なんだそう。
気付いたらパイク=ラックさんが四つめの半熟玉子にフレッシュマヨネーズ添えを食べ終わっていた。やはりエールも冷やしたせいか注文のピッチが速い。グラスを返す前にパイクラックさんが温度調整して冷やしの証拠隠滅をしている辺り、お主も悪よのぅ…。
酔っ払いすぎないうちにパイク=ラックさんに質問をしなきゃ。その前に三人に昨日手に入れたコカコッコの蹴爪を披露した。下手に手を入れる前に意見を聞いておこうと思ったからね。
「これ、先日手に入れました。コカコッコの蹴爪です」
「コカコッコの蹴爪!?」
「ここが個室で良かったな。店主に見られたら 「是非とも売ってくれ」 とせがまれるぞ」
それはここが『コカコッコの祝福卵』料理の店だからか? 前世のスッポン料理屋さんがスッポンの甲羅を飾っているみたいな感じ?
「でも何でまたミーシャが蹴爪を持っておるんじゃ?」
「実は……」
先日の指名依頼の話をすると呆れられるやら納得されるやらで、「ミーシャらしい」と言われてしまった。
「薬に使うのでなければアクセサリーにして装備してしまえばいいぞ。効果は弱いが対毒装備だ。作業中に有毒ガスが出たり研磨中に有毒物質に曝露する事があるからな」
「でも、長さが気になるんです」
「それはこの辺りで切ってじゃな、先端は角や牙をアクセサリーにするときの様に加工するんじゃよ。根本の方は薬に回してもよいんじゃが、儂なら更に細かく輪切りにしてビーズ加工にするかのう」
「私は長さを生かして髪留めにするかな。ビーズなら髭飾りにしてもいいよね。ドワーフの冒険者なら欲しがりそう」
「そういえば三人の髭がお揃いじゃ」
「アリサに押し切られました」
「しかし、ミーシャは魔獣と縁があるがテイマー職は有してないのじゃよな?」
「はい、何故懐かれるのかボクにも分かりません」
「ほら、ミーシャちゃん可愛いから」
「可愛いくて魔獣に好かれるのなら、ボク以外にも懐きますよ」
「ユニコーンじゃあるまいし…か」
「そのうちまた懐かれそうじゃのぅ…」
パイク=ラックさん、それフラグだから!!
「コカコッコの蹴爪を研磨して整えてアクセサリーにすることにしました。これってボクがいきなり研磨しても大丈夫な素材ですか?」
「薬種にもなる系は特殊な前処理はしなくてよかったハズだぞ。心配なら学園に持ち込んで効果的な加工法を聞けばいい。俺も教わりに行きたいところだ……、あっ !」
あっ!? リンド=バーグさん、その間は何???
「リンド=バーグさん、どうかしましたか?」
「ラルフロ=レーンの奴がコカコッコの蹴爪を欲しがってたな…。欠片でいいらしいが」
なんだそっちか…、って、あまり関わりたくない気もする。
「またヒト族に売り付ける系ですかね?」
口直しに頼んだ卵スープは卵がたっぷり入っていて美味しかったけど、デンプンでトロミをつけたかき玉汁にしたら更に良いんじゃないか…等と考えてしまった。そして無性にニラ玉が食べたくなった。あ…異世界には玉子とじも無いのか。
フライド【茄子花芋】と【樹樹菜】と輪切りにしたソーセージに卵液を掛けて焼き上げたオムレツにマヨネーズとマスタードを添えるという結構ハードな料理が締めだった。スライスされた黒パンと、クリームチーズと生の卵黄と粉末にした【長胡椒】を混ぜたディップが出てきた。
名前が気になるので冗談半分で頼んでみた『髭卵』は、薄焼き卵を細切りにしたものだったよ。それ、前世だったら錦糸卵だよね。これ、甘酸っぱいタレを掛けて食べる料理なのか…。
「これは、ガルシア麺と合わせたらイケると思わないか?」
ブッ… パイク=ラックさんが吹いた。




